竜巻的ドラム式洗濯機
川辺の木々をへし折りながら巨大な塊のように迫り来る津波。
「本当出鱈目かますなお前は!!!」
ビュゥォォオオオアアア!!!!
俺は台風を生み出し、降り注ぐ巨大なそれを巻き上げ切り刻みながら周りに吹き飛ばしいていく!!
………吹き飛ばしきれない!!こいつ、川底までエネルギーを浸透させて叩いた衝撃だけで巨大な川の水のほとんど全てを巻き込む渦潮を作り出しや、そして水面を叩いた反発エネルギーも増加させ、巨大な渦潮をもみ消すさらに巨大な水の塊を上流から無理矢理もってきやがった!!言ってしまえば川全体を使った水鉄砲だ。
ザップゥゥウンンン!!!
俺は波に飲まれた。
流石に第二類勇者とはいえ、川全ての水を一瞬で吹き飛ばすのは不可能に近い!!
………あいつの魔力、危険すぎるぞ。[結果を増幅させる]魔力………簡単にいえば[エネルギーの増幅]だ。腕を振ればその速さ以上の速度を作り出し、水を叩けばそれ以上の振動が生み出される。1から10を作り出す、完璧に現実の法則を無視した狂った魔力だ。………破壊しかできないこいつに持たせているのは危険すぎる!!さっさと止めないと!!
ゴボゴボゴボ!!!
しかし水量が多すぎて、俺の体が完璧に揉まれちまっている。水の中で生み出される無数の水流が俺をゴッチャゴチャとかき乱すのだ!!
ゴン!!!
それにこの鉄砲水に巻き込まれた大木や岩石やらが凄い勢いで飛んでくる!!それを裁くだけでも手一杯だ!!
どうする?もう1発さっきと同じ規模の魔力を放っても、さっきと同じことになるだけだ。
つってもこの水をどうにかしないといけないわけだし、向かってくる岩もまとめて対処できるのはやはり風で………そもそも瓦礫どもがあるせいで水流が複雑化しているのだ。やはり瓦礫もなんとかしないと………
…………ん?水流?……そうだな、簡単な突破口があるじゃないか。
ギュルルルルルルッ!!!!
俺の側の縦巻きの水流の動きが加速し始めた。
ギュルルルル!!!ギュルルっギュルルルルッ!!!!
それに一つだけではない。この水中にある水の渦が全て高速で回転を始めた。
水ってのは循環するものだ。[環]を作ろうとしてしまうのだ、性質的にな。俺はそれを風で加速させてやるだけ。それに喜ばしいことに、この水は大いに空気を混ぜ込んでいる。俺の風でも簡単に操れるのさ。
ギュゥゥゥウウウウウンンンン!!!!
巨大化していく複数の水を多く含んだ竜巻が、水中でいくつも合わさりさらに大きな竜巻へと変貌していく。速すぎて真っ黒に見えるその竜巻は、川の水を巻き上げ飲み込みながら、辺りに大量の水を撒き散らし遡上する。その大量に水を含み発散されていく姿は、巨大な水龍のようだ。
「解散!!!」
パァアンン!!!
襲いくる水を全て飲み干した竜巻を、俺は一瞬にして弾き飛ばした。
バシャバシャァ!!!
それによって各地に水が、桶で水を撒いたように飛んでいった。
かなりの質量弾の落下で各地に被害が出るかもしれないが………村の方には飛ばしていない。全部川上の方に飛ばした。そこには自然しかないから人身災害はないはずだ。
それにここは侵食作用で作り出された河岸段丘で、しかも大規模なものだ。相当巨大な凹面なのだ。いずれ飛ばされた水はこの地に戻り、また川の姿を取り戻せるだろう。
俺は僅かな水しか流れなくなってしまった川底に立ち上がり、亜花を探した。
「かいさん!!かいさん!!」
川辺に座って笑いながら俺の真似をしてやがる。
「……………」
「やだぁ!!あらうのやだぁ!!」
俺は魔力で、[水の魔力を操る鎧]を作り出し、亜花を後ろから羽交い締めに拘束しながら、水の魔力で徹底的に洗ってやった。
泣いて許してもらえると思ってんじゃねーぞ!?徹底的だからな!!血が出るまで洗うからなぁ!!!
