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鎧の墓

結局僕は、先生の言葉をよくわかっていなかった。壊し続けていた僕には分からなかった。破壊を楽しむ僕には分からなかった。………それ以外の選択肢を理解しようとしていなかったから、わかるわけがなかった。


「……………」


無数の墓が乱立する墓場。丸かったり四角かったり、変な形だったり、色々な形を持ったお墓が等間隔で並んでいる。死は常に人に対して平等だ。

そんな普通の墓場に、僕の身長以上に大きなお墓が建っている。その傍に置かれた小さな小さな鎧の破片。グレン……僕の先生のお墓が、そこに建っていた。

カースクルセイドと勇者領の戦争で、僕をかばって死んでしまった先生は、最初はみんなの尊敬の的だった。しかし、戦争の指揮をとり、勇者領をヒッチャカメッチャカ引っ掻き回した魔王である狩虎(かこ)お兄さんを、勇者領内部に手引きしたことが発覚した瞬間、勇者領内部で反感が膨れ上がってしまい、先生への賞賛が消えてしまった………かに見えた。


亜花(あわな)君、久しぶり。」


狩虎お兄さんが奥からヌッと出てきた。

………先生への批判の声は、1週間もしないうちにパッタリと消えてしまった。どうやら、裏から誰かが根回しをしたらしい。[強力なコネと力]を使って無理矢理批判を押さえ込み、ここまで大きなお墓を建てさせたそうだ。噂によると、批判をしていた人が住んでいる地域に雷雲が立ち込め、災害警報が出たとか出なかったとか……


「久しぶり、お兄さん。」


僕はお墓の前で座りながら、お兄さんに返事した。


「大丈夫なの?勇者領に来ちゃって。」

「あーまー慶次(けいじ)さんに話はつけてるから大丈夫だよ。………バレなきゃ。」

「……………」


………絶対ダメなやつでしょそれ。


「まぁ、勇者領なんてどうでもいいだろ、通さなきゃいけない正しさってのがある。……グレンさんが死んだのは俺の責任だからな。顔ぐらい出さなきゃ、さ。」

「………お兄さんのせいじゃないよ、僕のせいだ。僕がちゃんと先生の言葉を理解しようとしていれば……」


人を助けるってことを本気で考えていれば、日頃から考え抜いていれば、あんなことにはならなかったんだ。僕とお兄さんの2人であの場を脱出するのも簡単で…………


「…………こんなんだったんだろうなぁ、俺も。」


そう言うと、お兄さんは僕の隣に座った。

赤と青色の鎧が、陽の光に当たって眩ゆく輝いた。勇者であり、魔族であり……飯田狩虎そのものを証明する唯一の現物だ。………先生が創り出した鎧が、先生の墓と共に光り輝いているように見えた。


「あの時はそうだったかもしれない。でももう、君はグレンさんの言葉を理解したじゃないか。自分を責める必要はないんだぜ。」

「………僕はまだ……」


戦争が終わりある程度心の整理がつき、立ち直ろうとした時、僕は何をすれば良いのか一切わからなかった。立ち上がろうとした足は止まり、唖然と立ち尽くすことしかできなかった。先生の言葉を理解していれば、あの人の意志さえ継ぐことが出来ていれば、こんなことにはならなかったはずなんだ。

僕はまだ理解できていない。正しいことを、僕はまだ自分の言葉として言えずにいる。僕の目の前の墓がとても大きく見える。


「…………正しい人間ってさ、多分この世にはいないと思うんだ。」


お兄さんは目を細め墓を見ながら言ってきた。


「人間ってたくさんいてさ、考えってたくさんあってさ、そして筋を通さなきゃ理解してもらえない。……真っ直ぐじゃなきゃ、人に認めてもらえない。そんなのおかしいだろ?世界は変わるのにだぜ?」

「………でも、正しいことを常に言える人は凄いと思うよ。僕は出来ないし。」

「一本ならな。……言ったろ?人間はたくさんいる。筋の通った正しさは何本も存在している。だから、沢山の一本線が[正]にはある。正しさは常に別の正しさとぶつかり合うもんだ。」


