捻くれ小人
「………お前らしくねーな。」
「僕らしいとおもうよ。だって僕、弱い人達大っ嫌いだもん。」
肉を食べながら、亜花は笑っているのかいないのかよく分からない中性的な笑みを浮かべた。
「………つまりあれか、勇者領の為に戦いたくないっていうのか。」
「うん……まぁ、そうだね。あんな、他人を排斥することしかできない組織を好きになる方がどうかしてると思うよ。」
うーん……俺の考え方が深く根付いちまってるな。
「そりゃあ王様やスカラさん、慶次さんは好きさ。こんな僕ですらちゃんと気にかけてくれるし、何よりも寛容でしょ?強いから、誰にでも優しくしてくれる。でも、それ以外の弱いやつらは徒党を組んで、他を排斥してのし上がることしか考えてない。……だから大っ嫌い。」
「のってもさぁ、あいつらの為じゃなく勇者領全域の罪のない住民達の為だと思えば……」
「彼らも嫌いだよ。先生に石を投げたからね。」
「いや、あれの原因はお前だろ。」
「僕だとしても、だからって先生に石を投げたのは気に入らない。それはつまり先生を認めてないってことでしょ?……先生は体を張って村を守ったのに、僕が一緒だってだけで…………」
亜花は箸を持った左手の甲を机の上でコロコロと転がしながら、いつも通りの無表情にも似た笑みで話を続ける。
「好きじゃないんだ、弱い人達が。格上の人が常にいて悔しいのか、自分以外を簡単に批判する。自分より弱い奴、バカにしやすい奴がいたら諸手を挙げてバカにする。」
「………全員じゃあないだろ?良い奴もいるはずだ。」
「………だったら良かったんだけどね。」
フッ
亜花はようやく、分かるぐらいにはっきりと笑った。
「僕さ、一年前からバカなフリしてるでしょ。」
………そういえばそんなことしてたな。
「でさ、僕と初めて会った人の反応を見るようにしてるんだ。可愛がるのか、無視するのか………まさかバカにされるとは思ってもみなかったよ。最初の想像から大きく外れてひどく困惑した。」
………なんで亜花はこんなことをし始めたのだろうか。こんな、捻くれて湾曲した行動を……きっと、現実と理想の差があまりにも大きかったからだろう。亜花は幼い頃から酷く蔑まれ、非難を受けていた。そして俺と出会い道徳的なことを教わるにつれて歪みが生じるのも無理はない。石を投げられる日常が、自己犠牲を謳う仮想に………順序が逆ならどれほど嬉しかったことか。
「自分は常に強い奴らにバカにされているから、他人をバカにするのは当然なんだ。みたいに自分を正当化して………強い人を悪役に見立てて………本当に気に入らない。先生がいつ人をバカにしたっていうんだ。……いつ、見下して貶して……見放したっていうんだ。だから弱い人達は嫌いだ。」
「………かもなぁーーむっ。」
俺は大きく口を開け、サラダの菜っ葉と肉をフォークで刺し口に運びながら呟いだ。
「でしょでしょ!?バカにして追いやろうとしてくる弱い人達の為に、強い人達が頑張る必要はないよ!!」
俺が賛同してやったらこの笑顔か………やっぱりまだ子供なんだな。
ムシャムシャと肉とサラダと白米を食べながら、俺は考え続ける。
亜花はこの3年間で急激に成長した。スポンジなんてものじゃない、吸ったそばから他所へと送る吸水管のように知識を吸い上げた。それに伴い自分が置かれていた現状を冷静に考察するようになり、疑問と答えを模索するようになった。
「なぜ助けてくれなかったのか。」
「なぜ教えてくれなかったのか。」
「なぜ誰も近づいてくれなかったのか。大人なら当然じゃないか。」
全てはあの村での生活と深く根付いている。
世界への反感………思春期特有の他愛のない思想。と言いたいところだが、こいつの場合はそれ以上の悩みのタネ。こいつの人生の重要な岐路といったところか。
………テキトウは言えねぇな。
「なんならあの、カースクルセイドの手助けだってして良い。弱い奴らを壊すことに、僕は躊躇いはないよ。」
「…………人が他人の為に行動するときってどんな時だと思う?」
肉をフォークで刺しブラブラとさせながら、
