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青は藍より青し  作者: ナギ
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プロローグ

初投稿です!

――― 12××年。青の国「リヴァティア」王の間 ―――


そこには王を含む7人の騎士たちが集っていた。


「国王様。今回、招集がかかったのはどのような理由なのでしょうか?」


青髪の壮年の男が王に尋ねた。


「うむ、お前たちに集まってもらったのは他でもない。ちかご――」


「ふわぁ〜あ。あまりながったらしいのは勘弁してよねぇ。はやくお家帰りたいからぁ」


王が話す途中、金髪の少女が話に割って入った。頬杖をつき、大きなあくびをして眠たそうにしている。


「おい、リリア!国王様に失礼だぞ!いますぐ謝罪しろ!」


先ほどの壮年の男が立ち上がり、リリアという少女に怒鳴りあげた。部屋中に響き渡る怒声が鼓膜を振動させ、そしてまた静寂な空間に戻る。


「よいぞ、アスラよ。私も長々と話す気はない。すぐに終わるからみな、心して聞いてくれ」


国王が優しくなだめた。アスラという人物は不満げな顔で椅子に座り、リリアは再度あくびをし、そっぽ向いていた。


「ごっほん!では、話を戻すぞ。近頃、魔物の狂暴化が進んできている。先日、商人がベルティナ山脈を登山中、A級ランク相当の魔物と遭遇した。商人は用心棒を雇っていたおかげで大きな怪我もなく無事に下山することができた。しかし、他にも凶悪な魔物たちによる事件事故などが多発している。正直これはまずい状況だ」


国王は顔を渋くして話した。他の騎士たちからも様々な情報が飛んできた。


「たしかに。特にいまの時期は繁殖期もあって魔物の狂暴性が増していますが、今年は例年の比ではありませんからね」


黒髪短髪の青年は顎に手を当て話した。


「今月で魔物による農作物の被害が16件。魔物の目撃件数が30件以上あります」


他の5人も似たようなことを言っている。近年まれにいる異常事態である。


「うむ。そういう事態なのでお前たちには国内の冒険者ギルドへ行き、冒険者たちに注意を払うのだ。それと水門付近の魔物にも警戒度を上げるように伝えておくのだ。以上」


「「はい!!」」





6人が退席した後、王一人だけになった。沈黙の部屋で王はこうつぶやいた。


「まさか…いや、そんなはずは。いや、今は考えてもしょうがない。とりあえず市民の平和を守らねば。」


「国王様!国王様はいらっしゃいますか?」


扉の奥から王を探している声が聞こえる。


「なんだ!騒々しい」


扉を開けるとそこには門を守っている警備兵が息を荒らしていた。


「し、失礼いたしました!白の国の使者と名乗る者が来ております。なんでも国王に直接話したいことがあるということです。白の女王の推薦状も持ってきております。おそらく本物でしょう。」


「白の国か・・・。わかった。すでに通しているのか?」


「はいっ!応接の間にてお待ちしております」


「うむ」


白の国「アルファーン」から使者がきた。白の国はカーミラ大陸という二大陸の北側を領土にしている。対して青の国は隣接する国がない島国であり、白の国からかなりの距離がある。馬や船を乗り継いでも五日間はかかる計算だ。その長旅をするまで国王と会って話したいのだからかなり重要な話なのだろう。国王は早足で応接の間へ向かった。