でも……それでも………僕がしてきたことは間違いなく…………


「でも、君が感じている責任。それって実は凄いことなんだぜ。知ってた?」

「………責任なんて誰でも感じられるよ。他人を馬鹿にするようなクソ野郎だって感じることができる。」

「おっと、俺のことかな?ハッハッハッ、痛いなぁ……」


お兄さんが意味もなく人を馬鹿にしているところなんて見たことないけどなぁ………この人はなんでこういうところで下卑るのだろうか。


「……他人から受け取った責任を、しっかりと自分で受け止めようとする。それは紛れもなく、誰もが満場一致で[凄い]と言う事なんだぜ。」

「…………どうかな、誰だってできるよ。僕だってでき」

「グレンの全てを受け止めようだなんて誰もができる事じゃねぇよ。俺じゃ無理だ。」

「…………でも!」

「鎧師グレンだろ?お前の言葉全ては。」

「っっ!!」


なんでこう……この人はこんなにも痛い所をついてくるんだ………

僕は絶句し、固まって動けなくなってしまった。僕の今悩んでいる部分を、答えを出せないでいる部分を的確に指摘してきたからだ。


「………………」

「迷うのはしょうがねぇさ。悩むのもどうしようもない。凹むのも道理さ。葛藤は限界の枕元にある。限界は責任の先にある。それじゃあ責任の前は?………1つは弱さ。そしてもう1つは………[正しく在ろうとする姿]さ。ウジウジし続ければ良いんだ、それは素晴らしい道程の1つなんだから。」


お兄さんは右側をチラッとだけ見た後、また優しい目つきに戻った。


「まだまだ成長してるんだよ、亜花君は。今はグレンの全てが分からなくても、迷い続けても、いつかはきっとすべてわかる日がくるんじゃないかな。あれほどの責任を負う覚悟があるのなら、君ならきっと出来る。俺はそう信じてるよ。」


お兄さんは立ち上がり、お墓をしっかりと見据え、深く息を吐いた。


「……………」

「………あのさ…………」

「…………?」

「…………いや、やっぱいいや。」

「………………」

「………やりたいことやればいいんだ。それが多分……俺なんかが言っても響かねぇか。忘れてくれ。」


…………言ってることはわかる。でも、僕は納得が出来ない。自分が正しいなんてとてもじゃないが思えない。先生の跡を継げるのか僕は…………


「グレンとの挨拶も済ませたし、俺は帰るわ。勇者領にいるのがバレたらヤバイしな。」


やっぱりここにいるのヤバイんじゃないか……

お兄さんはスタスタと歩き去っていく。


「それに、後処理やらやりたいことやらで忙しいんだ。………まっ、困ったら連絡くれよな、話ぐらいは聞いてあげるよ。………見つかるといいね。」


そして、墓の影に姿を消した。


「後処理?………なんかやってるんだろうか。」


あの人のことだから色々な事をやらかしてそうだけれど………いや、今は僕のこの悩みを解決するのが先だ。お兄さんには悪いけれど、構ってられるほどの余裕は僕にはない。


「…………どうすればいいんだろう、僕は。」



「今度の標的は亜花君か?」


地面に倒れた男達を眺めながら、俺は足下の1人に尋ねた。


「……………」

「………言わなくてもいいさ、粗方想像はできる。」


魔族の俺が勇者領内部を引っ掻き回しすぎたせいだな。魔族にやられた奴ら、勇者に誇りを持つ奴ら、あの戦争で死んだ人達の遺族達。沢山の人間が俺に矛先を向けていた。いままではテキトウにあしらっていたが、今度は俺以外に標的が移ってしまった。俺を勇者領に連れ込んだグレン、その弟子である亜花。

………いま亜花君にこの憎悪を向けさせてしまったら、せっかく積み上げたものが崩れかねない。しばらくは影から護衛でもするか。


墓の前で座り続ける亜花君の横目を、俺は黙って見続けた。

重要関連作品

狩虎とイリナが出会い始まった本編。終わり(やりたいことができたら再開するつもり)→https://ncode.syosetu.com/n2411cs/

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

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