10 出陣
「どうして光の国なんかに?」
「どういった経緯でそこにいるのかはわからないけど、ラガーに確認を取ったからそこにいるのは確実だ」
「そんな……」
カルドが脱力して言う。
「フルドがいつ、何のためにそこに行ったのかわからない以上、とにかく急がないと手遅れになる。今から道具を渡すから、二十分……、いや、十五分以内にフルドを見つけ出してくれ」
タイダはそう言ってホールに入ると、すぐに持ち手のついた大きな横長の箱を両手に下げて戻ってきた。以前ホールを見た時に物を置いてあった様子はなかったが、どこにそんなものを置いてあったのだろう。
タイダはゆっくりと箱を床に置いた。
「まず始めに確認しておきたいんだけど……、カルド、君は光の国へ行くつもりなんだね?」
「もちろんです。双子の弟が死ぬかもしれないという時に、のうのうと待っているわけにいきません」
タイダはこくりと頷くと、カルドに小さな白い粒を四つ、手渡した。
「門をくぐる前に一つだけ飲むんだよ。四つのうち二つはフルドの分だ。……それからウエル」
タイダがウエルに向き直る。
「君は……どうする?」
「行くよ。どれくらい役に立つかはわからないけど、いないよりはましだろ」
ウエルが答えると、タイダはなぜか複雑そうな顔をした。
「……わかった。それじゃあどちらがフルドに会っても対応できるように、念のためウエルにもこの薬を渡しておこう」
ウエルの手のひらにも白い粒が二つ置かれた。行く時だけでなく、闇の国に戻ってくる時にも飲まなきゃいけないということらしい。この薬は闇人が光人になりたい時や、逆に光人が闇人になりたい時に使うものだそうで、一生の間で一人二錠までしか飲めない決まりになっているのだそうだ。
「ウエルはまだ国を固定していないからそれを飲む必要はないけど、その代わりピラーも使えない。だから、これを代わりに持って行ってほしい」
タイダはウエルに小さな無線機を手渡して軽く説明を加えると、今度はカルドに向き直り、ピラーを三段階目に進めた。ピラーの表面には太く、しかし薄い黒線で描かれたシンプルな模様が浮き出てきた。ずいぶん簡略化されているが、五つ目が描かれているところからして、ラガーをデフォルメしたものなのだろう。第三段階では番獣の絵が浮き出てくるようになっているようだ。
ピラーの段階を進めた後、タイダは時計を二つ取り出して手渡した。
「ねじはちゃんと巻いてあるし、時間も合わせてあるから、これを使うといい。今は十二時四十二分だから、五十七分までにはフルドを見つけないといけない」
ウエルとカルドがそれぞれ時計をつけたのを確認し、タイダは先ほど運んできた箱のそばにかがむと片方をそっと横に倒し、蓋を開けた。中には二本の剣が互い違いに収まっていた。二本ともほとんど同じような見た目をしているが、鞘の彫刻がわずかに違う。それはとても精巧に作られていて、ひとつひとつ眺めただけではただの模様にしかみえないのだが、鞘どうしを合わせると美しい竜の絵が現れるようになっていた。
もう一つの箱には、綺麗な金色の剣が収められていた。細身でシンプルな作りをしていて、それなりの人が身につければかなり引き立つのだろうということがわかる。
「この対になっている剣はカルドとフルドに。こっちの剣はウエル、君のだ」
タイダはまず対になった剣を取ってカルドに手渡し、次に細身の剣を取ってウエルにそっと差し出した。ウエルがそれを手のひらで受けると、タイダの視線がほんの一瞬だけわずかに揺れる。
「なるべくなら君を行かせたくなかったよ。だから、そういう方向に事を進めていく予定だったんだけど……、無理だった」
「行くのはわたしの意志なんだ、タイダが気にすることじゃない」
ウエルはきっぱりと言った。
「それに、人の役に立てるってなんだかすごく嬉しいんだ。だから、たとえこれで死んだとしても後悔はしないよ」
「ウエル……」
タイダが困ったように微笑む。ウエルはにっこりと笑った。
「さあ、あと十二分しか残ってないよ」
先ほど渡されたばかりの時計を確認して告げ、すぐに顔を上げる。
「今までは厄災の方が勝手にわたしのところに来ていたけど、わたしの方から厄災に飛び込んでいくのは初めてだ。……カルド、行こう。タイダ、光門まで案内して」
「ああ」
三人は急いで光門へと向かった。
光門に着くとタイダが門を開けた。光門は下手にくぐると死に関わるので、タイダの能力でしか開けられないようになっているそうだ。
「武器を渡したことで何となく察しがついてると思うけれど、光人たちが襲ってくる可能性は高い。……くれぐれも気をつけて、無理をしないようにしてくれ」
タイダはそう言って悔しそうな顔をした。
「本当は僕も行きたいんだけど、昨日の夜からほとんど明け方まで光の国にいたから、しばらく時間を置かないともう一度光の国に行くことはできないと思う。……すまない」
タイダがなぜ光の国に行っていたのかはわからないが、理由を言わないということはこの件とは無関係なんだろう。
「……大丈夫だ、みんなで無事に戻ってくる」
「必ずフルドを連れて戻ります」
それぞれがタイダに答え、ウエルとカルドは共に門をくぐる。
「……あ」
タイダが声を上げる。
「闇の国や光の国から通じている光門や闇門は、僕か光の番人にしか開けられないようになっているんだ! だからフルドは、光の番人と一緒にいる可能性が高いと思う!」




