ドラゴンは叫んだ、お前を決して死なせはしない、と
迷い込んできたその少女は、我を恐れなかった。
かつて荒れ狂い、大陸の半分を滅ぼした伝説の悪竜――それが我だ。勇者に片翼を奪われ、山奥でゆっくりと死にゆく我を、しかし少女は可哀想だと抱きしめてくれた。我の指先よりも小さなその身体で、精一杯腕を広げて、抱きしめてくれた。その温もりの、なんとあたたかなことか。これほど心安らぐ温もりがあることを、どうして我は知らなんだのか。知恵も力も遥かに劣る人間からも、学ぶことはあると知った。
それから我は、乞われるままに話を聞かせた。昔の話、ほんの千年ほど昔の話だ。畑を作り、森を育て、海を乗りこなした、かつての人間たちの話。国が生まれ、争い、滅びゆく話。瞬きする間に全てが変わる、目まぐるしい物語を、少女は面白い、楽しい、と喜んでくれた。我も嬉しかった。
しかし、その日の少女は傷ついていた。我と会っていることを村人たちに咎められ、暴力を振るわれたのだという。我は怒りに震えたが、それどころではなかった。小さな少女は死にかけだった。我は叫んだ。
「お前を決して死なせはしない!」
我は自らの命を取り出し、少女に与えた。どうせあと百年も生きられぬ命、何が惜しいものか。おや、そういえば、人間は百年も生きられぬのだったな……まあ、よい――お前がまた笑えるのなら。
そして我は、安らかに目を閉じた。
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