「………………」
俺は亜花の後を歩いていた。
身体を洗ってから亜花は不機嫌になり、時折後ろを振り向き俺を睨みながら歩くようになった。まぁ、[黙れ]って言ったから睨んでるんだろうけどな。
「お前の家はどんな感じなんだ?」
「………ちっちゃい。」
家とちっちゃいは覚えてるのか………
「どれくらいだ。」
「これぐらい。」
亜花は両手を使って横幅と縦幅を表現した。
………縦は150センチ、横は160センチといったところか。結構小さいな。
「…………」
亜花は背中を指しながら無言で俺を見てくる。
「………どうした?」
「…………ピリピリ。」
……ピリピリ?
「ピリピリ!ピリピリ!!」
そして背中を指したまま[ピリピリ]を連呼し始めた。………ああ、俺の体拭きがちょっと強すぎて皮膚が痛んだのだろう。
「ピーリーピーリー!!」
「………そうか、大変だな。」
きっと味わったことがない感覚だから戸惑っているのだろう。……そうに違いない。俺に対して何か恨みがあるとは思えないからな。
「………ピリピリピリーー!!!」
亜花はそう叫びながら、俺に突っ込んできた!!
手は引っ掻くような形………俺にも同じのを味わえってか?
トンッ
俺は速度がのりきる前の亜花の右手首を掴んだ。
ダン!!
それでも確かにくるうちつけるような衝撃。……間違いない、こいつはエネルギーを増幅している。
「まぁ落ち着け。俺は仲良くしたいだけなんだ。」
「おちつく?……なかよく?」
「そうだ。」
ふぅー………
俺は息を思いっきり吐き出し、そして思いっきり吸い込んだ。
「これが落ち着く。んで、」
「ごめんな。」俺は亜花に謝った。
「これがなかよくだ。」
「おちつく、なかよく………スゥーー!!ふぅーー!!」
亜花が思いっきり息を吸い込むと一度に大量の空気が肺に流れ込み、亜花の肺が一気に膨れ上がった。
そして思いっきり吐き出すとその大量の空気が一度に吐き出され、地面の砂埃を巻き上げ小さなつむじ風を作り出す。
「ごめんな!!」
そうして謝った。
意味を理解しているかどうかは分からないが………まぁ、うん、大丈夫だろ。
「ピリピリ!!」
「いって!!」
やはり意味を理解してなかったなこのやろう。胸を引っ掻くんじゃねぇ。
それから小一時間、謝るということの意味を徹底的に体に叩き込んでやった。
「ここ!!家!!家!!」
夕方となり、茜空が映えるようになり始めた時、亜花が俺から離れて大はしゃぎで[自分の家]を指差した。
「…………ここがか?」
「そう!!ここ!!マイハウス!!」
だからなんでマイハウスは知ってんだよ。
亜花が指差していたのは、事前に情報を聞いていた家よりも幾分か小さくて、幾分か雑な作りのものだった。[板を立てただけ]といっても良いかもしれない。雨をしのげるかも分からない、家と呼ぶにはあまりにも不恰好な造りだ。
「…………」
自分の[家]の中に入ってはしゃぐ亜花とは対照的に、俺は黙ってそれを見つめていた。
………なんか、昔を思い出すな。両親を殺され、居場所を失い彷徨ってた時の隠れ蓑に良く似ている……………
「………つまんねぇな。」
「…………?」
「ん?ああ、なんでもない。………そうだ、これやるよ。」
俺が呟いた言葉に反応して亜花は首を傾げた。……意味を理解できてないだろうに……本当変なやつだ。
だから俺は話を晒すために、亜花の手に物を握らせた。
「………お前ならどう使う?」
俺が渡したのは鉛筆だ。Bの、先が尖っている六角形の普通の鉛筆。
亜花はそれを、不思議そうに見つめていた。
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