――― 応接の間 ―――


扉を開けると白いフードを被った女性が座っていた。フードで顔が見えないが小柄で華奢な体型をしている。


「すまない。待たせてしまったな、白の国の使者よ」


「いえいえ。さっき来ましたから。それにおいしい紅茶が飲めてちょうどよかったです。あ、すみません。また、紅茶おかわり貰えます?」


白いフードの女性は紅茶を飲みきり、部屋の中で待機していたメイドにおかわりを催促した。


「えっ!?あ、はい!もう一度作り直してきます!」


メイドが慌てて紅茶を作りに出て行った。ティーポットの中身が空になるくらい飲んだらしい。


「すまないな、飲み干すほど待たせてしまって」


国王が再度謝ると


「そんなことないですよ。そうそう、自己紹介がまだでしたね。初めまして青の王『シオン・ベルウッド』様。私の名前は――」


と名前を言おうとした瞬間、


「いや、言わなくてもわかる。・・・お前リアスだろ?認知を変えるとはまたおもしろい魔法を使うのな」


国王がそう話すと女性は「フフッ」と笑い白いフードを脱いだ。

脱いだ瞬間、収められていた長い銀髪と整った顔つきがあらわになった。


「よくわかったじゃない。ベル。これでも隠し通す自信はあったのだけれども、すぐばれるなんて調子狂うわね」


リアスは口元を緩めながら国王に話しかけた。


「いくら魔法を使って認知を変えても私、いや俺には分かるよ。何十年の付き合いだと思っているんだ?」


「それもそうよね」


2人が顔を合わせ笑った。そして、先ほど慌てて出て行ったメイドが紅茶を入れなおしに入ってきた。


「先ほどは失礼いたしました。お紅茶を持ってきまし、た、ってえぇぇぇ!!!!リアス様!?なぜ女王様がここに!?」


リアスをみて驚くメイド。そう、シオンのことをベルという愛称で呼んでいる彼女こそ、白の女王『リアス・マクスウェル』本人だ。リアスは満面の笑みをこぼしながらメイドに話しかけた。


「フフフ。ごめんなさいね、驚かして。紅茶は自分で入れるから適当に置いておいてください」


「すまない、今から大事な話がある。二人だけにしてくれ」


慌てふためくメイドを見てシオンは退出の命令を出した。


「か、かしこまりました。し、失礼します」


いまだ状況がつかめていなかったメイドだが、命令に従い部屋を後にした。

2人きりの応接の間。ひたすら聞こえてくるのはリアスがお茶を注ぐ音だった。


「あら?座ったらどうなの?紅茶、一緒に飲みましょう?注いであげるわ」


「やれやれ。どっちが客なのだかわかったもんじゃない」


シオンは深くため息をつき一人用のソファに腰を掛けた。そして、


「さてさて、白の女王様が来たのだからさぞ、重要なことなのだろうと期待しているのだが?」


「そんなに期待されても困るのだけれども。別に大した理由じゃないわよ?単に遊びに来ただけ。それに」


「それに?」


「今年は『世界会議』があるからそれの招待券を持ってきたわ」


リアスはポケットからチケットのような紙切れをシオンに見せつけた。


「世界会議、ねぇ」


シオンは顔をしかめ、リアスが持っている紙切れをじっと見つめた。


世界会議。10年に一度開かれるこの会議はこの世界を統治している6人の王たちが集結し、今後の方針を話し合うものだ。6人の王たちはそれぞれ『赤の女王』、『青の王』、『黄の王』、『緑の王』、『白の女王』、『黒の王』の男性4人女性2人で構成されている。


「もう10年経つのか。俺が前回行ったときはカラージェネラルの時だったからな」


昔を懐かしく思う、シオンだった。


「そうね。当時、将軍様だったあなたは魔物と戦っている時、とても生き生きしていたわ。見ていて惚れ惚れしちゃうくらい。でもね、あなたはもうその立場じゃないの。いまは何万の人々の命を背負っている青の国の代表。その自覚忘れないでね」


