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奏魂のキョウ~魂を紡ぐ者~  作者: しまなみ
1/10

プロローグ

工事中


 掲げる紋は月と太陽の紋。

 その国の名をルナソールという。

 王家ルナソールを柱にした王国である。

 その建国は古く、優に千年を超える時を紡ぐ国。その国の起源は定かではなく遙か昔からあり続ける。


 それだけに失伝したものも多い。

 それは何の遺跡なのか――何のための行事なのか?

 そんな形骸化して意味すら忘れられ、形だけが残ったものも多く存在する。


 それらは王家すらも断片的にしか把握できていない。

 

 栄枯盛衰――覇権国が生まれては消える、一瞬の夢のように……当然ルナソール国も滅亡の淵に幾度となく立たされた。

 それでも生き残った。それは正に奇跡ともいえる内容である。

 

 そういった奇跡について語るとき共通して言われることがある。


 真心を尊べ。物言わぬ物を大切にせよ……と。


 その心こそ力の源であり奇跡を呼び寄せたのだと。 

 それはルナソールの根幹にも纏わる国の魂だという。


 形骸化した物の中にもそれに連なる物があるという。


 ただの迷信か……それとも……。

 ともあれ時は移ろい世は流れ――火薬が生まれ、銃が生まれ、蒸気機関が生まれ……その中で延々と語り継がれる……不思議で不確かな話。

 

 ――――


 呼ぶ声が聞こえた。たくさんの声。

 どんどん大きくなる声。切実な声。

 それは強く未来を求める魂の叫び。


 それが彼女を呼んだ。

 その声が彼女を起こし、今彼女はここにいる。


 気が付けばここにいた。


 そこは瓦礫の山。

 瓦礫の隙間から生えた足。

 救いを……未来を……求めるかのように空へ伸ばされた手が、土色に染まり固まっている。

 それは手足が草木のように生える瓦礫の山。

 その光景を月明かりが冷たく照らす。

 青く白く照らされ、世界が凍ったようにも見える。


 それを見て少女は一人、立ち留まる。

 瞳を閉じてゆっくりと息を吐き出し、拳を強く握り締める。

 そして力を緩めた少女の拳が光を宿す。

 それは――空に浮かぶ月よりも月らしい――淡く柔らかく穏やかな光。

 それは魂の輝き。


 輝き照らされるは未来を求めた命の残り火。


 ふっと力を抜いて……少女は一人、耳を澄ませる。

 耳を澄ますと聞こえる――。

 聞こえるのは言葉にならない悲鳴。

 助けを求める声。

 誰かの無事を願う声。

 何かに抗う声。

 最後に思い浮かべた大切な物。

 それらは散った命が抱いた強烈な情念。


 それは亡くなった者たちが最後の刹那にまで抱いた強い想い――魂の記憶。

 死の間際だからこそ抱いた――確かな想い。


 その中を少女はゆっくりとした足取りで歩き出す――目を閉じたまま。

 一歩。

 風が吹く。大地を撫でるような優しい風。

 一歩。

 風が吹く。唸りを上げる強い風。

 聞こえてくる。

 それらに紛れる生者の声。

 それを少女の耳が捉えた。

「聞こえた」

 顔を上げ、遙か先を見定める。

 その瞳に灯る光は暁の如く。


 滅んだ街に降り立った不思議な少女。

 その名はキョウ・ルナソル――魂を紡ぐ者。

 

 

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