商魂よ燃え上がれ
「ここが最近隆起した火山か………」
今日もまた亜花を連れてこの森の探索をしていた俺は、村人達が言っていた[カラドラス新山]に辿り着いた。カラドラス新山は今も増長を続ける新しい山だ。今の高さはざっと1600メートル。推測だとあと400メートルは伸びるらしい。
本当はこんなところ、美しくともなんともないから最終日に回る予定だったが、今はアップルヴァリィドの異常増殖に対する情報が欲しいから、[最近変化があったもの]を中心に探索することにしたのだ。
………観光目的での探索が、いつのまにかおかしなことになってるな………これだから勇者ってのは嫌なんだ。伸び伸びと休めないからな。
「けむりーー!!しゅぽぉーー!!」
そして案の定クソうるさい亜花………そういやここら辺には活火山は大量にあるが、煙立ち上らせてる山はなかったもんな。………興奮するのも仕方ないのか?
俺は山の鉱石を掴んで砕きながら観察をする。
ふむふむ………成層火山だな。綺麗な形の山になることだろう。あと1、2回噴火するかな?
「………さっさと登るか。」
「のぼるー!!のぼるのいえーい!!」
ダダン!!
俺達は飛び上がり、着地した瞬間に更に飛び上がり、山を駆け上っていく。
そして十数秒ほどで山頂に辿り着いた。
山頂から火口を覗くと、白色の煙が噴き上がり顔にブワッとまとわりついてくる。
コポコポと音を立てて吹き立つマグマ………ふむ、活火山らしいな。
火口を見終わったあと、俺はぐるっと周りを見渡す。
あるのは山ばっかりだ、これといって怪しいものは…………ん?
なんか森の中に変な塔があった。青色の……金属?で出来たこの自然ばっかりの大地に似つかわしくない人為的な塔が。
そういや村人達が「塔がある」的なこと言ってたな………いやいや、怪しぎるだろ。不釣り合いにもほどがある。
「おい亜花。次はあの塔に………」
「たい!!!」
ダン!!!
亜花が思いっきり地面を殴りつけた。
「……………」
「……………」
「………おい亜花、こんなことしたらお前」
「どぉぉおおおおんんん!!!!」
確信犯だなてめぇ!!!
俺は亜花を担いで全速力で山を下る!!
ドォオオオンン!!!!
そしてそのすぐ後を追うように噴火した火山!!
真っ白な煙と火山灰、岩石を立ち込めながらそれは勢い良く爆発する!!
ズゴゴゴゴゴゴ!!!!
マグマと灰混じりの土石流が山肌を削り取りながら追いかけてくる!!
あぁぁあああ!!!もぉぉおおおお!!!こんな奴拾わなかったら良かったわくそぉぉおお!!!
しかし、嬉しいことに火山流の速度よりも俺の方が圧倒的に上だ。捕まることはないだろう。ただ………
ドォオン!!ドォオン!!ドンドンドンドン!!!
飛び上がった大小様々の岩石が、重力にのってそれはまぁ当たったら骨折じゃ済まない速度で上から突っ込んでくる。
本当もう、ああ!!活火山に近づくのはやめような!!頂上付近で噴火したら大抵死ぬから!!いや、頂上付近じゃなくても火砕流に巻き込まれて死ぬから!!気をつけろよ!!
ゴォォオオオ!!!
高密度の暴風を自分の体を中心に発生させ、降り注ぐ全ての岩石を切り刻み空へと舞い上げた。
そしてあっという間に下山すると、そのまま俺はさっき頂上で見た人工物に向かった。
ここは人里から離れているし、火山自体の規模も小さい。さっきの風で火山噴出物のほとんどは粉砕したし、ガスは………まぁ、うん。ヤバくなったら俺が風で吹き飛ばせばいい。被害が広がらないことを予想した上での行動だ。
「おい亜花!!帰ったら説教だからな!!」
「せっきょうやだぁ!!」
やだぁじゃねぇよこらっ!!暴れんじゃねぇ!!
