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忌み子の幻想放浪日記  作者: 一波栄
第2章:明るい魔族計画
12/17

第1話:魔族が山にやってきた

第2章の開幕です。

第1章みたいな書き溜めはあまりしておらず、あらすじみたいなの保有してる程度で

そこからちょいちょい勢いに乗せて書き出しているような状態ですね。

さすがにエタりはしないと思いますが、まあ近いうちに続きを出すようがんばうわなにをするやめ(ry

2018/10/24 21:35追記:時系列ミスってたので冒頭の不貞寝からの描写を修正

「―――ノイロォオオオオオオオォオオオオオ――――!!!!」


 響き渡る怨嗟の声。

 充満する毒ガスの中、開かないドアに拳を何度も何度も叩きつけ、そのどれもが失敗に終わる。

 相対していたはずの勇者一行は既に息絶えており、何人もの死体が部屋の中を転がっているはずだった。

 かすれていく意識の中、横に傾く景色とともに、ただ一人立ち上がった人間の男を俺は信じられない面持ちで見る。

「さってと、もうそろそろいいだろうかね。色々と回収せねば」

 一行の仲間だったはずの男。どこから出したのか、顔全てを覆うマスクをしたそいつは、まず俺の懐を探ってきた。

「フーム、魔族のプリンスは伊達ではないようだな。こいつは売れそうだ」

 俺のポケットを一通り探られるだけ探られたあと、最後に感じたのは俺の頭の角が折られる感触だった。

 ―――ああ、やっぱり人間はクソだったんですねお母さま―――


◇◇◇第2章:明るい魔族計画◇◇◇


 ―――平穏とは波風が立つことなく、静かにその人が暮らしていけるような状態のことを言う。そして、波風の立たない、何も起こらない状態というものは崩そうと思えばものすごくあっけなく崩れるものである。無論、立てた波風が及ぶ範囲が個人なのか、集落なのか。はたまた国か世界かは波風立てた大元にもよるがそれはさておき。


「お前、面白いやつだな…!?」


(退屈だったのは認めるけどさ…)


 今確実に言えることは、いきなり波風を立てられた状況であること。その波風の及ぶ範囲は魔族に足蹴にされている少年、ノイロゥ・ツァイラ個人であり。そしてこういうつかぬ事を考えたながらも、こういう形で退屈な平穏を崩されるのはさすがに望んでいなかったということだった。


 ―――1時間ぐらい前。


 鬱蒼とした木々。周囲は育つに任せた草木が生い茂り、だがしかしよく見ればごくごく一部分だけその木がなくなったかのような焦げ跡が目に付くような森。木漏れ日を頼りに何とか獣道をたどれば着くことのできるボロボロ小屋。

 その小屋の体を成しているかも怪しいトコロの中で、少年『ノイロゥ・ツァイラ』は眠っていた。


「んごぉ…、すぴぃ…」


 ただいま、彼は不貞寝をしている最中だ。

 腐肉と泥と黒く変色した血に彩られた小屋の惨状に似合わないきれいな毛布はついこの間まで通ってもらっていた女冒険者から貰った服を転用したものである。街に行けばいっぱい使えるというお金、剥ぎ取りがものすごくやりやすくなる金属製のナイフ。汚いだろうからと何着かもらった若干女物っぽくサイズが割とあってない服。どれもその女冒険者からもらったものである。お金やナイフはともかく、洋服はこの環境で泥にまみれてしまっているが、サイズが合わないのでそのまま毛布にしているというわけだ。


 閑話休題。


 その女冒険者はついこの間ノイロゥが寝坊したおかげで魔獣と死闘を繰り広げた挙句におしゃかになってしまった。そのせいで街に抜け出す計画も台無しになってしまったわけで、イライラからノイロゥは食事もほっぽりだして不貞寝を始めたというわけだ。


 「むにゃ。むにゃ。んー」


 初めの一日や二日目はすぐに寝付くこともできた。腹が減って目が覚めることもあったので、その時は適当に焼いてテーブルに置いておいた肉やら山菜やらをバリボリと雑に食べてはまた眠る日々。そんな惰眠をむさぼる日々のなんと快適なことか。

 だがこの3日目になってはなぜか寝付くことはできなかった。有体に言って寝すぎたので、体がもう睡眠は十分、となってしまったのだろう。そうなってはいくら発育中で眠り盛りの子供とはいっても朝という時刻もあり、わざとらしい寝言を上げてみるが眠気は一向にやってこない。頑張って目を閉じるが、昼も近いこの時間では屋根の隙間から漏れる光が邪魔をしてなかなか寝付かせてくれない。

 

 (だが、ボクは負けない…!)


 そのまま、何とかして寝付こうとするノイロゥ。手元にまだ散らかっている洋服があるのを認めると、それを目元に巻き付ける。


 ――――ファォォオオオォォォ・・・―――


 (うるっさいなあ…!)


