第6話:グダグダ案内計画
エタらないとか、アイデアはあるとかなんとか言っておきながらご覧の有様です
皆さん、仕事に失敗した時ってどんな面持ちでしょうか。
ワタシは割と冷や冷やでございます。
失敗とその後始末を繰り返していけば人は強くなるって本当なんでしょうか。
ウォール設営のダンジョンにて、ノイロゥが『暗示』で魔獣をけしかけつつ冒険者を誘導し、魔王を模したウォールがとどめを刺す。
ウォールの思い付きで始まったこのビジネスは、利益こそ莫大だったものの割と忙しかった。
ウォールが日々派手にやりつつ、一定数の冒険者を生かして帰したおかげでこのダンジョンや『ノイロゥ・ツァイラ』の知名度は派手に上がったのだろう。
来る日も来る日も正義感を胸に秘めたり高額報酬を夢見た冒険者がひっきりなしにやってくるのだ。
おかげで、本物のノイロゥが魔物の運用相性を間違えたりウォールへの冒険者来訪報告が決戦の直前になってしまったり。
ウォールも名乗りを間違えたりその前の戦闘の傷を癒しきれなかったりと出だしとしてはなかなか順調とは言い難い状況だった。
たまりかねたウォールが「週3日は休みにしよう!」と言いださなければいずれどこかで破綻していただろう。
その週3日の休み、ダンジョンには厳重に鍵をかけた上でウォールはノイロゥを抱えてどこかの街に飛ぶ。
さすがに魔族としてのウォールを現してしまった最初の街へは行けないが、それ以外でも割と楽しめるものではあるのだ。
どこかの屋台で食べるなり、どこかの劇を見に行くなり、冒険者ギルドに赴いてトレンドを探ったり。
ノイロゥもウォールも楽しむことは楽しむのだが、なぜかいつも主導権はウォールのもの。
ついでに上がった利益は宵越しの銭は持たぬとばかりにジャンジャン消費されていく。
あーだこーだと話かけつつ振り回していくウォールに、あまり自由にお金を使えないノイロゥが辟易としつつもこの日常は過ぎていく。
◇◇◇
そんな、何でもなく忙しい日々のうちの一コマでそれは起こった。
―――すた…、すた、すた…―――
―――「いやに暗い洞窟だな。だが、壁面が妙に整っている」
―――「ああ。だけど炭鉱っていうしちゃ場所がおかしいし、穴の作りも雑だなこりゃ」
(―――二人…?足音の感覚がもう少し多くないか?)
洞窟の影に潜り込み、息をひそめて休んでいたノイロゥが聞き取ったのは足音と、まずは男二人分の会話。一人はノイロゥよりは多少育った少年。もう一人はちょっとダミ声っぽい青年だろうか。
―――「勇者様も私も、光魔法が奥まで届かないなんて…、なんなのコレ…」
―――「…ちょいと待ちな嬢ちゃん、今なんつった」
(…あと一人いた?三人か…)
そこに一人の女の声が加わって計3人。
(―――よし、まずは小手調べだ。『行け』)
人数の把握が終わったことで今度は敵方の戦力を計るため、近場のそれなりの力を持った魔獣をけしかける。
おかしかったのはそこからだった。
―――「え?いやだから、光魔法で明かり取ってるのに全然奥まで届か――って、魔獣!」
―――「任せろ!っせやあ!!」
―――ずばん!どさっ!ぼと、ぼてっ。
―――…………
(え?)
少年の叫び声と大きな剣戟の一撃。それから肉や骨に該当する何かが地面に落ちた音。
先遣として派遣した魔獣がやられた、とノイロゥが認識したのは少し遅れてのこと。
この暗い洞窟の影からではあまりよく見えないが、どうやら相手の力量を見誤ったらしい。
先遣用の魔獣には、決して深追いはしないよう躾けたつもりなのにそれでも殺されたのはそういうことだ。
―――「勇者様大丈夫?ケガしてない?」
―――「ああ、大丈夫だ。回復するようなケガなんてないからな?麻酔しまおうな?」
次いでちらりと聞こえた会話から察するに、このパーティは回復魔法が使えるとのことだ。
これでは雑魚を大量にけしかけて消耗を誘っても失敗に終わってしまう。
(なら…)
そう思ったノイロゥは3人の足音に続いて影に潜んだノイロゥがついていく。
―――すたすた、すたすた
目当ての場所は、いわゆる二股に分かれた分岐点だ。このうちの右方向が玉座に続く道。
(『左だ。左に行こう』)
―――「左、行ってみようか」
―――「ええ、そうね」
ここで玉座とは別の方向にある強い魔物の巣窟に案内するべく『暗示』を行ったのだが。
―――「おい、ちょっと待ちなお二人さん」
きっかけを問うならば、それがいけなかった。
―――「どうしたキタネ?」
―――「アンタら、今なんか変な声聞こえなかったか?」
(…えっ?)
