地質のお話
「これは………うーん、困ったわね。」
長い長い、あまりにも聞き飽きた宣伝文句を言い終え満足したスカラは、当初の目的である人工物の調査を始めた。
「困ったって何がだよ。」
「説明がちょっと難しいのよねぇ……うーんと、この世界の地質は知ってるわよね。」
「知ってるも何も俺の本職だ。魔力を帯びやすいって奴だろ?顕微鏡とかで見てもイマイチ構造が分からないが………」
どれほど詳しく見てもただの石なんだよなぁ。何故これにここまでの魔力との調和性があるのか理解できない。
「ふふっ、目を凝らしたってダメよ。[魔力]を理解してないとね。」
カンカン………
それだけ言うと、スカラは人工物を叩いた。
「私もこの世界の地質が何故こうなっているのかは知らないのだけれど、仕組みだけは理解できる。………この岩の1つ1つがアルケーを持っているの。[調和]のアルケーね。どんな物体とも魔力とも反応する、言ってしまえば誰とでも仲良くなれる懐の大きな子なの。」
ほー……岩に魔力が宿ってるのか…………
「そう、まるで生き物みたいにね………ふふっ、凄いわよ。この地面は何にでもなれると言うことなのだから。水と合わされば水へと変わり、雷と合わされば雷へと変わる。これに[創造]の魔力を流し込めば、どんな形にも変形するわ。巨大な手にもなるし………大きな人も作れそうね。」
「ふーん…………じゃあなんで雨降った時にこの世界は水だけにならないんだ?」
「簡単よ。これは強い奴しか受け入れないの。大体……そうね、第一類勇者以上の魔力がないと反応しないわ。」
ふーん………
「なぜ世界の地質はこうなってしまったのか?……もしそれを解明することができたのならば、この世界は飛躍的に進化するでしょうね。」
「ふーん………なんでだ?」
「だってこれ、人が創り出したものだと思うの?思わないわよね、絶対に自然現象に違いないもの。その偶然性を操ることができれば、この世界は魔力で溢れてより充実したものになるはずよ。」
壮大だなぁ………
「んで、つまりどういうことだ?この金属の塔は第一類勇者以上の魔力でも持ってるのか?」
「………そうなのよ。」
なるほど、つまりこの塔がこの大地に、魔力によって干渉しているってわけか。
「第一類勇者以上の魔力を物に宿らせるのって結構難しいの。私でもたまに失敗するぐらいだからね。一般人なら騎士クラスですら音をあげるぐらいよ。」
「ふーーん………でも出来ちゃってんだろ?これ。」
「そうなのよねぇ、第一類勇者クラスでしかもこんなに大きな物となると凄い技術だわ。ちょっと面拝みたいわね。」
ふーん………ん?
「じゃあ俺の技術って実は凄いのか?」
鎧に魔力を宿して、操作して、自動で動かせてるんだが………
「………まぁ、癪だけどね。あなたの貰ったそれはこの世界で唯一無二の魔力だから。」
「なんだよ、いつも俺の仕事バカにしてくるくせに実は凄いんじゃねーかよ。もっと褒めろや。」
「はいはいすごいすごーい。貰い物の力でよくもまぁそこまで威張り散らせるわね。」
「褒められるのが好きだからな。たとえ貰い物だろうと自分のためになるのなら幾らでも利用しちゃうのよ。」
「傲慢ね。」
「お前にだけは言われたくない。」
しかし、第一類勇者以上の魔力を物に宿らせることができる人間か………スカラ以外に心当たりがないな。結構名の知れた人間だと思うんだけどなぁ………
「じゃあ宿ってる魔力は何よ。」
この塔が、アップルヴァリィドの異常発生に関わっているのかどうか………この質問でその全てが分かる。
「……[振動]………ここ周辺の地面が気づかないレベルで常に振動し続けてるわ。」
振動?
………………?
