8 開幕
「住民たちが心配だ、とにかく外へ出よう。ラガー」
タイダが声をかけると門が開いた。外からは門番、中からはラガーが開く仕組みになっているようだ。
外に出てウエルは呆然とする。最初に口を開いたのはフルドだった。
「これはひどい……。ホールの中に振動は伝わらないから僕らは気づかなかったけど、外はすごい揺れだったんだろうね……」
綺麗に並べられていたはずの家々はほぼ壊滅状態で、もはや統一感も何もなかった。
人々が叫び、壊れた家々の中から必死にはいずり出てきていた。ひどい有様だ。辺りには家が崩れた拍子に舞ったと思われる白い煙がもわもわと舞い、咳き込む人も多数いた。遠くの方では火が上がっているところもある。
しかしたった一棟だけ、どこも壊れた様子が見えず、異常なほど綺麗な家が存在していた。例の水色の家だ。
ウエルはちらりとタイダを見た。タイダもじっと水色の家の方向を見ていて、その表情は怒りに燃えていた。その鋭い空気感は、ホールで水色の家について質問をしようとしたときの比ではない。それよりも明らかに異質なものだった。
「……タイダ?」
声をかけてみるが、反応はない。聞こえてはいるはずだが、タイダはそれが聞こえなかったかのように振る舞い、話を進めていく。
「とりあえず死亡者がいないかどうか確認しよう。家の下に埋まっている者がいないかどうかもだ」
「タイダ」
ウエルはまた声をかけた。しかしそれでもタイダは答えない。
「フルド、カルド。君たちはまず火の手が上がっているところへ向かって火を消し止め、その後は各家々を回って身動きの取れない人を助けてあげてほしい。ウエル、君には家の下に埋まった人がいないか、大けがをした人はいないかの確認を中心に見回ってほしい」
「タイダ、あんたはどうする気なんだよ」
ウエルはついに声を張り上げた。これにはさすがのタイダも無視できない。
「……ウエル、僕は……」
「あんたがあの家に何をしに行くかは知らないけど、絶対いいことじゃないだろ! 今自分がどんな顔をしていたかわかってるのか?」
タイダがわからなそうな顔をしているので、ウエルはあきれとともに言葉を吐き出す。
「今にも人を殺しそうな顔だよ」
タイダは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐに穏やかな表情へと切り替えた。
「ごめんウエル、僕は大丈夫だから……。そうだ、心配なようなら一緒に行こう」
タイダがいかにも名案だという顔をしてみせる。
「フルド、カルド、申し訳ないけれど、二人で手分けして消火と見回りをやってくれるかい」
「あ、はいっ」
黙って成り行きを見守っていたカルドが慌てて答える。
「はい。では、行ってきます」
フルドがしっかりと返事をしてから走り去ると、それにつられるようにしてカルドも慌てて走り去っていった。
「……殺そうとまでは、思ってなかったよ」
五つの門のそば、水色の家の前まで行くと、不意にタイダが呟くように言葉をこぼした。
「ただ、思いっきり殴り飛ばしてやりたいとは、思ったけれど」
「……それならいいんだ。止めて悪かった」
ウエルの言葉にタイダは苦笑する。そしてノックもしないで、ずかずかと水色の家の中へ入って行った。ウエルが慌てて後へと続く。
「ディルバー、いるんだろ」
タイダが声を上げると、すぐさま返事が返ってきた。
「ああ、いるさ。なにせお前に行動制限をかけられているせいで、一日一時間程度しか外に出られないんだからね」
家の中はいろいろなものが散乱していて、歩くのは困難を要した。どの部屋も膝が埋もれるくらいに物が積み上げてある。
ディルバーは最も高い、胸ぐらいまで物が積み上げられたその上にいた。高価そうな椅子を器用に乗せ、肘をついた左の手のひらにあごを乗せながら、いかにも優雅そうに腰掛けている。
「あれは、お前がやったのか?」
タイダは怒りをあらわにして問いかけた。
「あれ?」
ディルバーはニヤニヤと笑いながら言葉の一部を繰り返す。
「からかうな。地震のことだ」
「ああ、『あれ』ね」
ディルバーは笑顔を崩さないまま答える。
「あれはねぇ、地震じゃないんだよ。衝撃波のようなものさ。確かに地面も揺れるけれど、こっちの方がずっと効率がいいんだよ。しかし、一度衝撃を与えただけでこの様だなんて、実に面白いねぇ」
ディルバーは愉快そうに笑みを深めた。全く悪びれていない。




