色彩
空は青色だ。
私の歩く道は灰色で、所々コンクリートの色がまばらで白色だったり黒色だったりする。
銀杏並木は道を黄色に染め、どことなく銀杏の匂いが立ち込める。
当たり前の色を私は知らない。
それが黒い色だと私が判別するのは、光の波長を計測して、私の中のセンサが判別しているからだ。匂いを判別するのも、一度嗅いだことのある匂いを、私の鼻にあるセンサがメモリと照らし合わせているに過ぎない。
この世界はこんなにも色にあふれているのに、どうして私の世界はこんなにもモノクロなのだろう。
私を作った柳さんはそんなことは気にするなと言っていた。私の仕事は別にあるらしい。
私は戦争のために作られたそうだ。
人間はすぐに死んでしまうから、代わりに戦うモノが必要なのだ。それが自立思考型機械歩兵P.TYPE-03の存在理由、私の、生きる意味だ。
私は極めて人間に近いAIを持っている。学習能力だけでいえば人間すらも超える力がある。
だから私は、人をころせなかった。
銃を握って、心臓を狙い、打つ。心臓を外しても胴体に当たればよし。臓器を貫いていればなおよし。私は人ではない。私はロボット。人間の血の色は赤い。汚い赤色。私の血の色は何色なんだろう。こんなに気持ちの悪い色をしているのだろうか。見たくない。
そう思うと、不思議と動かなくなってしまったのだ。
感情というのは色のない濁流のようで、私はいつもそれを遠くから見ているのだ。人間ならば、この濁流を止められるのだろうか。この流れに身をまかせることも出来るのかもしれない。私にはそのどちらもできないというのに。
そのあたりの調整は柳さんの担当だったらしい。私には柳さんが何を考えていたのか分からないが、私を見た柳さんは少しだけ悲しそうにしていた。
私は失敗作なのだ。
人を殺せない。これは戦争用に作られたモノとしては決定的な欠陥だった。私は処分される。仕方ないことだ。私は生きる意味を果たせないのだから。
私は処分される。
これは死ぬということなのだろうか。私は人間ではない。生きているわけではない。しかし、柳さんは私に生きる意味を教えてくれた。私は生きているのだろうか。誰かを殺すために、人間を殺すために?私は、生きているのだろうか。
私は生まれる時代を間違えたらしい。平和な世界だったら、私は処分されずに、人間も殺さずに、笑いあって、手を取って、友だちになったりできたのかな。空の色を語り合ったり、銀杏の匂いに顔をしかめあったりできたのかな。
そんな世界があればどんなにいいだろう。
青い空に大きな白い雲がかかる。眩しい太陽が隠れて、私は少しだけ下を向いた。
涙が出る機能は私には無かった。




