プロローグ
工事中
掲げる紋は月と太陽の紋。
その国の名をルナソールという。
王家ルナソールを柱にした王国である。
その建国は古く、優に千年を超える時を紡ぐ国。その国の起源は定かではなく遙か昔からあり続ける。
それだけに失伝したものも多い。
それは何の遺跡なのか――何のための行事なのか?
そんな形骸化して意味すら忘れられ、形だけが残ったものも多く存在する。
それらは王家すらも断片的にしか把握できていない。
栄枯盛衰――覇権国が生まれては消える、一瞬の夢のように……当然ルナソール国も滅亡の淵に幾度となく立たされた。
それでも生き残った。それは正に奇跡ともいえる内容である。
そういった奇跡について語るとき共通して言われることがある。
真心を尊べ。物言わぬ物を大切にせよ……と。
その心こそ力の源であり奇跡を呼び寄せたのだと。
それはルナソールの根幹にも纏わる国の魂だという。
形骸化した物の中にもそれに連なる物があるという。
ただの迷信か……それとも……。
ともあれ時は移ろい世は流れ――火薬が生まれ、銃が生まれ、蒸気機関が生まれ……その中で延々と語り継がれる……不思議で不確かな話。
――――
呼ぶ声が聞こえた。たくさんの声。
どんどん大きくなる声。切実な声。
それは強く未来を求める魂の叫び。
それが彼女を呼んだ。
その声が彼女を起こし、今彼女はここにいる。
気が付けばここにいた。
そこは瓦礫の山。
瓦礫の隙間から生えた足。
救いを……未来を……求めるかのように空へ伸ばされた手が、土色に染まり固まっている。
それは手足が草木のように生える瓦礫の山。
その光景を月明かりが冷たく照らす。
青く白く照らされ、世界が凍ったようにも見える。
それを見て少女は一人、立ち留まる。
瞳を閉じてゆっくりと息を吐き出し、拳を強く握り締める。
そして力を緩めた少女の拳が光を宿す。
それは――空に浮かぶ月よりも月らしい――淡く柔らかく穏やかな光。
それは魂の輝き。
輝き照らされるは未来を求めた命の残り火。
ふっと力を抜いて……少女は一人、耳を澄ませる。
耳を澄ますと聞こえる――。
聞こえるのは言葉にならない悲鳴。
助けを求める声。
誰かの無事を願う声。
何かに抗う声。
最後に思い浮かべた大切な物。
それらは散った命が抱いた強烈な情念。
それは亡くなった者たちが最後の刹那にまで抱いた強い想い――魂の記憶。
死の間際だからこそ抱いた――確かな想い。
その中を少女はゆっくりとした足取りで歩き出す――目を閉じたまま。
一歩。
風が吹く。大地を撫でるような優しい風。
一歩。
風が吹く。唸りを上げる強い風。
聞こえてくる。
それらに紛れる生者の声。
それを少女の耳が捉えた。
「聞こえた」
顔を上げ、遙か先を見定める。
その瞳に灯る光は暁の如く。
滅んだ街に降り立った不思議な少女。
その名はキョウ・ルナソル――魂を紡ぐ者。