垢が!!出るまで!!擦るのをやめない!!
「こわれないー!!こわれない!!あっぷるぅううう!!!」
森の観光をやめ村に戻っている途中、ついてくるこの子供はやかましく大声を上げて騒ぎ続ける。
うっせーなーー…………
「………おい、うるさいぞ。」
「うるさい?うるさい?………うるさいうるさい!!!」
何が嬉しいのか「うるさい」と叫びながら、俺の周りを走り続ける子供。
あぁぁああ!!!喧しいなぁぁあ!!!
「黙れ。」
「だまれ?……だまれ…………だまーれー!!!だまれだまれ!!だまれ!!」
こいつ[黙れ]の意味も知らねーのかよ!?
「おーし、お前。」
ガシ
俺は騒いでうろつく子供の頭を掴んだ。
「………おまえ?」
子供は自分を指差しながら、首を傾けた。
「そうだ、おまえだ。いいかよく聞け。」
「よくきけよくきけ!!」
あー狂うなぁ………
「いいかぁ、これがな……」
あっはっはっはっ!!!!
俺は大声で笑った。腹の底から思いっきり声を出しながら笑った。
「[うるさい]だ。」
「うるさい!うるさい!」
あっはっはっはっ!!!!
俺に続いて子供が大きな声で笑う。やはり喧しいなぁ………
「そしてこれが………」
……………
俺は無言で子供を睨みつけた。少なからず芽生えつつある怒りをこめながら、睨みつけた。
「[だまる]だ。」
「だーまーるー!!だまーーるー!!………」
俺の真似をして、子供は俺を睨みつけてくる。……可愛い顔でやられてもなんの凄みもないな。
「おーし、オッケーだ。そのまま黙ってろ。」
「だまる!!」
俺のことをにらみ続ける子供を確認し、俺は歩き始めた。
あれ以来、こいつから攻撃されることはなくなっていた。確かに赤ちゃんの夜泣き並みに鬱陶しいのには変わりないが、それでも攻撃しないってのは良いことだ。
それにしても……「こわれない」か。なんでその言葉を知ってんだ?「うるさい」や「黙る」の方がずっとずっと使われてるだろ。そっちを理解できてない理由がわからない。……それにやはり、最初に攻撃してきたのが一番の気がかりだ。スキンシップ?………かもしれねぇな。
俺は後ろを振り向いた。そこには相変わらず、可愛い顔で俺を睨みつけてくる子供がいた。
…………まぁ、なんだ。風呂ぐらいにはいれてやるか。さすがに汚すぎるからな。……今もこうして黙ってられるんだから、村に連れてっても大丈夫だろ。
「むらー!!むらー!!むらむらー!!」
と思った俺がバカだった。村に到着してこいつ「これが村だ」と教えた途端暴れ始めやがった。
ああ、もう………こう暴れちまったらお前…………
「ひ、ひぃ!?悪魔が戻ってきた!?」
こうなるわなぁ…………
俺達が村に到着したことに気づいた村人が、叫びながら子供から距離を取り始めた。
ザワザワザワ………
そしてその悲鳴を聞いて集まり始めた村人達。全員、渋い顔で子供を見つめ、小さな声で何かを言い合っている。
………穏便にはいきそうにないな。
「悪魔が村に入るなぁ!!!」
ビュン!!
村人の1人が子供に向かって小石を投げた。
キャッチ!!
そしてそれを楽々と右手で捕まえてしまった子供。子供はニコニコと笑いながら、投げてきた方を見つめている。
………やめろバカ!!
「キャッチボール!!!」
ブン!!!
子供は足を思いっきり村人に向かって投げつけた!!!小石は、村人じゃどう頑張っても視認できない、ありえない速度で飛んでいる!!!あんなの村人に当たったら、貫通して後ろの村人3人ぐらいにも被害が及んじまうだろうが!!!
ガィィイインンン!!!!
俺は子供が石を投げるのと同時に射線上に駆け込み、脛当てを生成し小石を思いっきり蹴飛ばした!!!
メキメキメキッッ
小石が当たった箇所から、エネルギーが膨れ上がるように凹面と亀裂が広がっていく!!
バキン!!!
