お題『クリスマス』
雪が降る夜は昔を思い出す。葉巻に火を着けて、窓の外を見る。紫煙が立ち上ぼり、香りが広がる。
「もう、10年か」
口を突いて出た独り言は、虚しく反響すらせず消えていった。
10年前の今日。朝起きて、普段通りに顔を洗って身支度を整えた。雪の降る道を独り歩き、仕事場についたと思ったら、社員が集まってラジオの放送を聞いていた。
内容としては、この近くでアウトロー同士の衝突が発生し、死者も出たという。そのラジオを聞いて、俺は一人職場を抜け出した。路地裏に入り、誰もついてきていない事を確認して走る。不意に現れた地下への階段を下り、隠れ家的なバーへと入る。
「来たか」
どうやら最後だったらしい。既に集まった十数人は、身支度を始めていた。
「遅れた」
「安心しろよ、全員さっき来たばっかりだよ」
その言葉に安心しつつ、隠し扉を開く。棚に飾られたボトルの一本を手前に引くと、壁がスライドして銃が現れる。多種多様な銃を一通り点検していく。
点検を終えると、弾倉に弾を込める。劣化して使い物にならない弾もあったが、それは弾き出す。ロングコートに弾倉を詰め込み、帽子を被って銃を手に取る。目配せして、バーの駐車場に出る。
「アウトロー狩りだ、行くぞ!」
自警団『ニコラウス』は今宵、出撃する。この街の治安を守る、ロングコートに帽子がトレードマークの自警団。硝煙を纏い、善良なる市民の為に、悪を成敗する。
「静かに、静かにだ」
飾り気の無い、端から見れば何の変哲も無い一軒家。しかし、ここはアウトロー達の溜まり場で、しばしば警察が来ている場所でもあった。散弾銃を手にして、扉の前に二人が張り付く。合図を確認して、ノックする。中から返答があり、それに答える。
「警察だ。今日のアウトロー騒ぎで話が聞きたい」
調べはついている。この街にアウトロー集団は数あれど、ニュースになるほどの抗争が出来る集団は限られる。それが何処と何処が対立しているか。なんてものは情報屋を経由せずとも手に入る程に軽い情報である。
ドアが空いた瞬間に銃声がする。相手が撃ったんだ。運良く当たらずに済み、散弾が空けた張本人をグチャグチャにしたのを皮切りに、雪崩れ込む。
衝突した昨日の今日で襲撃に遭うなんて思っても無かったであろうソイツらは、然したる抵抗もないまま壊滅させられていった。壁に自警団『ニコラウス』とスプレーでデカデカと書き、また車に乗って逃げるように次へ向かう。
「次は?」
「15ブロック先のマンションだ」
「マンション?丸々一つ根城かよ」
「アリみてぇな奴等だ」
「なら、派手に行こうぜ」
数分後に目的地に着き、車内から機関銃を引っ張り出してサンルーフから雪の積もる天井に載せる。周りを見て、どいつもこいつも待ちきれないとばかりに白い息を吐いて笑ってやがった。
「準備は?」
「OK!」
機関銃の引き金を引いたのと同時に全員がマンションを銃撃する。窓は割れ、部屋の中にいた奴は蜂の巣になる。暫く撃ち続け、掃討の為に中へと突入する。
「くたばれ!」
先程の銃撃を命からがら逃げ延びた幸運な者に死をプレゼントする。窓から逃げようとすれば外で待機する機関銃に撃ち抜かれ、応戦しようとすれば壁ごと貫かれる。一方的な蹂躙、最上階まで制圧したとき、警察のサイレンが聞こえた。
「撤収だ!逃げるぞ!」
「ちょっと待て、これで……よし!」
ニコラウス。警察が到着するより早くバーへと逃げ帰る。やってる事は人殺しだから、自警団と言えど違法ではある。自警団の初仕事は、そんなものだった。
「ニコラウスに非常呼集、ギャングの抗争だ!」
いつしか街の自警団として認識されていったニコラウスは、今日も駆ける。
善良なる市民へ、届けるのは平和と安心というプレゼント。我々の名は、自警団『ニコラウス』