ティーカップに紅茶を注ぎ角砂糖を入れているリアスが助言した。


「昔の俺じゃないことくらいわかっている。俺は先代の王のそれ以上を目指さなきゃいけないんだ。あんな惨劇は二度と繰り返さない。必ずおれが守ってみせるよ」


シオンを自らのこぶしを固く握り、決心を強くしたことを示した。


「そういえばベル。最近、魔物の狂暴化が目立ってきてない?」


溢れんばかりの角砂糖をスプーンで溶かし、幸せそうに紅茶を飲んでいるリアスが話しかけてきた。つい先ほど王の間にて話していた内容だ。


「あぁ、そっちもそうか。まさかと思うが骸がまた――」


「それはないわ。確かにあの時みんなで倒したじゃない。封印とか生易しいのじゃなくて正真正銘の討伐を。」


「そうだよな。俺も確かにこの目で見た。骸の王は俺たちが完璧に倒した。瘴気だってだんだん減ってきている」


「そうそう、考え過ぎよ。いまは繁殖期なんだし、しょうがないわ。とりあえず警戒度は高めておいたほうがよさそうね」


「あぁ」


シオンがそう言うとリアスはティーカップの紅茶を全部飲みほし立ち上がる。


「さて、話したいことは全部話したし、私は帰らせていただきます」


「もう行くのか?どうせだ、泊まっていくといい」


「城のみんなには内緒で来てるのよ。早く帰らなきゃ『じぃじ』に怒られちゃう」


「だから一人だったのか。まぁ船くらいは出すよ、一番速い奴な。明日には大陸に着くだろう」


「ありがと。それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」


リアスは笑顔でシオンを見つめた。



リアスを見送ろうと外に出ると空はオレンジ色に染まっていた。大きな夕日が海に飲まれるように沈んでいくのが見えた。


―― リヴァティア最大の港『トリアイナ』 ――


シオン、リアス、そして馬車の御者と共に港に着くとそこには大きな船が一隻浮かんでいた。


「これに乗るのも久しぶりね。ありがとね!あと、アスカちゃんとカイル君にもよろしくって言っといてね」


「わかった。伝えておくよ」


見えなくなるまでリアスはシオンに手を振り続けていた。


「まったく嵐のような女だったな。急に来て紅茶とお菓子全部平らげやがって。おまけにお菓子も奪われたわ。後で買いなおさなければ」


リアスはあの後お土産と称して、城のお菓子を大量に持って帰っていった。


「仕方がありませんよ。リアス様は大のお菓子と紅茶好きです。きっと船の中でも食べていますよ」


御者が笑いながら言った。


「どんな胃袋しているのやら」


馬車に乗り、城へ帰るシオンたちは城下町を通った。酒場の灯りがまるで人々を引き寄せているかのようにメラメラと照らされている。中は賑やかでウェイトレスが忙しそうにしているところが外から丸見えだった。


「ここは昼夜問わず賑やかだな。見ているこっちも楽しくなるものだ」


シオンの顔から自然に笑顔がこぼれた。


「はい、これもすべて国王様が統治してきたおかげでございます。治安も現在安定し、犯罪件数も去年に比べると激減しております」


「そうか、そう言ってくれてうれしいよ。さて、もう一息だ。早く帰って子供たちと夕食を摂らなければな」


「はい!」


御者は馬を加速するよう命令し、さっきよりも素早く城へ向かった。そして、


「「おかえりなさいませ。国王様!!」」


帰宅すると城の皆が待っていた。


「ただいま。夕食の準備は出来ているか?」


「もちろんです。カイル王子とアスカ王女はすでに席に座っております」


「いかんいかん、早く私も行かなければな」


食堂へ急ぐとそこにはお腹を空かした子供たちがシオンを見て


「父さん遅いよ~!早く食べようよ!」


「お父様、おかえりなさいです。早くこちらへ来て食べましょう」


「おぉ、すまんすまん息子たちよ。ささ、ご飯にしよう」


シオンはいつもの席へ座る。


「今日はハンバーグだよ!!でけぇなぁ!」


目の前の大きなハンバーグを見てカイルは興奮している。


「ちょっとカイル!お行儀が悪いわよ!マナーを守りなさい!」


そしてアスカはカイルを叱っていた。


毎日見る光景。だが、決して飽きることはないひと時。シオンは息子たちと少し遅めの夕食を摂った。


―― そして数時間後、寝室にて ――


シオンは机に貯まってある書類に目を通していた。


「はぁ、まったく国王は大変だな」


目の前にある書類等は国民たちによる要望などを書き留めていたものだ。治安が良いとは言われている青の国ではあるがすべてが解決しているわけではない。他国の貿易の問題や騎士たちの身分間の問題などだ。内容によっては頭が痛くなるものもある。書類とにらめっこをしているとふと誰かがドアをノックした。


「どうぞ」


ドアが開きそこに立っていたのはシオンの息子で第一王子のカイルであった。


「おぉ、どうした?怖い夢でも見たのか?」


「アスカが眠れないって言うんだ。だから父さんの部屋に連れてきた」


後ろにはカイルの袖を引っ張り、離さないアスカの姿があった。


「カイルだめよ。お父様はお仕事で忙しいのよ」


涙目になっているアスカがカイルにそう告げた。


「なんだ、アスカの方か。よーし、二人とも、ちょっとこっち来なさい。眠くなるまでおとぎ話をしようか」


「おとぎ話!!聞きたい聞きたい!」


はしゃぐカイルはシオンのベッドへダイブし布団へもぐりこんだ。


「いいのですか?お仕事の途中だったのですよね?」


アスカは申し訳なさそうにでも、期待した眼差しでこちらを見ている。


「大丈夫だよ。ちょうど息抜きが欲しかったからな。さぁアスカもベッドへ来なさい」


「はやく!はやく!」


カイルが急かす。アスカもベッドに横になりワクワクしていた。


「さてさて、これは本当にあったおとぎ話だ。昔々あるところに貧しい少年がいました。その少年は―――」




そう、これはおとぎ話。一人の男が王様になるまでの永い永い物語。



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