アップルと噴火山
周りを振動させる塔………か。
亜花を連れて俺は帰路についていた。
折り重なる影が、更に重なろうと伸びていく。……夕暮れが進んでいく。
振動させて地熱を上げるだけの効果。微妙だな。……あまりにも微妙すぎて放置してきてしまった。たたき壊した方が良いのか、そのままの方が良いのか判断がつかないから……
それにそもそも、アップルヴァリィドの異常増殖の謎も解けていない。あれを放置したら森がアップルヴァリィドで溢れて危険になるから、なるべく除去したいんだがなぁ。
「ドーーン!!ドーーン!!」
昼間の噴火の興奮が抜けないのか、亜花はドーンドーン言いながらついてくる。
はぁ………問題だらけじゃねーか。
「亜花ぁ、良いかぁ?」
俺は亜花の頭を掴んで、俺法に顔を向けさせた。
「良いよ!!」
「ああいう危ないことはもうすんなよ。」
「あぶない?……あぶない?……あぶない!!」
「怪我するようなことだよ。もうすんな。」
「………なんで?」
「なんでってお前………痛いだろ。」
「いたい……………?」
この、何も知らない、清々しいまでの無知な顔。………あ、こいつ痛みがなんなのかわかんねーんだ。ケガは理解できるのにか………
「……………」
言葉に詰まった。
いつもの俺なら面倒臭がってここで説明放棄するのだが、こいつにこの説明を放棄するのは確実に危険な気がする………理解できなくても、説明しなくちゃいけないよな。
「………痛みってのは簡単に人を殺せてしまう。だからダメだ。」
「………………?」
「………つまり壊しちまうだろ。自分を壊したくないだろうよ。」
「………壊れても良いよ。」
…………は?
「だって楽しいもん。」
亜花はそう言うと、少し笑ってから帰路に顔を向けた。
なんだこいつの清々しい表情と語調は………本当に、楽しいと思ってやがるのか?……そんなに、壊すことが楽しいのか?
「……………」
「ブーーン!!はやいはやーい!!」
俺は無言で、亜花が両手を広げながら走り去っていくのを見つめる。
初めてだ……無邪気さがここまで恐ろしいと思ったのは。………そして、とても悲しく思えるのも。
遠ざかっていく影がどこまで伸びていく。……重なりたいと思っているのか、それとも塗りつぶしたいと思っているのか………
分からないまま、俺はあいつの後を無言でついて行った。
「………どうした?」
しばらく歩いていると、亜花が茂みの近くでうんこ座りをしていた。
おいおい、腹が痛くなったからって野糞は……いや、それよりもせめて茂みの中に隠れろよ。
「アップルアップル!!!」
なるほど、野糞じゃなくてアップルヴァリィドを見つけただけか。
はぁ、本当クソみたいにいるな。
「久しぶりにリンゴの刺身でも食うか……」
俺は亜花が見ている場所に向かった。
どうにかしてこいつらの異常増殖を止めねーとなぁ。このままじゃ希少価値が下がって市場が混乱しちゃ………ん?