俺は暴れるあ花を片手にそのまま走り抜けた。
「うーん………なんだこれ。」
「やだやだぁ!!」
人工物に到着した俺は、亜花に暴れられたら困るから鎧を10体作り出して拘束し、人工物の調査を始めた。
触ってみると手のひらに広がる金属特有の冷たさ。
臭いを嗅いでみると何も臭わない。少し硫黄臭いのはここが火山地帯だからだろう。
………金属で出来たただの塔か?いや、それにしてはなんか異質だな……こんな火山にある時点でおかしいし、そもそもこの金属を見たことがない。鎧師であるこの俺が見たことない素材なんてなぁ………あいつでも呼んでみるか。
「おいスカラ、暇か。」
「忙しいわグレンちゃん。」
俺の親代りをしているスカラにテレパシーで交信を始めた。
「俺じゃイマイチわからない物が出てきた。お前に見てもらいたいんだが………」
「………そう言われると忙しくなくなっちゃうわね。良いわ、ちょっと見てあげる。」
俺が物理的に分からないことが出てくると大抵それは魔法とかの部類の事案だから、その魔法のエキスパートであるスカラを呼び出すとすんなりと解決することが多いのだ。
つーかあいつ学校の理事長兼校長なのになんで暇なんだよ。……助かるから文句は言わないが、仕事の大半を手下にでも押し付けてるんじゃないだろうな…………
パリーン……
スカラが空間を突き破ってここにきた。相変わらず派手好きなことで。
「お久しぶりグレンちゃん。2ヶ月ぶり?長いわねぇ。」
「大人になったらそれぐらい普通だろ。普通ってか短いぐらいだ。」
「そうねぇ………段々時の流れが早くなって行くわねぇ。そろそろ自分の時の流れを止める魔法でも使おうかしら。」
「………勿論そんなのないよな。」
「……………勿論よ。」
おい、なんだよその間は。
「しっかし硫黄臭い……大丈夫?ここら辺に溜まってないわよね。」
「溜まってたら今頃失明して死んでんだろ。………このバカが噴火させたんだよ。」
「むぅーー!!バカじゃない!!」
俺は鎧共に拘束されている亜花の頭をわしゃわしゃっとした。
「…………隠し子かしら?」
「隠し子作るほどの身分に見えるか?」
「そう言われるとそうね……」
「否定しろよ。紛いなりにも保護者だろうが。」
「うーー!!かたいたーい!!」
………しゃあねーか。
俺は拘束から解放してやった。
「こいつは亜花っていってな、この森で拾った危険なガキだ。一応勇者だからな、拾ってやったんだよ。」
「亜花ー!!僕亜花!!亜花や!!」
「ふーん………すっごくバカそう。」
「スッゲーバカだ。この年でほとんど何も知らないんだからな、バカ以外の称号は似合わねぇよ。」
「…………………」
元気にはしゃぐ亜花を、スカラはボンヤリと見つめていた。
「………どうした?」
「………昔のグレンちゃんにどことなく似てるなぁ、と。」
「………俺はここまでバカじゃなかったぞ。」
「私に戦いを挑んだ時点でバカなのに、自分の魔力も把握してないというんだから大馬鹿よ。なんだっけ、[俺の両手はなんでも切り刻むぜ!!]だっけ?」
「……………忘れろ。」
「ダメよ、お金をせびる時の切り札なんだから忘れてあげるわけないじゃない。」
………チッ、銭ゲバが。
「…………少し道を外したら、とことんまで落ちていってしまいそうな、そんな危なっかしさ………本当に、そこだけは昔のグレンちゃんにソックリね。」
スカラは亜花の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと微笑んでいた。目に灯る暖かな感情………俺は、まだあの感情を知らない。
「ちゃんと育ててあげなさい。道を間違えなければ、この子は凄い事になるわよ。」
「………俺みたいにか?」
「いいえ、あなた以上よ。なぜなら私の学校に入学させてあげるのだから!」
………また始まったよ。
「いいよ、学費クソ高いだろ。」
「何を言う。私の学校は凄いわよ。私のこの素晴らしい頭脳と経験知識をもって選び抜かれた知の巨匠達を教師として迎え入れてるの。豊富な知識だけじゃない、時には哲学的視点から物事を見つめ、[何故こうなのか][人としてどうあるべきか]までをみっちりと[ディベート]を持って考えさせるのよ。そしてなんと言っても入学した時に[その子専用の学習机と本棚]を特注で作ってあげる所とか素晴らしいと思わない?入学してから共に歩んで行く机と本棚………勉強すればするほど積もっていく裏紙、日が経つにつれて増えていく本…………ああ、卒業証書や卒業アルバムなんかよりもよっぽど記念になると思うのよ。」
「いや、知ってっから………」
何百回聞いたと思ってんだよその宣伝文句。
「学校の設備も最高なの。広くて常に綺麗な廊下、常に眩い室内、美味しい水だって毎日飲めるわ。美味しい食堂もあるし、本も所狭しと置いてあるの。必ず自分に合った一冊がそこにはあるのよ。………想像してみて、食堂で美味しい食べ物を食べながら、ゆっくりと本をめくるその情景を。常に光が灯っているから夜でも読み続けられるのよ………傍には美味しい飲み物。少し喉が乾いたらすぐに喉を潤せるのだもの………はぁ、最高ね。敷地面積も……………」
もうほとんど俺はスカラの話を聞いていなかった。
亜花と俺はやっぱり似ているんだな……目つきは全然違うし、顔の作りも全然違うのに………ふっ、俺も昔はこんな、歩く爆弾みたいに危なかしかったのだろうか。
……………俺なんかが世話してやれるのかな。
「………それに何と言っても目玉は校舎がピンクな所ね。素敵でしょ。」
「素敵じゃねーよ。」
うーん………このやり取りも何百回とやってるんだな。なんか時間をドブに捨ててるような気がしてきた…………
延々と続くスカラの宣伝文句を聞きながら、俺はボーっと空を見ていた。
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