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攻略対象の幼なじみ(女)

作者: ねこぬこ


夕暮れの1-Sの教室。

この教室に今いるのは私だけだ。

頼まれた仕事の書類には、このクラス全員の情報が載っている。

“本堂 凛”ほんどう りん、それが私の名前。

三大派閥の本堂グループの社長令嬢であり、この学園の理事長の孫でもある。

こんな仕事を頼まれるのもそのせいだ。

そろそろ遅いし帰ろうとしたところで、窓の外から叫ぶような怒声が聞こえた。

校舎裏、人目につかない場所で女子生徒1人に3人の女子生徒がなにか言っているようだ。


「また、か…」


いじめられてるほうの子は知ってる。

同じクラスの“城ノ内 朱莉沙”じょうのうち ありさ

この、お金持ち学園のただ1人の特待生。

“光琳学園”は全国的にも有名だ。

社長令嬢や、ご子息が多く通うこの学校は、普通の学校とは違う勉強がある。

もちろん一般的な勉強も行うが、国際学校となっているため留学生が来る。

語学の勉強は英語、スペイン語、中国語を基本とした計5カ国語は話せないといけない。

また、日本文化は外国人のおもてなしには必要なため、華道、茶道、舞の授業がある。

まぁ、これぐらいはこの学園の生徒なら常識だろう。

でも彼女は違う。

庶民としてこの学校に来た彼女は一切そういう教養は行ってこなかった。

なのに、この学校の生徒会が彼女を気に入ってるからいじめられているのだろう。

周りより劣っている、勉強だけの女が彼らに気に入られるのは許されない。

そう考える人はこの学校に少なくないのだ。

現にいじめはエスカレートしていってるようだ。

はじめは少しの脅しが、今は暴力や中傷などへ変わっている。

彼女はただの庶民のため、ただの“事故”に見せかけて殺されるかもしれないのだ。

それは、たいへんなストレスになるだろう。

私の予想は外れていなかったようだ。

いじめてる側の一人がカッターを取り出して、彼女にじりじり向かっている。

やりすぎだ。

今、私は2階にいる。

ここから飛び降りても怪我はしないだろう。

この学園で殺傷事件が起きるのは、私だって本意じゃない。

窓を開けて、ためらいなく飛び降りた。


「…っ、」


いきなり現れた私に驚きカッターを持っていた子が慌ててカッターを隠した。


「ほ、本堂さん。どうしましたの?」


引きつった笑いを浮かべながら、後ずさりする。


「ちょっと過剰ないじめがあった。私だって事件が起こるのは困るんだ」

「! わたくし達、用事を言っていただけですわ!それでは、ごきげんよう」


そう言ってすぐに走り去ってしまう。

顔は覚えた。学園の全校生徒は一応、頭に入っているので探すのは容易だろう。


「あ、の…。本堂さん、ありがとう」

「いや、礼はいい。ほら、行くよ」


怖かったのか、腰を抜かして座りこんでいる。

手を出すと、おずおずといった感じで手をとった。

手を引いて立ち上がらせると、彼女は顔を手で覆った。


「どうしたんだ?」

「っ、すみません、」


ぽろぽろと涙が零れ落ちた。

それはそうか。

彼女はこういったことに慣れてはいないのだろう。

まぁ、人に殺されそうになる経験なんて普通はない。

私は派閥の娘だったから、誘拐は何度かあったけど。

落ち着くように背中をさすると、私の肩に顔を埋めて泣いていた。


「もう大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます。」


少し目が赤くなった彼女は、笑顔で答えた。

近くにあった水道でハンカチをぬらして彼女に渡す。


「目、赤くなってる。冷やしたほうがいい」

「あ、はいっ」


中庭のベンチに座って、まだオレンジの空を眺めた。


「…少し、話してもいいですか?」

「あぁ」


ぽつりぽつり、語るように彼女は話し始めた。



*****


城ノ内 朱莉沙Side


私、最初はこの学園に来るはずじゃなかったんです。

だって私は庶民だし、他の人はみんなお金持ち。

そんなの合うはずがないってわかってましたから。

でも、私のお母さんが高校受験間際に亡くなってしまって。

お父さんは、私が小さいときに亡くなっていて私は1人になったんです。

どうすればいいのかもわからない。

