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奏魂のキョウ~魂を紡ぐ者~  作者: しまなみ
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2 キイリス教会

 翌朝。

 ミツキとユラは教会に来ていた。


 教会は塔のように大きな建物だった。

 教会の前は朝早くだというのに信徒の群れでごった返してる。

 教会の中に入ると壁面には彫刻が施され、あちこちに石像が建ち並ぶ。

 一階の奥に大広間が見える。


 教会の広間を覗くと暑苦しい神官が、壇上で熱弁を振るっていた。

 聖堂へと辿り着くと信者達がずらりと座る。

 壇上を見ると、煌びやかな衣装を着た神官が弁舌を振るっていた。

「みなさん、祈りを世界に広めるのです!

 キイリス神は世界の根源と命を繋ぐ遠き神であり、慈悲に満たされた平和の神である!

 これに勝る神はいません! キイリス教を信じる者の魂は王者の魂である!

 位や栄誉などキイリス神の使命の前には無価値なのです!」

 歓声と拍手が教会内を包み込んだ。

 神官は続ける。

 ほんとかいな?

「信じる者は必ず幸福になります。

 世界に広まることで貧困も争いもない幸福な世界が訪れるでしょう!

 蔓延る紛い物の神を打ち倒し、民を救う戦いを実践しようではありませんか!

 あなた達は世界の平和を祈る崇高な者達だ。

 さぁ、その祈りを実践しましょう! この素晴らしいキイリス神のご神体に!」

 ――ゴーン。

 耳が痛くなるほど大きな音が聖堂に響く。

 思考が鈍る。

 言葉に従って、信徒はいっせいにご神体へと身体を向ける。

 そしてご神体に手を合わせ、拝む。


 ――ゴーン。ゴーン。


 ミツキは思わず耳を塞ぐ。

「ミツキ、こっちだよ……手続きするから」

 それを見て苦笑しながらユラが小声呼び、手招きする。

 広間と反対側にあるカウンターへと向かう。

 カウンターの対面には受付の神官が座っていた。


「ようこそキイリス教会へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「実はこの人のことなんですけど……」

 ユラはこれまでのことを説明した。

「なるほど、身元の手がかりもなし。……捜索願いもなしですか、これは困りましたね。身分証もないですし、このままでは密入者とみなし退去と罰金……場合によっては投獄ということになりますね。しかしキイリス神は慈悲深い神です。入信するなら大丈夫ですよ」

 入信することで身分証も発行されるらしい。

 身分証がないと港への出入りもできず、街での買い物も割高になるそうだ。

 どうやら入信するしかなさそうだ、ミツキは書類の手続きを進める。

「これはこれは、入信おめでとうございます。住む場所も教会内に手配致しますよ、その間お金も貸し付けましょう。条件が~……積立て……利子は……」

「住む場所なのですが……」

 ユラが神官の話を遮った。

 こちらをちらりと見て、

「家で預かろうと思うんですけど……それじゃダメですか?」

 と言った。

「え? いいの?」

「別に嫌ならいいけど……」

 こっちからお願いしたいくらいだ。

「かまいませんが……神の崇高な魂に長く触れられる素晴らしい条件でオススメですよ。等級も上がりやすくなるでしょう」

 神官はお面で貼り付けたような笑顔で言う。

 よくわからない言葉が出てきた。等級って何だろう。

 聞いてみることにした。

「あの、等級ってなんですか?」 

 神官の説明によると、信仰を学んだ度合いを表す成績のようなものらしい。

 一等級から七等級まであって等級が高いと色々と恩恵もあるようだ。

「勿論、信徒への功徳は平等なのですが……」

 と神官は付け加える。

「それで、どうなさいますか?」

 即決だった。


 身分証ができるまで少し時間がかかるらしい。

 ミツキの身分証ができるまでの間、街の中で時間を潰すことにした。

 教会を出てすぐの大通り。

 道に沿って商店が立ち並ぶ、街で一番賑いを見せる通りだ。

「でも本当によかったの?」

「神官の言うとおりにしてたら……教会からお金を借りたりして暮らすんだよ。殆ど教会から出られないんだよ? もし記憶が戻ったとき困るでしょう?」

 そういう措置を取るから街に浮浪者が殆どいないらしい。

「うん、それは確かに困るかも」

 ユラのおかげでどれだけの危機を免れたか……しみじみと実感する。

 しかしお金か……。

 お金がないと色々と困りそうだ。

 流石に今の状況は肩身が狭く感じるし、

「お金を稼ぐ方法ないかな?」

「身分証がないとね。お店をするには四等級以上と教会の許可がいるの。それにもう少し大人にならないとどこも雇ってくれないわ……二等級で物を店に買い取ってもらうことはできるけど微々たるものよ」

 なかなか大変そうだ。

「うーん、すぐには難しそうだね」

 とはいえお世話になりっぱなしで正直、心苦しいものがある。

 何か自分にできることはないか、ユラのためにできること。

 例えば、時折見せるどこか愁いを帯びた表情。感情を抑え込んだような表情。

 その表情を心からの笑顔に変える何か……何かないかと考え辺りを見回す。

 親子連れとすれ違う。

 お菓子を買い与えられた同じ年頃の子供が、満面の笑みを浮かべていた。

 これはお金がないので却下。

 視線の先、幸せそうな年上の男女二人組を見つけた。

 男性に抱き寄せられた女性は、一瞬目を丸くした後、花が咲いたような笑顔を見せる。

 これだ!


 真似して隣を歩くユラの肩に手を回し、ぎゅっと抱き寄せてみた。

「へっ!?」

 ユラは目を丸くして固まる。

 温くて柔らかくて……なんだかいい匂いがする。

「いい匂い」

「ちょっ……」

 思わずミツキの顔に笑顔が溢れる。

 きっとユラも笑顔になってくれ……、

「な……な、いきなりなにすんのよバカー!」

 くれなかった。

 ユラは顔を真っ赤にしてミツキの腕をふりほどき、とびすさる。

「ご……ごめん、ユラさんに笑って欲しくて」

 あれー?

「どうして! その考えからどうしてそうなったの!?」

 ミツキは視線の先にいる男女を指し示す。

 仲睦まじく寄り添って見つめ合う男女。なんか幸せそうだ。

「な……なに見てんのよ。あれは違うから、参考にならないから! というかあんなの見ちゃだめ!」

「そうなの?」

「そうなの!」

 おかんむりである。

「そ……それとなにが、い、いい匂いよっ! ミツキを家に住まわせるのは、ちょっと危険な気がしてきたっ!」

 それは困る、嫌だ。

「ごめんなさい、捨てないで!」

 ――ざわざわ。

 そこで、自分たちが周囲から注目を集めていることに気が付いた。


「い、いくよっ! ミツキ!」

 足早にその場を後にした。

 笑顔にはできなかったけど……感情を露わにして声を上げるユラに、これはこれで良いのではと思った。

 それを言うと怒られそうなので自分だけの秘密だ。

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