表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奏魂のキョウ~魂を紡ぐ者~  作者: しまなみ
2/10

プロローグ 2

 ルナソール王国の紋章は太陽と月の二つである。

 しかしなぜ月と太陽なのかは諸説あるが、はっきりしない。


 しかし、ルナソール王国には月に纏わる昔話が存在する。太陽に纏わる昔話が存在する。


 曰く、古くから人は月に幻想を抱いた。

 そしてある日。人は月夜で願い、歌った。

 それは儚い想い、明日に届けたい儚い夢。自分は見ることができない、未来の夢。

 月に託した。月に見届けて欲しいと願った。

 願いは月に届いた。そして悲しんだ。

 月は言う。

「共に行きましょう、私が路を灯す導になろうと」

 と手を差し伸べる。

 それを聞いて人々は微笑み、そして首を横に振る。

「いま願いは叶った。あなたこそが届けたい人だった、あなたこそが私達の夢であり、明日の暁だった」

 と返した。


 月は自分を見た。淡く光るその身体を。

 自分は月だ。


 月は一人で進む、託された想いを胸に進み続ける。

 

 そして見た。

 赤く焼ける水平線を、赤く焼ける地平線の向こうを。

 そして自分を見る。赤く眩しいその身体を。それは暁の光。

 月は太陽になっていた。


 ルナソール王国の月と太陽の紋。これと関係する話ではないかと言う人も多くいる。


 ――――――


 少年が逃げ込んだ建物の中。

 目の前にいるそれは、常人の二倍はあろうかという巨体。

 口には鋭い牙。猛獣のような顔に鎧のような甲殻の肌。

 それは、おとぎ話の中でしか見ないような怪物だった。

 突如現れた怪物には銃すらも対して効果はなく、一方的に蹂躙された人々の亡骸が辺りに散らばっている。辺りには動く者はもういない。

 残るは終に少年のみとなってしまった。

 猛獣のような顔に嘲笑うような笑みが浮かぶ。

 少年はその命を弄ばれていた。

 逃げ惑う少年をわざと死なない程度に蹴り飛ばし、投げ飛ばしと繰り返す。

 すでに少年の心は砕けかけている。風前の灯火――壁際に追い詰められ脱力……その場にへたり込んだ。

 怪物は間近で咆哮をあげるが、虚ろな目になった少年は身を震わす気力すら残っていない。

 そして最後の一撃――それは斧かハンマーか、強靱な腕を少年へと振り下ろした。


 ――壁が砕け砂塵が舞う。

 

 吠える怪物の腕は振り下ろす半ばで浮かぶ。不自然な角度で止まる怪物の腕。

「ガァァァ!」

 止めたのは細い指。腕を止めるは、白く細長い少女を思わせる美しい指だ。

 それは壁を破り少年との間に割り込んだ少女の手。

 瞳に暁の炎を灯した少女――キョウの姿がそこにはあった。


 ――――


 怪物は見下ろす――己の腕を受け止めた少女の姿。

 そして怪物は口を開く。

「ナンダ……キサマハ」

「それはこっちの台詞よ。言いなさい……あなたは何者? なぜ街の人を殺した?」

 少女の声が静かに響く。

 返答はない。

 返答の代わり、少女の頭を砕かんとする蹴りが飛ぶ。

 対して少女は身を横に捻りながら姿勢を低く――少女の頭上で風を切る音――同時に腰の捻りを乗せた足刀を片足に叩き込み、自重を支える足を蹴り飛ばされた倒れる怪物に追撃の後ろ回し蹴り。

 ――雷が落ちたかのような音に空気が震える。

 怪物はきりもみ回転しながら放物線を描き――落下。

 ボールのように転がり、地面に沈んだ。


 ――――


 キョウは少年へとかけ寄り、抱き起こす

 致命となる外傷はないようだ。

「大丈夫?」

 返事がない。

「う……ぁ……」 

 虚ろな目。言葉にならない呻き声。

「これは……」

 心が壊れかけている。

 そっと少年を横たえ、背後へと向き直る。 

「……頑丈だなぁー」

 そこにはよろめきながら立ち上がる怪物の姿。

「キッ、キサマ……化け物カッ!」

「……少なくともあなたに言われたくないわ。それであなたはどこの誰で目的はなに?」

 キョウは見据える――その怪物の内面を、魂の輝きを。

 それは歪だった。歪で不自然に大きくて。聞こえるのはノイズのような雑音。

「……魂を喰らった?」

「……ワカルノカ……本当ニ貴様ナニモノダ?」

 怪物の口に光が収束する。

 ――閃光。

「っ!?」

 キョウは横っ飛びで躱す。

 連続で放たれる光線。

 壁を蹴り、天井を蹴り、地を滑るように少女は躱す。

「ォノレ! チョコマカト!」

 キョウの腕に光が灯る。

 再び閃光が放たれる。

 キョウは怪物の放つ光線をその腕で弾き飛ばし――距離を詰める。

「あなたは私には勝てない……絶対に」

「……ソレハ認メルシカナサソウダ……だが」

 ニヤリ。

「キサマはそのガキを助けに来たんダロウ?」

 怪物が笑う。

 閃光が奔る――少年に向かって。

「ちっ」

 反転――割り込み光線を弾く。

 怪物は吼える。

「ガァァァァアアア!」

 魂を揺さぶるような咆哮。

 怪物が光りを纏い甲殻の身体がミシミシと軋み、腕が著しく膨張した。

「街ゴト消してクレルワ」

 広範囲に及ぶ攻撃が来る。

 このままでは少年は死んでしまう。

「……これしかないか」

 キョウの腕を纏う光が少年へと伝う。

 それは研ぎ澄まされた魂の輝き、壊れた心を癒やし、衝撃から少年を守るための光――。

 しかしこれでもまだ不安が残る。

 少年を物陰に横たえた。

 狂ったように笑いながら膨らんでいく怪物。甲殻がギシギシ軋んでいる。

「ヒャヒャヒャヒャッ! モウ何ヲシテモ遅イ」

 瞬時に怪物へと肉薄――怪物を掴む――跳躍!

「ナニ!? オノレ……離セッ!」

 一気に遥か上空へ……。

 直後、空気が震え大地が揺れる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