イジメ捜査 1
ここは警視庁ーー署刑事課強行犯係特別捜査係だ。警察官は、男性社会と言われるぐらい男性が多い。しかしこの強行犯係は逆で全員が女性だ。
この班は本当に特別で、殆どは、殺人や窃盗、強盗などの捜査に関わっているが、本来は別の捜査をしている。
「おはようございます。ハンチョウ。」
朝挨拶をして入ってきたのは、結城ケイト巡査部長だ。彼女は、真面目で堅いイメージがあるが、班ではナンバーツーで部下からも頼られる頼もしい班員だ。
「おはようございます。本日の掃除終わりました。」
元気よく入ってきたのは中野イツキ巡査だ。彼女は強行犯係の最年少、経験が浅い、優しすぎる、不運が多い、捜査ミスが多いが頼りになる末っ子だ。外から声が聞こえ始めた。
「本当今日は天気がいいね。」
「気温も丁度いいし。」
「こんな日ぐらい事件起こらなかったら良いのにな。」
この声は永尾ナツホ巡査部長、槙野ヒロキ巡査長、竹内ハルト巡査部長だ。竹内と永尾は初任課が同じ同期だ。竹内ハルト巡査部長はのんびりしていて刑事に思われないことが多いが、刑事としての勘は優れている。永尾ナツホ巡査部長は、男勝りの行動派。元鑑識課に配属されていた為、根拠を求めることが多い。槙野ヒロキ巡査長は、この班では一番運動神経がよく、逃げた犯人は必ず捕まっている。また、机も一番綺麗だ。
「ハンチョウ、結城さん、おはようございます。」
三人は、順番に挨拶をして席についた。
自分は、安積ミツキ、警部補でこの班の係長だ。この班は名前を見てのとおり女性なのに男性を思わせる名前のメンバーが多い。殆どのメンバーは、男の子と聞いていた親が、生まれる前に名前を付けてしまいこの形になってしまった。そのため小中高といじめを受けてきた。そんな世の中を変えたく自分達は警察官になった。この班は、いじめによる事件を解決するために結成された班だ。
「この班は、名前を少し変えて読んでいるけど、今の時代変なあだ名つける子供が増えてるんだよな。ヒーちゃんどう思う。」
「そうですよね。その人の行動、見た目、失敗、そんなあだ名をつける子供は増えてますね。」
その会話を聞いた時、心が痛んだ。過去がそうだったからだ。名前がーだった為、自己紹介では、必ず「この名前ですが女です。」と言っていた。しかし、最初は由来を聞く子もいたがそのうちクラスのリーダーが「男女」や、「女て言うのを証明してみろ。」と言われ始めた。いじめは、エスカレートしていき、小学校の頃はあだ名、中学校では女なのに「男の癖に髪なんか伸ばすなよ。」と言われ髪を切られた。高校は女子が少ない所に進学した。昔から警察官は憧れの存在だった。だから大学に行くために、全日制の学校に進学した。そこでは、やっぱり男子から、からかわれた。そのうち過去の嘘の噂が広まり、友達は遠ざかってしまった。それでも三年間頑張って卒業した。
「今も昔も変わらないな。」
「ハンチョウ、どうかしましたか。」
小声でつぶやいたはずが全員に聞こえてしまった。
「いや、何でもない。」
その時電話がなった。
「はい、強行犯特別捜査班。わかりました。お話を伺うので、お時間大丈夫ですか。わかりました。すぐ行きます。」
その電話は、中学校の娘がこの頃毎日泣いてたり、濡れて帰ってくるという事があったから、電話をしたそうだ。
「高校の子供のいじめ被害だ。ナカ一緒に来い。」
「わかりました。」
いじめ捜査は大抵二人で行う。電話の内容で誰がふさわしいか決める。ナカは過去、水をかけられる事が日常茶飯事状態だったと言う話を聞いた。自分も水をかけられ、更衣室で着替えている時に部屋を開けられた事がある。被害者の家に着いた。
「こんにちは、警視庁ーー署強行犯特別捜査の安積です。」
「ありがとうございます。どうぞ、入って下さい。」
今回の被害者は浅丘レオさん。高校二年生、クラスによる集団いじめ、部活でも噂でいじめられている。
「私、一度女の子の日に気付かなくて友達についてしまったのです。それがクラスの人に見られてから私は汚い物扱いされていて、決まって放課後に「汚い物は、水に流さないと」と言われ水をかけられたりしているのです。」
話を聴いていると、やっぱり腹が立ってくる。いじめは、やることがない時に起きる事が多い。
「クラスにもう一人いじめられている子がいるんです。昔から、私はその子を助けたいと思い、ずっと一緒にいたんです。その時から私は狙われていたんです。」
「酷すぎる、学校の名前と、いじめられている子の名前、中心核と思われる子の名前を教えて下さい。」
ナカが聴くとレオさんは酷く怯えていた。
「刑事さん、そんな事言ったら私なにされるかわかりません。怖いです。」
「大丈夫です。必ず私達がレオさんを守ります。それにいじめは犯罪です。」
ナカも頷き真っ直ぐにレオさんを見つめている。
「分かりました、刑事さんを信じます。」
レオさんはやっと微笑んでくれた。
「学校は、ーー高等学校、中心核と思われるのは、同じクラスの田中京子、いじめられているのは樹シオン君です。」
ナカはメモを取り、自分は詳しく話を聞いた。これから課長と相談し、学校に行き校長と話し合いをしないといけない。明日からどうするかも考えなければならない。
「ご協力ありがとうございました。それでは、失礼します。」
