異世界へ迷い込んだ少年
異世界に迷いこんだっていう話はたくさん読んだ。
その先で王子様や王女様にあったりとか、伝説の勇者様になったりとか、その先はさまざまだが、迷い込んだ先にて理解者に出会い問題を解決していくという点はおおむね共通である。
主人公にとってはとてもありがたく、なくてはならない人たち。
何の問題もなく受け入れている。だが脇役にしかなれない存在。
ああ・・・。
目立たないけど、彼らはすごい人だったな・・・。
私はしみじみと感じた。
今目の前には、まさに迷い込んできた少年がいる。
少年はよくある小説のごとく登場した。
誰もいない場所が突然まばゆいばかりの光の玉ができあがり、その中から少年がおっこちたのである。
少年はいまだに目を覚まさない。
私は頭をかかえて座り込むしかなかった。
私にどうしろというのだ。一体・・・。
「じゃあココはサンマーナ公国じゃないということですか?じゃあ、サンマーナまで行くにはどうしたらいいのしょう?」
目を覚まし少年が聞いてきたのは、セオリーどおりの言葉。「ここは何処?」だった。それに対して日本と答えたのだが、やはりというか、返ってきた台詞は半ば予想どおりというものだった。
地球上にない国名を告げる。
やっぱり異世界の住人か。
現れ方から異質だったわけだし、これはもう確定としか思えない。
綺麗な少年。推定年齢は16ぐらいだろうか?
アッシュ系の髪と瞳。日本人みたいな黒色とは違う。茶色とも違う。グレー色。そして欧米系の顔立ちはとても美しい。
そんな異国風の彼の容姿から、流暢な日本語が聞こえてくると違和感がとてもすごい。それだけで顔を背ける、もしくは現実逃避をしたくなるというものである。
対して私は平凡な容姿で、頭も一般以下という何の才能もない25歳の社会人。10個近いぐらい年下なわけで、保護対象なのではあるのだが、いったい私に何ができるのであろう?
加えて私にはショタの趣味なんてないから、長くかかわりたい相手ではない。
「少年。それは無理。この世界にそんな名前の国はない。後、申し訳ないんだけど、少年の名前を聞いていいかな?名前がないと呼びにくい。」
激しいほどの人見知りの私は、端的に声をかける。
愛想もなんもないその言葉。
ああ、本当に申し訳ないとは思っている。
「はい。僕はユイド・R・クアンラールといいます。お姉さんは?」
私のぶきっちょな物言いに、ユイドは何もきにしなかったらしい。にこにこと笑顔をたたえ自己紹介をする。
「私は、坂上理麻という。理麻と呼んでくれればいい。」
「はい。わかりました。理麻さん。」
「ところで、ユイド君。やっぱり君はあれだ。王子様ってやつか?」
やっぱり物語の王道ってやつだったらそうだろう?とばかりに聞いてみた一言に彼は表情を大きく変えた。
「ええええええええ。なんで分かったんですか???」
神よ・・・。
どうしてこうも王道すぎるのだ?
仏教でもキリスト教も信じては居ないが私は神に問いかける。他に問いかける先はない。
物語の脇役とは本当にすごい。
主人公を導き、もしくは力になる。
私にそんな特別な人間ではない。さあ。この先どうしたらいいのだろう?
この世界では、魔王もいなければ魔法でさえ存在しない。
世界的危機といえば、戦争がおもいつくわけだが、一人の人間でどうにかなる問題でもない。
世界は勇者を求めていない。
科学では世界を渡る方法なんてものは開発されていないし、私がいきている間は確実に無理であろう。
さあ。これからどうしよう。
とりあえず、行き先の無いユイド少年を我が家へと招待するしかなさそうだった。
自分では力になれそうもない。せめて宿ぐらいは提供できるといいが・・・。
異世界迷い込みは、迷い込むからよいのであって、日本に迷い込んでくるには向いてない世界である。
私はそう結論づけた。
ついていく後ろで少年はにんまりと笑った。
魔法の力の無い世界。そんな世界が自分を召喚できるわけがない。だが、自分はこの世界に来た。迷い込んだのは事実である。
だが、その力の元は少年側の方から放たれている。
言い方を変えよう。
この世界が少年を呼んだわけではない。
少年の世界が、少年を外に飛ばしたのである。
少年の名前はユイドではない。サンマーナ公国の王子でもない。その存在はいるが、憎むべき敵である。少年がよく呼ばれた名前。それは「魔王」。
サンマーナ公国の王子ユイドをはじめとしたパーティに戦いでやぶれ、闇の神の力を借り世界を脱出した。それはたやすくなく、ほとんどの魔力を持っていかれると同時に自身の体も逆行してしまった。
無事到着した先で、早々に原住民に会ってしまい戸惑ったのだが、この世界の人間は理解が早く善意でみてくれた。単純すぎて笑いが出るほどだ。
さて、この世界の征服の足がかりとなる場所はどんなところだろうな。まずは成長と供に力を蓄えようじゃないか。