 それでもまだ寝付くことができない。主に上の風音がうるさい。

 そのまま視界に頼らず、頭をまさぐってアイマスク代わりにした服にまだ余裕があることを認めると、余っていただろう袖の部分を耳に詰め込む。

 これで少しは音も遮断することができたので眠ることができると確信し、そのまま不貞寝を続行しようとノイロゥはさらに深く毛布代わりの洋服を被る。


 ―――ォォォォォオオオオオオアアアアアアア―――!!


 だが、その確信はだんだん近づいていくその風音とその元凶によって儚くも打ち崩されたのだった。


「―――あっはっはっは!!着いたぞ!ここが噂の山小屋か!」

 

 魔法で操った風を一心に蝙蝠のようでいて派手な爪に彩られた翼に受け、これまた派手な轟音とともに一人の魔族の子供が降り立つ。

 人間に作らせたと後に語る派手な意匠の、花と蔓の柄をした服を着て、褐色の肌とぼさぼさの銀髪と赤い2本角というこれまた派手なコントラストをした少年。


「では景気づけに一発!」


 少年が魔力を練りだすと、やはり派手に金色に輝く炎の玉をその手の上に。初めは小指の先ほどの大きさだったものが後に拳のほどに。それからしばらくするとその魔族の少年の頭のほどの大きさに膨れ上がり。


「せいやっ!!」

 そのままその光の魔力で増幅された火球は小屋に投げ入れられ。


「――――!!!」

 ―――ズドン―――!!!

 ―――というこれも派手な音を皮切りに、小屋は炸裂した。

 炸裂の威力自体は割と低いもので、ボロ屋の壁や屋根を周囲に、しかしせいぜい小屋の中で寝転がっていた少年の身長程度吹き飛ばすものであった。大体、あまり高高度を飛んでいない魔族の少年が近いのだ。あまり高威力に設定してものを吹き飛ばすと術者本人にも危害が及んでしまう。


「―――おわっ、ちっち、てっ!?」

 ともかく、中で寝ていたであろう少年にとって幸いだったのは、火球は威力自体そこまで高くないいわゆる『見掛け倒し』だったこと、爆発時の閃光や轟音を近くで浴びながら、眠っていた時のアイマスクと耳栓のおかげで共に障害を負うにまでは至らなかったこと。そして吹き飛ばされたおかげで崩落する小屋には巻き込まれないで済んだということだった。


 そのまま小屋に投げ出された少年、ノイロゥ。

 いったい何が起こったのか、視界と聴覚を塞いだままでは把握もままならないが、こういうのは絶対誰かが何かをやったに決まっている。

 そういうわけで。


「―――誰だ! 人がせっかく気持ちよく寝ようとしてたのに!!」


 と、開口一番。そうやって怒鳴るのを魔族の少年は面白いものを見る目で見つめていた。


「誰だ!とは失敬だな!俺はただこの周囲一帯の主として!景気づけに一発大きな花火を打ち込んだまでのことだ!」


 成り立たないコミュニケーション。だが、そのことを突っ込むものは本人含めて誰もいない。なぜなら。


「人の安眠妨害しやがって!誰だか知らんが許さないぞ!」

 顔に服を巻き付けたままのノイロゥはどちらかといえば、いきなりやってきた乱入者に怒鳴り散らすことを目的としており。


「というか、なんだお前! そんな恰好をして、前が見えてるのか! 趣味かそれは!」

 怒鳴り散らされたその声はふがふがといった声に変換するフィルターを通されたのでよく聞こえず、ある意味で困惑した魔族の少年はとりあえず煽ってみるがその声はノイロゥに届くことはないからだった。

 やがて、自分の格好に気付いたのか、ノイロゥはそのままアイマスクと耳栓代わりにしていた洋服をほどく。その様子を見届けた魔族の少年は風の魔法を解いてノイロゥの目の前に着地した。


「ボクはもう怒った! お前をケモノ以上にぼっこぼこにして殺してやる!」

 着地した魔族を見た瞬間、ノイロゥはたまたま近くに転がっていた木の槍を手に取る。


「―――あっはっはっはっは!なんだそれ、まるでなってないぞ!!」

 両方の手を逆手とし、その逆手で槍を持って振り上げたノイロゥ。そのまるで『今から貴方を刺しますよ。いいですね?』と身体で問いかけんばかりの姿勢を目にした魔族の少年はまずノイロゥを指さし、大笑いした。


「何をぉ!?」

 そのまま全身でノイロゥは槍を突き出す。だが当然、これから何をしようとしているのか、逆に何がその姿勢からはできないかを見て把握していた魔族の少年は首元に向けられた穂先を難なく紙一重でよける。


「そんなもの、目をつむったってよけられるさ!」

「―――!!」

 繰り出される挑発の言葉。よける側にしてみればこれは至極当然のこと。そのまま豪奢な上着のポケットに手を入れ、広げていた翼も上背に収まるサイズに折りたたみ。


「このっ!」

 ―――ひゅん!

 ―――よける。


「ふんっ!!」

 ―――ひゅん!