誘導通りに向かおうとした二人の足を制止した青年のダミ声。
―――「変な声って、どういう声よ?」
―――「なんつーか、『左だ。左行こう』みたいな感じのつーかなぁ…?」
―――「それって、今勇者様が思っていた事じゃないの?」
―――「フーム…。にしては。じゃあ勇者殿はどうしてそう思ったんだね?」
―――「そういえば、なんでだろうな…?」
―――「ちょっと、勇者様!?」
(…あれ?)
それに導かれるように己を振り返り始めた二人。
―――「それに見たまえよこの地面。ごまかすように真っ暗闇だが、右のほうが足跡多いではないかね?」
―――「…だけじゃないな。逆方向の足跡も少ないながらある。それも血の跡とか何かを引きずったような跡だ」
―――「左は…。どっちかっていうとこれ、魔獣の足跡のほうが多くないかしら?」
―――「フーム…、まさかな」
(まずい。これ)
暗示が理詰めで破られた。というか、暗示の効きが弱いやつが出てきたかもしれない。
これまで強弱様々な冒険者を相手に誘導役としての場数を踏んできたノイロゥだが、その誘導が効かない相手は初めてだ。
そんな初めての状況が幼いノイロゥの冷静さを損なわせた。
(まずい、まずい、何とかしなきゃ、おいお前ら『来い』!!)
慌てて巣窟で待機させていた魔獣たちを一斉にここに呼びつけた。
―――「!?何か来るわ!!」
―――ガウフッ!ガウ、ガウッ!
―――ピギィッ!
―――「またか!俺に任せろ!」
―――「あっ、ちょ待てお前!!」
――――――ゴウッ!!!
(うわぷッ!?)
影越しに感じる熱波の感覚。どうやら炎の魔法を派手にぶっぱなしたらしい。
ウォールが言うにはこんな洞穴で派手な炎を使うのは自殺行為である、とのことだったが。
―――「あのな。こんな狭いところで火の魔法直接使うなよな」
―――「なによ、魔物倒せてるし、こうして無事なんだからいいじゃない」
―――「俺が教えたからだからな?それ。嬢ちゃんと俺の魔法で周りの空気浄化したからなんだからな?」
―――「…ごめん」
―――「パーティも自分も巻き添えにしてちゃあ、勇者サマも教団サマもお里が知れるってな」
―――「……」
(やばい、やばいやばいやばい!)
どうやら今の大規模な炎魔法を行使したのにパーティは生きているらしい。オマケに一帯の魔物は全滅してしまった。
どう控えめに言ったってノイロゥにもう勝ち目はないも同然だ。
―――「ま、新人冒険家ならこんなもんかネ。それよりお二人さん、面白い挽回チャンスあるかもしれないぞ」
―――「へ?どういうこと?」
そうと決まったノイロゥの行動は早い
―――「嬢ちゃん言ってたよな?光魔法が奥まで届きづらいってさ。それってつまりは―――」
―――「―――なるほど!」
―――「そういうことね!」
(急げ!急げ!ああもうなんでボクの魔力はこんななんだ!)
影に潜んだまま、自分にできる最高速度で玉座の方角へ。それでもせいぜい自分の足で走る程度の速さしか出ない。
オマケにパニックを起こして魔力の流れが不安定な現状だ。ただでさえ速度はさらに遅くなってしまうわけで。
―――「『暴きの光』」
勇者と呼ばれた少年と、僧侶と呼ばれた少女。
二人の手が重なり、重なったところから光が漏れ出していく。
その光が二人の肌を透かすほどになったところでその手がほどかれる。
「うわっぷ!?」
すると、光に照らされた影は瞬く間に支配するべき場を失い。
影に潜んでいたはずのノイロゥ・ツァイラは下から弾き出される感覚を覚え。
「大変だよなあ?『暴きの光』を『影潜り』に当てたら影の形とかキャパとか関係なしに引っぺがされるんだもんなあ?」
「―――」
染められた暗闇が解かれ、少年と少女の光魔法に素直に照らされる洞穴。
弾き出された衝撃そのままに影に潜っていた少年は尻もちをつく。
「お前だよな?こいつらの光魔法を掻き消すぐらいの闇の魔力この辺に溢れさせてたのは?」
目の前には、なんだかよくわからないものが口元から突き出た鉄仮面をかぶった青年と、その後ろにそれぞれどこかきらびやかな鎧や法衣をまとった少年少女の二人。
ノイロゥ・ツァイラはついに、ターゲットの目の前にその姿を晒してしまった。
Tips: 勇者
教団の抱える鳴り物入りの戦士。病院にも負けない教団の収入源。装備は教団の借り物。
教団がしらみつぶしに探し当てた光魔法への適性を持つ子供は大体病院勤務の僧侶か魔族と戦うための勇者となる。
教団はこの勇者を地方の冒険者ギルドへ積極的に派遣し、寄付名目のちょっと割高な報酬と引き換えに確実な物事の解決に取り組む。
教団に仕事を盗られ、お金もカツカツになるのでギルドや冒険者としてはちょっとありがたくない存在。
教団で教育を受けた勇者は、いずれ起こる魔族との戦いのためあえて貧しい生活を送っている。
教団から脱走した勇者曰く、「ピンハネひどいし洗脳激しいし、まるでブラック企業だよ」