「ここら辺が火山地帯なのはこれのせいかもね。常にプレートへ通常以上の振動を与えられているせいでマグマが多く生成され火山が生まれる………それだけね。邪魔だと言うのならば撤去すれば良いけれど、そこまで危険視する物じゃあないわ。」
「……………本当にそれだけ?」
「………それだけよ。私を信じられないわけ?」
「まぁ、それもあるんだが………なんかきな臭いんだよなぁ。」
俺は図鑑を出して、またアップルヴァリィドのページを読み始めた。
………やはり、こうも自然が密集している場所だと根を下ろせないと書いているじゃないか。灰が降り積もる火山地帯なんて特に…………あれ?
俺はペラペラとページをめくり続ける。
あれ?[火山地帯]なんて言葉、一切書いてないぞ。あれ?………んー?
「あ、その図鑑。私の学校に所属している先生が書いたものなのよ。どう?凄いでしょ。」
「あーすごいすごい。」
「グレンちゃんも魔法を習ったらどう?仕事に役立つわよ。」
「やだよ、俺は自由にブラブラ生きるのが好きなんだ。学校なんかに時間をとられたかねー。」
「学校に拘束された分、将来必ずお釣りが返ってくるわ。時間をどれだけ賢く使うか、ちゃんと考えないと痛い目見るわよ。」
「あーわかったわかった。わかったからもう帰っていいぞ。」
口五月蝿い女だ………そんなに俺から金を搾り取りたいのか。毎月金送ってやってるだろうが、それで我慢しろ。
「お前みたいな奴が教師だなんて本当笑えるよな。勇者領で重役目指す方が人柄的に合ってるんじゃねーの?」
金欲しさに学校を建てて、教育を商売にする人間だ。ある意味、[真っ当な人間]からは程遠い。まぁ、大人の汚い一面を見せるって点では適しているんだろうがな……意地汚くて、自分のためならなんでもやる汚い大人の最たる例だし。
「………私は自分の為なら何でもするわよ。汚いことなんて当然、必要に駆られたら殺しもする予定よ。」
やっぱりなぁ……クズだぜクズ。
「この世界は壊れている。人為的なのか、偶発的なのかは分からない………けれど、もし変えることができるというのなら、それは人だけよ。………人が変わらなければ、世界は変わらない。…………変える為なら……その為なら、何でもやってやるわ。」
「…………人間なら何でもできるって考えは傲慢じゃねーの?もしそうなら今頃ここはユートピアだろ。」
「…………そうねぇ、期待しすぎているのかもしれないわ。…………それでも、期待しすぎていたいものね。[何でも背負ってくれる]頼もしい人間が増えてくれることを。」
そんなのいねーだろ。俺にだって荷が重すぎるんだから。
ただただ、時が流れていく。
………子供の時に、こんな、立ち止まって何かを見つめている時なんてものがあっただろうか。………何も考えずに走り続けていたような気がする。目の前に当然のように存在する全てが、自分の手元から離れるなんて想像もつかなくって………近くのものに目もくれず、ただ、走っていた。
………ふっ、笑っちゃうな。今こうして鎧を砕いて遊んでいる亜花と、結局俺は似た者同士だったってわけか。………いや、亜花も世間一般の子供もなんも変わりはないか。なんも理解できずに、ただ走るだけ………力の強さぐらいだろう、違いがあるとしたら。
その無邪気さが簡単に人を殺してしまうというのなら…………やはり、強い人間が育ててやらないといけないよなぁ。
………やっぱ俺、スカラに対しては恩しかないんだなぁ。俺を止められる奴なんてそうはいないもんなぁ……………
「………事情はよく分からないけれど、気をつけなさい。あの子の魔力が暴走したら本当に手がつけられなくなるからね。」
「………身をもって体感してるわ。」
「…………それ以上よ。言ったでしょ、グレンちゃんを超えるってね。」
あれ以上って…………
「もし、そうね。知性を手に入れ、魔力をコントロール出来るようになった時、彼が怒り狂ったら世界の法則が変わってしまうかもしれないわ。………真面目に注意しなさいよ。」
「…………なんかお前に預けたくなったわ。」
「3億ね。」
「この世から消えろ。」
俺が蹴ろうとしたらスカラは魔法でどっかに逃げていった。
………こいつマジでやべーな。
俺は鎧を壊し続ける亜花を見て、心の中で呟いた。
重要関連作品
狩虎とイリナが出会い始まった本編。まだまだ更新中→https://ncode.syosetu.com/n2411cs/
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




