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こわれない!!

ヒャヒャヒャヒュン!!!

「アップルゥゥウウウンン!!!」

「………チッ。」

泥炭の湖に辿り着くとすぐに、アップルヴァリィドの大群から熱烈な歓迎を受けた。

バチィン!!!

振り下ろされる腕を、右足を回転軸にした左足の蹴りでへし折る。

ビュォォオオオオンンン!!!

そしてその蹴りによる旋風を増幅させ、黒風でアップルを巻き込み切り刻みながら上空に吹き飛ばした。

「観光ぐらいゆっくりさせてくれよ!!」

パァン!!!

俺が両手を勢いよくぶつけると、その衝撃が暴風となって周囲の魔物や木々を真っ二つに切り裂いた。


「…………はぁ。」


俺はアップルヴァリィドの死骸が山積みにされた岸から、湖を見つめながら溜息を吐いた。

なんでここにもいんだよ………豊穣の丘ほどではないが、それでもこの数は多すぎる、異常だ。………こんなにいるんなら、村の人達も俺に教えてくれたらいいのに………あっ、当たり前にいるから希少価値が分からないのか。

プニっ

「……………」

地面にゴミのように捨てられた希少部位を踏んでしまった。

…………まぁ、家にたんまりあるから別に拾う必要ないか。放ったらかしにして動物達の餌にでもしよう。

泥炭の湖は、澄み切った緑色の水の下にヘドロが溜まっている泥炭湖だ。正式名称は[ファルシュ・エーヴィゲス・ミーア]。横文字ばかりで難しいな。

しかし良い場所じゃないか………朝食の後にこんな絶景が見れるなんて幸せもんだなぁ。


「……さて、次は[暁の洞穴]か。」


本当はのんびりと見ていたいのだが、まぁ、見ていたって「いいなぁ」って気持ちがわくだけだ。さっさと離れよう。

俺は目的地まで走った。



「アッププップルゥゥウウウウ!!!!」」

「なんだよ、あ?なんでいんだよ。」


グチャァ!!!


俺は襲ってきた奴の顔面を蹴飛ばした。

暁の洞穴に来たというのにアップルヴァリィドに襲われるっていうんだからなんか狂うよなぁ。


床に落ちている極上品を蹴飛ばしながら、俺は洞穴へと向かう。

暁の洞穴は、光の入射角の変化によって色を変異する洞穴だ。朝に真っ赤に燃え、ゆっくりと色が変わり昼間になると青へとなり、そして日暮れと共に赤へと戻る。曇りのない空のように、時の移ろいで色が変わるのだ。

こんな景色を生み出すことが出来るのはこの洞穴に多く含まれる鉱物のせいらしい。青と赤を遷移し続け、常に変わり続ける物………ふむ、いつか鎧に使うかもな。ちょっと採取しておくか。


ドゴォオンン!!!

洞穴の表面をぶん殴り、崩れた鉱物のカケラを自室に魔法で送った。


さて、それじゃあ次の場所に行こうか。



「アップルル……」

「うるせえ黙れ。」

「アップルン!!!」


次の目的地に来た途端、またも攻撃を受けたから、前蹴りを顔面に叩き込んでやった。


ベチャッ

肩にかかった希少部位。ダランと垂れ下がる弾力のあるそれは、今にも中身を破裂しそうに膨らんでいて………


「鬱陶しいはオラ。」


ベチャッ!!

地面に叩きつけた。恨みを込めて、まるで地面にゴキブリがいるかのように恨みを込めて叩きつけた。


………ちっ、なんだよ。アップルヴァリィド多すぎだろ。………[アップルヴァリィドの森]にでも名称変更するべきだな。あまりにも多すぎる。異常だ。

…………イラついてきたぞ。こんなゴリラ以上にいかつい化け物を見続けさせられるとかなんの拷問だよ。つーかなんだよリンゴの肉体って……ファンタジーじゃねーんだからもう出てくんな。見苦しいぞおら。