自分達は浅丘さんの家を出た。
「ナカ、どう思う、あの田中京子事」
「最低ですよね。自分も女のくせにって感じです。それに汚い物扱いって」
かなりーも腹立っている。とりあえず課長と相談、学校の先生にも報告しないといけない。この時間ならまだ先生達はいるはずだ。急いで署に戻った。
「課長、私とナカにーー高等学校の潜入捜査の指示をしてください。」
「分かった。指示をしよう。私もーー高等学校の校長と話をしよう。」
「ありがとうございます。」
明日から潜入捜査が認められた。レオさんやシオンさんを守るそう約束したから。
自分達は一度特別捜査室に戻った。他のメンバーに事情を説明した。やはりみんな気持ちが分かり、口々に呟いている。
「水をかけられ精神的に追い込まれているは、傷害罪。先生や親に言ったら何されるか分からないは、脅迫罪。完全に犯罪だな。」
ハルがそう言った。
「それに人を汚い物扱いした時点で、名誉毀損罪にも当たります。それにクラスの人に命令しているなら、それも脅迫ですね。」
「もしその田中京子が暴力を振るっていたら暴行罪です。」
「物が無くなったり、壊されていたら窃盗や器物損害にあたる。」
ハルもナツホもケイトも分かっている。
「でも、そんな事が起こっているのになんで先生達は動いてないんですかね。」
「昔、聞いた事があるんですけど、いじめを見つけた先生が注意したら、生徒が逆ギレして先生を攻めたってって話を聞きました。」
ヒロやナカの言うとうり先生が全く動いている気配が無い。
「安積、中野、中学校の校長と話ができて詳しく聴きだいそうだ。今から行けるか。」
校長は本気だと悟った。自分達は急いで高校へ向かった。
ナカの運転する車で高等学校に向かった。課長も一緒にだ。校長からは校長室に来て欲しいと言われている。
「失礼します。警視庁ーー署強行犯特別捜査班の安積です。」
「どうぞ、お入りください。」
自分達は許可を得て部屋の中に入った。
「わざわざありがとうございます、刑事さん。私はーー高等学校校長、筧卓雄と申します。刑事さんお名前は。」
「こちらは刑事課課長の永沼元課長、私は強行犯特別捜査の係長安積ミツキ、そして部下の中野イツキ巡査です。」
自分は順番に紹介をしていった。
「申し上げにくいですが、女性刑事ですよね。
やはり、そう聞かれた、簡単に説明すると解ってくれた。
「そうだったのですね。すみません、失礼な事を」
「気にしないで下さい。それで、明日からの事なんですが。」
明日からの潜入捜査の事を詳しく相談していると、誰かが来た。
「失礼します、花岡です。」
「花岡先生、入って下さい。」
「彼女は。」
「彼女は、二組の担任の先生です。」
担任の花岡陽葵先生は元気で明るい先生だ。いじめの事は気になっていたが、田中京子に遊んでいるだけと誤魔化されたそうだ。
「浅丘レオさん、田中京子さん、樹シオンさんについて教えて頂けますか。」
「はい。レオさんは正義感の強い女の子です。クラスで一人でいる子に話かけたり、困っている子を助けたりと言って優しい子です。京子さんは、正確には解りませんが、小学校の頃目を付けた子をいじめ続けて不登校にしたとか。シオンさんは優しい子なんです。でも時々、顔に痣があるんです。それで、クラスの子が、「何かに絡んでる」と言う嘘の噂を流しているんです。彼、幼い頃に両親が離婚し、父に育てられたと聞いてます。最近は新たな母親ができたとかという話ですが。」
ナカはメモを取り、課長は重々しく頷いている。
「安積さん中野さん明日から教育実習として二組の副担任に任命します。永沼さんよろしいですか。」
「わかりました。事件解決までお願いします。」
課長と校長が契約を交わし、自分達は職員室に移動した。そこで、校長に紹介していただき、着任が決まった。
「明日から二組の副担任を勤める特別捜査の安積ミツキ警部補、これからは道徳の授業に入ってもらいます。先生方くれぐれも先生と呼ぶようにしてください。」
他の先生方は返事をした。
「そしてこちらは同じ特別捜査の中野イツキ巡査、彼女も二組の副担任として入っていただきます。」
「わかりました。」
「二人には二組から目を離さないようにしてください。もし、そのような行為が視られたら、その時はお願いします。」
校長にそうお願いされた。自分達はいじめを無くすため刑事になったんだ。必ずこの学校からいじめを無くす。それにレオさんやシオンさんを助けるため。
その日は特別捜査室に戻った。明日の予定を確認し、準備をした。
「ハンチョウ、どうでしたーー高等学校は。」
「うん・・・。田中京子はかなり凶悪かもしれない。小学校の時からターゲットを決め不登校にさせたそうだ。」
机の周りにメンバーが集まった。
「もう一つ気になってな、樹シオン君の顔に痣があるそうだ。」
「それって、虐待を受けているって事ですか。」
ヒロがすぐ反応した。
「そこでだ槙野、シオン君の事を調べて欲しい。」
「自分がですか。」
「そうだ。明日は朝から私達は居ない。指示をする私とナカは高等学校、ヒロはシオン君の捜査、ナツホはその補助に入ってくれ。ケイトとはハルは田中京子の捜査とレオさんの登下校様子を見てくれ。」
「わかりました。」
それだけを伝え明日の用意をする事にした。