そして小手の時のように、脛当ては音を立てて破壊された。
「……………」
シーーン…………
周りが静かになった。村人には、今何が起こったのか分からないだろうが、それでも[子供が何かした]ってことは理解しているはず。そうなると……非常にまずい。
「………セパタクロ?」
なんでセパタクロはしってんだよ。
「………あれだ、みんなが何を考えているかぐらいはわかる。だがこいつを村に入れてやってくれ。俺が面倒みるから。」
村人達が騒ぎ出す前に、俺は交渉を始めた。なるべく慎重に、刺激しないようにゆったりとした口調でだ。
「今みたいに、こいつの行動は俺1人で全て止めることができる。みんなには絶対に危害を加えないと約束する。だから頼む。」
「………ダメだ。」
村の長と思われる男が1人、俺の前まで歩いてきた。
「なんでだ、危害は加えない。命をかけて約束する。」
「危害とかそういう話ではない。数多の我らが同士がこの亜花に殺され、怪我を負った。………把握しているだけでも49人、住人のほとんどだ。………彼を受け入れたら死んでいったもの、傷を負ったものに対しての侮辱となる。もう、[危害を加えない]とかの次元ではないのだ。」
村長らしき人は、汗をかきながら非常に辛い表情で語った。
………なるほどなぁ。……そいつは、仕方ない。
「………分かったよ。あんたらの言い分は最もだ。批判する気なんて一切起きない。しょうがないな。」
「………すまない。」
「謝る必要はないさ。あんたらの考えは正しいんだから。……世の中ってのはうまく折り合わないもんさ。こればっかりはしょうがない。」
俺は森を指差した。
「つーわけで、あれだ。俺はこいつと一緒に森に行く。そしてこいつの面倒を見てやる。村で出来ないのならそこでしか出来ないからな。」
「………本当に良いのか?見ず知らずのこんな子供を………」
「勇者だからな。………俺ら以外に誰がいるんだ?こんな問題児に手を差し伸べてやれる奴なんてさ。」
俺は亜花に森に行くように指差した。
「あ、でも俺の部屋は取っておいてくれ。たまに戻ってくるからさ。」
「………分かった。」
「おう、それじゃあまた。」
俺は村人達に手を振って亜花の後を追った。
「………良いんですか?村長。亜花をあの人に託してしまって。」
彼らが森に消えたのを確認し、近くにいた男が村長に耳打ちをした。
「亜花は悪魔だ。もしあの人に万が一のことがあったら…………」
「………私達に力がなかったから、亜花は悪魔と呼ばれるようになった。……だが、あの子はただ遊びたいだけなんだ。かなり力が強すぎるってだけで…………彼ならあの子を変えられる。私はそう思うよ。」
「………かもしれないですね。」
消えていった彼らの背中を、村人達はずっと見つめていた。
バシャーーン!!!
森に入って何十分か後、川を見つけた俺は鉄で作った桶で水を汲み亜花にそれをぶつけていた。
「お前きたねーから、一先ず体洗うぞ。」
「きたねー?きたねー?……きたねぇー?」
こんな言葉も知らんのか………先が思いやられるな。
俺は地面を掘り、湿った土を自分の腕に塗った。
「これが[きたねー]だ。」
「きたねー!!亜花きたねー!!」
「よーしよく言えたな。ほれ、プレゼントだ。」
バシャン!!!
俺は水を亜花の顔面にぶつけた。
「おっしゃ洗うぞ!!」
スカッ
タオルで体を拭こうと亜花を掴もうとしたら、あの小僧避けやがった。
「やだ!!あらうやだ!!」
「………やだ、だぁ?お前に拒否権なんてねんだよ!!」
スカスカっ!
俺が亜花を捕まえようとするたび、亜花は全裸状態で体をひねりながらかわす。
「やだ!!きょひけんある!!」
「ないね!!俺の前にいる時点でお前には人権なんてものは存在しないのさ!!大人しく洗われな!!」
バシャバシャと亜花は俺の追跡を逃れようと川の中へと進んでいく。
ふっ……バカめ。川の中ということはつまり、お前はすでに逃げ道を自分で絶ったということだ。観念しろこの野生児が。垢という垢を擦ってやるからな!
俺はジリジリと亜花との距離を詰める。
「や、やだっていったらやだぁあ!!」
バシャン!!!
亜花が川の中央で一際大きな力で川を叩いた。
バシャバシャバシャ!!!!
するとその叩いた部分から力が波動状に水面を走り、水中を海流でかき回し始めた。
縦巻きの渦は大きく膨れ上がり、水の流動が加速していく。膨張し巨大化していく海面。それはあっという間に高さが10メートルぐらいの津波となった。
………段々分かってきたぞ、こいつの魔力。………危険すぎるな。
バシャァアアンン!!!
夜空を完璧に覆い隠していた波が俺に降り注いだ。
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