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4話 因果応報 前編

 こんこん、とサリアが扉をノックした。


「ザブニール様、アキをお連れしました」


 アキラは湯浴みの後、サリアによってザブニールの私室へと案内された。着替えは他の奴隷と同じメイド服だった。


「おお、待っていたよ。入ってくれるかな」 


 ザブニールからの許可を貰ったサリアは手をさっと扉へ向け、どうぞと促した。

 その行為にまさか、と視線を送るアキラに対して、ゆっくりと瞳を閉じる事でそれに応じるサリア。ザブニールと二人きりになると言う現実にアキラは早くも眩暈がしてくる。

 どこかの記事で読んだことがあった。人は極限状況において多重人格を作り出す事がある、と。

 ――今なら大歓迎だ、抱きしめてキスしてやる。

 アキラは意を決して扉を開いた。


「アキ、じゃあそこに座って貰えるかな」

「はい」


 ザブニールはソファーに座っている。アキラはテーブルを挟んだ向かい側のソファーに腰を掛けた。

 さっそくだけど、とザブニールは話し始めた。


「ここでの細かなルール……まぁ仕事とかその辺りはサリアに全部聞いて欲しい」

「分かりました」

「で、僕から話したい事は……まずはそれ、敬語を強制はしないよ」

「あ、そう」


 しかし、サリアも含め、全員が敬語を使っていた。

 それは敬語はやめて欲しい、いらない、ではなく『強制は』にかかっているのだろう。

 暗に別に敬語でも構わないとザブニールは言っていた。自分の意思で決めろと言う事だ。

 ――服従か、反抗か。

 

「面倒だから大雑把に言っちゃうけど、僕は奴隷契約を使って何かを強制する事はしないし、するつもりもない」

(強制、ねえ……)

「要するに――奴隷である事から全力で抵抗して欲しいんだ」


 獲物を吟味する目でザブニールはそう言った。


「どっこいしょ」


 この通り太ってるからさ、立ち上がるのも一苦労だよ。と笑いながらアキラに近づく。

 アキラの頭の中で警戒音が大きく鳴り響いた。

 即座に飛び上がり、扉を開け放とうとするが――開かなかった。


「無駄だよ、当然だけど鍵は開かない」


 にやにやと笑っているザブニールを無視して、冷静に扉の破壊を試みるアキラ。

 女の身体になっているとはいえ、力の使い方を忘れた訳ではない。筋肉は使い方だ。筋肉が多少なりとも減った所でこの程度の扉を壊すことは難しくなかった。

 息を吐いて身体を脱力させる、一瞬の後全力の蹴りを――


「あ゛ー?」


 放った。扉を蹴りはした、だが、全力ではなかった。

 困惑でいっぱいのアキラに親切にもザブニールが答える。


「ぷぷ、いやいや、主人の家を壊せる訳ないでしょ?」


 ――何だそりゃ!

 どうすればいい、何か手は……。しかし、もう脱出の時間は与えられなかった。

 ザブニールの手がアキラに伸びる。


「さわんなデブ!」


 アキラは懇親の回し蹴りで金的を狙う。

 その蹴りは見事に標的を撃ちぬいた――ぽすん、と軽い音を立てながら。

 その脚を掴み、ぷぷ、とザブニールは笑う。


「学習しなよ。主人に危害を加えられる訳ないでしょ? 無意識の内に力をセーブするようになってるんだよ」


 だから――とザブニールは続ける。


「精一杯抵抗してね、ア・キ・ちゃん」


 ザブニールは脚を引っ張ると同時に、そのまん丸と太った巨体でもってアキラを潰すように抑え込んだ。

 アキラも全力で抵抗するが、抑え込まれた状態で危害を加えずに脱出するのは不可能に近い。ただの置物ならばゆっくりと力を入れて押しのければいいのだが、生憎と相手は人間である。

 ザブニールはほぼ無抵抗と言っても過言ではないアキラの頬をぺろりと舐めた。


「うひぃ!」


 身体中、頭から爪先まで一瞬で駆け巡る嫌悪感。鳥肌がぷつぷつと立つ。


「おや、汗の味がするよ。本当に湯浴みしてきたの?」


 そう言ってザブニールはアキラの金色の髪に鼻をうずめ、すうっと吸いこんだ。

 ――人形だ、人形になれ。

 アキラは先輩からのアドバイスを思い出す。

 もう覚悟を決めるしかない。ならばその中で最善の手は?

 ザブニールはアキラの抵抗を楽しんでいる。何の反応も示さなければさぞ悔しい筈だろう。


「……」

「ぷぷ、我慢するんだ? まぁ頑張ってよ、どこまで耐えられるのか見ものだね」


 にやにやとザブニール笑う。頭に一回キスをして状態を起こし、マウントポジションの形になった。

 ここはどうかな? とザブニールはアキラの胸に手を伸ばした。

 アキラの心は当たり前の話だが、男性である。女性にしか分からない、胸を触られる事への拒否感は少なかった。


「……」

「ふうん、期待通りアキは強い娘だね、それじゃあココは……おっと、そういえば忘れてたよ」

「え」


 ザブニールはアキラの顔を両手で固定し、熱い口づけをした。


「んー! んー! んうううううう!」


 アキラはこの日、一生涯消える事のない傷を負った。

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