「あーーぷるぅーー……あーーぷるぅーー………」
なんか奇妙すぎる寝息を立てるアップルヴァリィド。
いや、なんで寝息が聞こえるんだよ………
「………え、」
アップルヴァリィドがいる茂みまで来て、俺は喉が詰まった。
嘘だろ……こいつ、普通に地面の上で寝てやがる。お前植物だろ?これじゃあ光合成なんて出来ねーじゃねーか。根を下ろせよ。
「…………どういうことだ。」
俺は図鑑をまた取り出し、ページを凝視する。
根が短いから森林地帯には根を下ろせない。書いている、確かに書いている………そしてこいつは植物だとも書いている。植物ってのは地中からアンモニウムイオン?みたいなのを吸収しないとアミノ酸が作れず、タンパク質の合成ができないんだろ?違ったっけか………まぁいい、とにかく植物にとって根を張るってことはとても大事なはずなのだ。
それなのにこいつ、根も張らずに地上で寝てやがる。おい、植物としておかしーだろおめーよ。
「…………まさか、暑ければなんでもいいのか?」
そもそもこいつ、根っこが短いとはいうが地中に潜る胴体部分がアホみたいにでかい。植物にならえば茎、地下茎か?だから根っこが短くても根っこ以上にがっしりとした体で支えるのだから別に支障はないはずなのだ。
それなのに図鑑では[地中に潜らないといけない]ような評価をされているということは………熱だ、そうとしか考えられない。
こいつらは寒い所では活動できない変温動物なのだ。だから夜中の間は地中に潜り、暖をとらざるを得ないのだ。そして………ちっ、そうだよな、普通に考えればそうだよな。こいつら捕食するんだもんな。だったら根っこからわざわざアンモニウムイオンをとる必要ねーよな。
………そうか、そうなると全ての謎が解けるな。夜が冷たい森林地帯で、根をはることなく地中に潜ればタンパク質の合成ができず、更に獲物を見つけれなければ餓死し、地表で眠れば一晩中起きることができないから隙だらけになり逆に捕食される。
その点、自然豊かな火山地帯ならば地表で寝てもいつでも起きられるし、餌も豊富だ。わざわざ根をはる必要はない。………そりゃあ確かに増殖するわ。
「………うっし、亜花戻るぞ。」
「もどるもどる!!」
あの塔が原因だというのならば叩き壊さないとなぁ。
俺達は踵を返し元来た道へともどる。
………なーんか腑に落ちないなぁ。
1つの答えが出て来たのに、どうにもこのモヤモヤが消えてくれない。
………どうしてあの塔を建てた人間は、アップルヴァリィドなんかを増やそうとしているのだろうか。金になるから?………確かに美味いし高級だとはいえ、今やアップルヴァリィドの取引所は寡占状態。名が通った場所じゃないと高く売れないのだ。………うん、こんな無名な場所じゃ金になんねーよ。
時間をかけて有名産地にでもしようというのか?…………昨夜、この村出身の大金持ちや重要人物を調べてみたものの、そんな魔法の達人はいなかった。ここに恩義がある人間の行動でもない。
なんだ……目的がわからない。
…………もしかしたら、アップルヴァリィドの増殖はただの副産物で、もっと別の目的があるんじゃ…………
俺と亜花はトボトボと歩いていく。
………とにかく、早めに壊した方が良いのは確かだ。
ズズ………
「ん?地震か?」
地面が揺れ始めた。小石が跳ね、音を立てるぐらいの揺れ………
まぁ、火山地帯だし地震なんてそう珍しいものじゃ…………
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
と思っていたら揺れが激しさを増していく!大地が怒りを上げているように、木々や視界を上下に激しく!!
そして………
ボォォオオオンンン!!!
亜花が昼間に噴火させた火山がまた噴火した!!!
マグマが噴き上がり、岩石が上空へと飛んでいく!さらに火山灰とガスが混ざった濃厚な層が、ただですら真っ暗な空を塗りつぶしていく!
ちっ………まだエネルギーが残ってたか。まぁ昼間と同じ規模の噴火だ、村に被害がいくことは…………
ズッゴゴゴゴゴゴ!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
地面がさらに揺れ、地震同士が重なり合いながらより揺れを強化していく。
うおっ……さすがの俺もこの揺れは辛いな……………嫌な予感がする。
俺は周りを見回した。
十数個ある火山が震えているように見える。本当に、もう、我慢の限界だと震えるように………勿論そんなの錯覚で、世界自体が揺れているのだが………確かに、そう見えた。
ボォォオオオンンン!!!
ボォォオオオンンン!!!
ボォォオオオンンン!!!
ボォォオオオンンン!!!
ドボォォオオオンンンンン!!!
刹那、全てが破裂した。
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