亜花の会話をぶった切りにする感じで俺は尋ねた。
「………その人に何かしらの感情がある時。」
「ふーん………他には?」
「……………恩がある時。」
「ふーん………他には?」
「…………………わからない。」
「ふーん。じゃあお前からすれば、他人の為に動く時ってのは、[そいつと何かしらの繋がりがある時]ってわけなんだな。」
「うん。そうじゃなきゃおかしいよ。利益もないことに、人は頭を突っ込まない。」
「…………じゃあさ。」
俺は肉を一切れ口に運んだ後、ニヤっと亜花に笑いかけた。
「なんで俺はお前を預かったんだ?こう言っちゃなんだが、俺とお前には何か繋がりがあったのか?預かったことで俺に利益はあったのか?」
「…………………つ、繋がりはないよ。」
亜花は目を丸くして、数秒固まったのち口を開いた。
動揺はすぐにおさまった。頭の働かせ方はつまらねー理系的なものか。
「……でも利益はある。僕が使い物になったら誰よりも活躍するよ。……だから先生は僕を拾って………」
「いや、正直お前がここまでなるとは思ってなかった。完璧に誤算だ。」
「え…………」
「ぶっちゃけた話。お前はずっとバカで破壊することしかできない無能のままなんじゃないかって思ってた。………まっ、それでも良いやと俺はお前を拾った。なぜだ?」
「…………か、可愛かったから?」
「俺をガチペドみたいに思わせるのはやめろ。俺は生粋の女好きだ。………で、他には?」
俺の畳み掛けに亜花はあからさまに動揺していた。完璧にわからないからだろう。………それに、育ての親にこんなこと言われて動揺しない奴なんていないしな。
「う、うーー……………んーっとぉ…………」
「………いいか、亜花。」
せわしなく動き続け考える亜花の動きを止めるように、俺は話しかける。
「お前の考え方は[あいつからこういう恩を受けたからこれだけ返そう。][あいつからこれだけ酷いことを受けたんだ、あいつにはなにもしないでやろう。]というものだ。別に悪いことじゃねぇ。つーか世間一般で当たり前のように受け入れられている大衆的なものだ。誰もそれを批判できないし、俺だって批判しない。お前の考えは大いに認めてやる。」
「じゃあ…………」
「でもな、人ってのは1つの考え方だけじゃ生きてはいけないんだ。生きていけたとしてもつまらないものになる。………よく考えろ。お前の考え方じゃ、そもそもこの世に繋がりは生まれない。」
「!!………だからって…………」
「考え方ってのはな、物事を照らす光だ。お前の単一的な考え方じゃあ事物を一方向からしか照らせず……真実の一部しか見えやしない。」
「………………」
「よーく考えろ。お前が今まで認めてきた[強い人]とはどうであった?損得でのみ物事を見ていたか?それとも感情でしか捉えなかったか?………考えろ。自分を否定しつつ自分として受け入れろ。」
俺は食器を持ってシンクへと向かう。
「もしそれででてきた答えが俺と同じ考えだったら……その時は笑ってめちゃくちゃ喜んでやる。」
俺は食器を洗い始めた。
「……………」
そして亜花は、空になった食器を見つめながら考え込み始めた。
どうでも良いことではあるのだけれど、[Face of the Surface]シリーズの心理フェイズというのか、哲学フェイズというべきなのかは分からないけれど、そういう[思索]とぶつかった時が結構楽しい。そもそもこれを書き始めた理由が[自分の考えをまとめる]ことだったりするので当たり前と言っちゃ当たり前なのだけれど。
そしてこんなことを言ってはなんだけれど、ちょくちょく考え方が変わる。
勿論最初から[こうしよう]というのがあってそうなるように頑張るのだけれど、自問自答のようになって否定と肯定が渦巻いて当初の考えを自分で否定しまうのだ。
だから今回も、書くものは決まっていてその通りに書くだけなのに凄く時間がかかった。次回も凄く時間がかかるような気がする。
長々と駄文を書き連ねてしまい申し訳ありません。
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