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道具と結果

ギッ……


俺は仕事場から出てリビングに向かった。

あーーヤダヤダ。なんでこう、人ってのは働かないとお金が手に入らないんだろうな。価値を作りだしてるのは自分なのに、他人から認められないといけないなんて………はぁ、この器用さを活かして偽札でも作るか?


「……………」


そして俺と亜花は机を挟んで向かい合うように座り、モシャモシャとご飯を食べ始める。

亜花は昨日の言葉をずっと考えているようだった。肉と野菜を食べながら、無言で眉間にしわを寄せている。

………難しくはないんだがなぁ。きっと納得ができないのだろう。………まぁ、境遇が境遇なだけに仕方ないか。

……………ヒントでもくれてやるか。


「………なぁ、亜花。(くさび)って知ってるか?」

「…………物を壊す奴?それなら知ってるけど………」


俺の質問に無難な答えが返ってきた。

ふむふむ………まぁ、そんなもんだろう。


「そうだ、隙間に割って入って物を割く道具だ。便利だよな。」

「うん……まぁ、僕の場合は指だけで事足りるんだけどね。」


ビュッ

亜花が人差し指で空中を割った。……こいつの魔力ならば確かに道具いらずだな。


「……それがどうしたの?世間話?」

「世間話でこんな地味な題材取り上げないだろ。……今のお前の手助けになる大切な考え方だ。」

「ふーん………壊す物なのに?」

「ああ、そうだ。壊すものだけれど、こいつが結構大切な役割を果たすのさ。まぁ見てな。」


俺はテーブルの角を風で切断し、四つの材木にした。1つは中が空いた枠のようなもの、1つは小さな正四角錐のもの、残り2つはただの四角柱だ。

俺は木枠の中に2つの四角柱を入れた。

カポカポ……

しかし大きさが足りず、俺が木枠を動かすたび2つの木材はぶつかり合い音を立てる。


「大きさが足りなくて離れ離れだ。さぁ亜花、質問だ。こいつらをどうやれば固定できる?」

「…………そんなの簡単だよ。」


コンコンこんこんこん…………

亜花は2つの四角柱の間に四角錐の先端押し当て、上から右手で押し込んでいく。四角錐が故に、先端から底面へと徐々に広がっていくことで両者を左右に押し込み隙間を埋めていった。

ギュゥゥゥ…………パキン!!

しかし、力が強すぎたのか木枠が破壊されてしまった。一辺が内側から曲がっている。


「………まぁ、正解だ。壊さなければ尚良かったんだけどな。」

「…………小さなことって力の加減が難しいね。」


俺は材木達を集め、家事をこなさせている鎧に手渡した。


「お前は特にな。………良いか?楔ってのはなぁ、物を壊すだけじゃなくて物をくっつける役目もするんだ。引き裂くだけじゃない、くっつけるんだ。ボンドはくっつけるだけだし、ハサミもまた裁断するだけ。……こいつは少々特殊なのさ。」

「破壊も固定も出来るんだ………凄いね。力加減が違うだけで、こうも出来ることが変わるなんて………」

「そう、それだけの差なんだ。それだけの差で、結果は大いに変わる。………そこにあるのは、それをどう利用するかという[利用者の考え方]だ。」


思考によって結果が変わる道具……いや、この道具だけじゃない。全ての道具もまた使用者によって結果は変わるのだ。ガムテープでダンボールに封するかカメムシを捕獲するか、包丁で魚を捌くか人を殺すか………道具なんてのは結局道具で、大切なのは思考だ。

楔は他の道具よりも結果の差異が大きいってだけで、やはり根本は変わらない。


「お前の魔力は未だ破壊しかしていない。だがもしかしたら、お前がそう考えているだけで、その能力は[人を助けること]もできるかもしれない。そう、割くこともくっつけることもできる楔みたいにな。」


魔力は性格によって形が変わるとかなんとかスカラは言ってたが、俺からすれば魔力もまた道具だ。考え方や使い方で大いにその効果は変わっていくはずだ。


「……できないよそんなの。」


亜花は俺の言葉に弱々しく返した。顔から溢れ出る諦め………本当、最近この表情しかしねーなこいつ。


「色んなことを試してみても、壊すことしかできなかったんだ。……安楽死とかなら出来るけど…………」


……近くにいる俺が一番よくわかっているっていうのがなぁ………確かにこいつは加速や増強が取り柄だ。エネルギーを増加させて興奮状態を持続させたりすることは出来るが………


「………まっ、それでも……いずれお前は助ける方法を編み出せると思うぞ。全ての物には無限の使い道があるんだからな。……決定するのはいつも、自分の思考だぜ。」

「……………だと良いな。」

「[だと良いな]じゃねぇ、[そうします]だろ。お前は賢いから出来るに決まっているさ。……そうだな、それこそ大切な人が危なくなったりでもしたら、お前はその方法を見つけるはずさ。…………昨日の答えが見つかってたらの話だがな。」

「……………うん、頑張る……」


亜花は力なく頷くとスープを啜り始めた。

………捻くれちまったなぁ。………知識もまた………道具なんだぜ?亜花。お前がその道具で世界を見つめようとした時、その道具によって見え方は変わってくる。そしてそれに則って、お前は世界に干渉する。全て壊してしまうのか?それとも…………それは全てお前次第だ。

考えろ。何度も言うぞ、考えろ。お前が心から望む行動を、心のままに行うには……結局、お前の思考が大切だ。

もし……そうだな、考えの先でお前が一人前になって、俺を継ぐに値するのであれば………その時は全てを差し出してやるさ。

お前は誰よりも理不尽を見た。………だから、誰よりも人に優しく出来る可能性がある。


堕ちるか………昇るか…………それは全てお前の心によって決まるんだ。


俺は夕食を食べ終えた後、仕事場に戻った。

………大切な仕事だ。ミスはできない。最高の素材を使って、最高の物を作らなくては………


「頑張らなきゃな、どちらも。」


俺はこそばゆくなって、鼻を手のひらでグリグリした後、


ギッ………


椅子に腰掛け鎧作りに着手した。

自分の頭の中で補填されているから、私は理解できるのだけれど、読者の皆様が情報不足状態になっていないかどうかが少し心配です。まぁ、理解しているだろうと勝手に思ってどんどん進めていきます。


重要関連作品

狩虎とイリナが出会い始まった本編。まだまだ更新中→https://ncode.syosetu.com/n2411cs/

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

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