両親は駆け落ちで結婚したから、親戚なんていない。

目の前が真っ暗になって、もう生きてる意味がないと思って。

死のうとしていたんです。

そんなときにこの学園の理事長が私を拾ってくれて、この学園に入ることになりました。

最初は怖かったけど、お金持ちの中にも優しい人もいると知れて私のはただの偏見だったんだなって思いました。

でも、あるときに生徒会に気に入られて。

みんな、今までがウソだったかのように冷たくなっていきました。

無視は当たり前、ものは無くなる、陰口は言われる。

日に日に酷くなって、私の居場所はもうないんだって思ってました。

さっき、殺されそうになったときもこれでいいんだって。

でも、本堂さんが助けに来てくれて思い出したんです。

お母さんの最後に言った言葉を。

「負けないで強く生きていくのよ」って。

それなのに、私はあきらめていたんです。

生きていくことに。

私は本堂さんに助けてもらったことを忘れないで、もう生きることを諦めないようにします。

そうじゃないと、お父さんにもお母さんにも悪いですから。

せっかくもらった命を無駄にしちゃいけないですからね。

ほんとにありがとうございます。


*****


本堂 凛Side


「聞いてくれてありがとうございました!気持ちの整理もつきました。このハンカチは洗って返しますね」


ばっとベンチから立ち上がると彼女は、私を見て笑った。


「城ノ内さんは、強いな」

「そんなことないです。私には本堂さんのほうが強く見えますよ」

「そうか?」

「はい、だって私のこと助けてくれたじゃないですか!」


やっぱり、彼女の方が強い。

こんなに綺麗に笑う人をはじめて見た。

冷たい風が通って、もう真っ暗になっていることに気づく。


「もう帰ろう。私は車だから送っていくよ」


そこで、鞄が教室にあることを思い出した。


「まずは教室だな」

「あ、私もです!急にあの子たちに呼び出されたので」

「そうか、なら私が取ってくるよ」

「あ、すみません。ありがとうございます」


私は彼女にここで待っててもらうように言って1人、教室へ向かった。


「やった。本堂 凛、攻略完了!」


――そう彼女が呟いていることを知らずに。


*****


「ただいま」

「おかえりなさいませ、お嬢様」


ずらっと玄関前にならんだメイドや執事が一斉に言う。

鞄を近くにいた執事に渡して自分の部屋へ向かう。


「おかえり、凛」

「ただいま、兄さん」


色素が薄い髪に綺麗に整った顔立ち。

本堂 玲 ほんどう れい。

この本堂家の跡取りで、高校2年。

試験はいつもトップ、スポーツ万能な完璧王子。

欠点と言えば…、


「今日は帰ってくるのが遅かったね。いつ帰ってくるのか心配で心配でたまらなかったよ」


シスコンぎみということだろうか。


「兄さん、だからっていつも玄関前でまたなくてもいいです」

「それは無理だなぁ。なんていったって、かわいいかわいい妹のことだ。仕方の無いことだろう?」

「どこがですか」


いつものことだからこれぐらいでスルーしよう。

じゃないといつまでたっても終わらなくなってしまう。


「それでは、課題があるので失礼します」

「凛、あとで話があるから。少しお邪魔するよ」

「わかりました」


たぶん、特待生の子のことだろう。

自室に戻って課題を始める。

数学の方程式の問題で、今までは数学を苦に思うことはなかった。

問題もすんなりと解け、そうそうに課題を終わらせる。

トントンとノックの音が鳴った。


「入って」


たぶん、兄さんだろう。

予想通り、顔を見せたのは兄さんだった。


「それで、話ってなに?」

「…特待生の城ノ内 朱莉沙のことだよ。彼女は生徒会と一緒に居すぎた。生徒会が庶民の彼女といると学園が荒れる」

「そうだけど…、彼女はいじめにあってる。それを守るのが生徒会なんじゃないのか?」


少なくても私はそう思ってる。

生徒会に関わったことで庶民と差別された彼女。

この学園の1番上の生徒会。

彼らに話をしないと…。


「明日、生徒会室に行って話してくる。生徒会が彼女のことをどう思ってるか知りたい」

「わかった。あと、これ理事長から。」


厚みがあるA4サイズの封筒を私に渡す。


「ありがと」


兄さんが出て行ってから、中身を見ると生徒会のことだった。