「アップル、アップップル………アッッップルルン。」

「アップ?アップ?……アッププゥゥ……プルン。」


全部倒したかと思ったら、少し離れたところから奴らの会話が聞こえてきた。

………声が可愛いのが余計イラつく。ゴジラもビックリな見た目してるくせにアニメ声してんじゃねーよ。

俺は舌打ちをしながら声がしてきた方に視線を向けた。


「あっぷるあっぷる!!あっぷる!!あっぷる!!」


………あー、最近視力が下がってきたようだ。ゴリラの群れの中で子供がはしゃいでる姿が見える。両手を上げて笑いながら、地団駄を踏んでいる。ボロボロの布切れを羽織り、身体中泥だらけだ。


俺は一回視線を逸らした後、もう一度アップルヴァリィド達に視線を向けた。


「あっぷるるん!!ぷるんぷるん!!」


ふむ、見間違いじゃないようだ。子供がはしゃいでやがる。

………迷子か?さすがにあのゴリラどもで放ったらかしはまずいよな。


「あっぷるん!!!」


ブワンッメシィイッッ………バキバキバキバキバキンンッッ!!!


子供がアップルヴァリィドを叩いた。子供には似つかわしくない速度と威力でだ。叩かれた部位は凹み、軋み、めり込み、魔物は吹き飛ばされ木々を何本もへし折り岩壁にぶつかってようやく止まった。


ピュゥー………

魔物の体から黄色い液体が漏らしながら、ピクピクと痙攣して横たわっている。


なん……魔力?魔力か?………12才いってないだろこいつ…………


「アップルルルゥゥウウウ!!!」


ドォォオオオンン!!!

仲間が倒されたことに激昂したのか、アップルヴァリィドが可愛らしい咆哮をあげながら巨大な拳で地面を砕いた!!

タンッ

しかし子供は魔物の腕にまとわりつくように体を捻らせ敵の攻撃をかわし、

バキン!!

両手でその腕をへし折った。


「あっぷるぅうう!!!」


スパン!!

笑いながら魔物の足を蹴り飛ばし体躯を空中にさらけだす。


グググ………

そして右拳を握りしめ腕を引き絞った。


ニコッ


「あっぷる!!!!」


ズボォオン!!!

子供の拳が魔物の体を突き抜けた。

魔物の体から吹き出す黄色の液体塗れになりながら、子供はニコニコと笑い腕を引っこ抜いた。

ずっと笑いながら敵を殺してやがる………狂ってるな。


グルッ

俺が見ていることに気づいたのか、子供は俺の方に勢いよく顔を向けた。笑顔のまま……楽しそうにだ。


「あっぷる!!!」


ダン!!!

子供が笑いながら俺に向かって突っ込んできた。

おいおい………見境ねーな。


ガィンン!!!

俺は小手を作り出し、右手で子供の攻撃を受け止めた。

……うん?そこまで威力は高くないな………


ベコベコベコベコッッ!!!

と思いきや攻撃を受け止めた小手が急激に音を立てながら凹んでいく!!

ザッ

子供は殴った腕を引きながら右足に力を込めた。


「あっっぷる!!!!」


ガィィイインンン!!!!

凹んでいた小手を更に、左手で殴りつけた!!!

メキメキメキメキ…………バキン!!!

な……小手が壊れた!?こいつ危険すぎるだろ!!!


タン!!!!

左手の掌底で子供の鳩尾を叩き木に叩きつけた!!!

小手を壊すだぁ?……なんの魔力だこいつ。

俺は壊れた小手のカケラを魔法で自室に飛ばしながら、倒れている子供を見つめる。

軽めとはいえ、鳩尾にクリーンヒットだ。当分は立てないだろ………


「こわれない!!!」


がばっ!!!

子供は笑いながら勢いよく上半身を起こした。


「こわれない!!こわれない!!こわれない!!」


壊れたように、「こわれない」と笑顔で言い続ける子供。

屈退ない笑顔から滲み出る狂気。なんら証拠はないが確信した。この子が村人が言っていた悪魔だと。

………こいつは狂ってるな。

俺は苦笑いしながら、全身で喜びを示す子供を見つめていた。

重要関連作品

狩虎とイリナが出会い始まった本編。まだまだ更新中→https://ncode.syosetu.com/n2411cs/

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

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