 ―――よける。


「ふぎぃっ!!」

 ―――ひょい。

 ―――、とよける。


「ふふっ」

「うあっ!?」

 ぱんっ、と小気味よい音が立ったと思うと5回目の攻撃を繰り出す前に、ノイロゥの顔に何かが当たったような感じがした。

 いわゆる風魔法の初級とされる空気弾。魔力で固めた空気の塊を任意のタイミングで弾けさせるものであり、どちらかといえばちょっとしたパーティ用の演出で使われる程度の簡易なものだが、風魔法を使えず、ゆえに関連することを何も知らなかったノイロゥには効果てきめんだった。


「おいおい、こんな初級魔法で倒れるとかなんなんだ!」

 手品程度の魔法を顔に受けてひっくり返ったノイロゥを見て魔族の少年はこれまた痛快そうにげらげらと笑い始める。もちろんそれを見たノイロゥが不愉快に思わないはずもなく。

 イライラした表情を隠さずに立ち上がったノイロゥを見て次はどんな様子を見せてくれるのか。初対面から玩具であるという認識を崩さず魔族の少年はこの後も何度も攻撃を紙一重でよけ続け、時折いたずら程度の魔法でノイロゥをひっくり返し。

 そんなお互いにとって無意味な時間が数十分は過ぎたころだった。


「なあ、さすがにネタ切れじゃないだろうな?」

 いくら面白い玩具といっても同じようにしか遊べないのなら、飽きが来るのも道理。目の前の人間の少年は何度も大振りをしてきたので疲労困憊の様子。


「ぜぇ、ぜぇ…」

 その様子では少しぐらい回復を待ってももう何もないだろう。そう思った魔族の少年がそろそろとどめを刺そうと思った時だった。


 人間の少年の口を動くのを見た。


―――『黙れ、むかつくんだよ、動くんじゃn―――』

「―――!?」


 途端に、頭の中で強烈な闇の魔力の気配とともに、強い声が響くような感覚を覚えた。


「―――っ!」

 ともすればすっと入り込みそうで、よくよく考えれば異物感の塊であったその感覚。それは完全に不意打ちだったが。


「っ、ははははははは―――!!!」

 魔族の少年はその魔法のことを知っていたのだった。


「お前、何で『暗示』なんか使えるんだ!?面白い!!」

「はぁ!?」

 一瞬ともとれるその時間。

 哄笑とともに詰め寄られたノイロゥはあまりにも予想外の反応に面食らう。そのまま、ノイロゥの『暗示』の魔法を出せる精一杯の光と雷の魔力をもって干渉してやり過ごし、詰め寄った魔族の少年はノイロゥの膝裏に足を引っかけ、同時に顔に当てた手を力いっぱい押し出す。


「うわっ!?」

 そのままノイロゥは仰向けに転ばされ、胸のあたりを踏みつけられる。


「お前、面白いやつだな…!?」

 面白いものを見た、感謝するといわんばかりに凄惨な笑顔を向けてくる魔族の少年。ここまで強い闇の力を持つ人間などいないわけではないがあまり見ないのだ。

 そのまま足蹴にした少年に対して問いかける。


「なあお前、このまま俺と一緒に天下を取る気はないか!?」

「……」

「俺はこれからこの山を拠点に名を上げる魔族、『ノイロゥ・ツァイラ』だ!」

「―――」

「お前のことは嬲った後に殺そうと思ったが気が変わった!」

「ぇ―――」

「『暗示』なんてやばい闇魔法を使えるんだ!それに他にもいろんな闇魔法教えてやる!だから、俺と友達に―――」

「ちょっと待て、ノイロゥはボクの名前だ!何でボクの名前を名乗ってる!?」

「―――」


―――一陣の風が吹きすさぶ。


 これは、山小屋の悪魔、『ノイロゥ・ツァイラ』と、彼の悪名を利用してなり上がろうとした魔族の少年『ウォール・エン・レリエッツ』の物語である。




Tips:光魔法

光、闇と称される特別な魔力のうちの片一方。正か負かでいえば正の方向の魔力。

『活力』『癒し』『暴く』『見せる』といった光や温かさ、エネルギーに関連しそうな概念をいくつか持つ。また、周囲の人間の信頼を得れば得るほど威力が上乗せされるという特質も持ち合わせる。

ちなみに、これに適性を示したからと言って闇が全く使えないわけではなく、逆もまた叱り。

悪魔系魔族がこれに適性を示す例は非常に珍しく、本章で登場するウォール・エン・レリエッツは道さえ踏み外さなければ実力主義かつ闇属性中心の悪魔族の中でかなりの上位の者として君臨できただろう。いつだってメタ張れる奴は強いのだ。

余談だが、人間社会では教団が独占しているため、もし仮に人間がどこぞの広場で光魔法を駆使すると僧侶か何かとして一躍有名になれる。そして使用者が未成年ならそのまま修道院に連れていかれ、成人なら教団から詐欺師として目を付けられるおまけつき。

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