あいかわらず、学園長は用意がいい。


*****


「失礼する」


昼休み。私は生徒会室に来ていた。

念のための資料も持ってきている。


「誰だ…凛か。何のようだ?」

「生徒会長、私は生徒会の皆さんに用事があってきました」

すると、生徒会長“二階堂 悠斗”が少し眉根を寄せた。

「…生徒会全員か?」

「はい、呼んで貰えるとありがたいのですが」

「わかった」


何分か経った後、生徒会室には全員がそろっていた。

さて、そろそろ始めるとしよう。


「皆さんに集まってもらったのは、城ノ内さんのことです」


全員、予感はしていたのか動揺はない。

そんな中、会計の“伍堂 風雅”はわざとらしい笑顔を貼り付けて言う。


「なーんだ、凛ちゃんも朱莉沙ちゃんに近づくなっていうの?」

「そんなことは言わない。ただ、節度を守れ」


そういうと驚いたような顔をする。


「城ノ内さんと話しても別にかまわない。だが、条件がある」

「条件、か。何の権限でその話を出した?」


生徒会長は納得いかない、とでも言うような声を出す。


「権限は生徒会監査。これでは納得しないわけにもいかないだろう」


監査は生徒会を取り締まる権限だ。

生徒会が正しくないと思われた行動を取った場合のみ、この権限は使用できる。


「ねぇ、なんで僕らは朱莉沙ちゃんと自由に話すことができないの?」

「君たちは生徒会だろう?こういうことも覚悟してなったんじゃないのか?」


書記の“四堂 春”はその言葉に押し黙る。

そんなことも考えられないのでは、生徒会に入らないでほしいのだが。

少し厳しすぎるかもしれないが、それぐらい生徒会は権力、影響力がある。


「条件はなんですか?」


副会長の“三堂 レオン”が言う。

終始笑顔を向けている顔も、今は無表情に近い。


「条件は城ノ内さんと話すときは生徒がいないとき。それと一番に優先するのは生徒会の仕事。この二つだ」


すると、全員が驚いた顔を向けてきた。


「それだけで、いいのか?」


生徒会庶務の六堂 灯夜だ。


「あぁ。それさえ守ってくれれば、城ノ内さんと話しても何ら問題はない」

守ってくれれば、だけどな。

「…いつもすまない。面倒ごとを増やしてしまって」


生徒会長はさっきの憮然とした態度をいっぺんさせ、謝ってきた。


「謝罪はいらない。これから、仕事を増やさないようにしてくれればな」


その言葉ととものに立ち上がってドアへ向かう。


「そろそろ5時間目だ。私は先に教室へ行く」

「あぁ」

「ばいばい、凛ちゃん。…ありがと」

「うたがってごめんねー?今度、お詫びするよ」

「ありがとうございました」

「ありがとう」


全員の言葉を背中ごしに受け取る。


「じゃあ」


片手を上げて生徒会室を出た。

この資料はいらなかったようだ。

私もあまり使いたくなかった手段だから、少しほっとした。


凛のいない生徒会室―


「あ~あ、俺。一生凛ちゃんにはかなわないような気がするよ」

「同意」

「また、迷惑をかけてしまいましたね」

「今度は俺らがあいつを助ければいいさ」

「んー、そんな機会なさそうな気がするよ」

「全部一人で解決しちゃいそうだもんねー」

「…だな」


私が生徒会に城ノ内さんのことにたいして言ってから、数日たった。

私が言ったことを守っているようで、だんだんと城ノ内さんへのいじめも減っている。

ただ、問題が一つ。


「ねぇ、凛ちゃん、今日一緒に帰ろ?」

「駄目だ、今日は俺が一緒に帰るんだからな。そうだろ?凛」

「りーんちゃん、次の土曜日映画見に行かない?」

「凛、明日は予定あるか?」

「皆さん、凛が困っているでしょう?それに、凛は私と一緒に行きますので」


…どうして、こうなった。


*****


「もー!意味わかんない!!本堂さんとの会話の台詞も完璧なのになんでいきなりいじめが終わったわけ!?これじゃ、攻略できないじゃない!!せっかく、逆ハーレムルート目指してたのに!!私以外にも転生者がいたの!?誰よ!絶対に見つけてやるわ!」

そう言って、誰かはスマホにメールを打ち込む。

「この世界の主人公は私なんだから!!そうよね、神様!!」



あれ?幼なじみ要素はどこ…?


作者のやる気があれば連載します!!

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