悪役令嬢は男なんです???
またプロローグのみです
ベッドから起きると正面に掛かっている鏡にイケメンが映っている。間違っても俺の顔ではない。ついでに言うと五歳位元の年齢よりも若返っている。
驚き過ぎて暫く布団の上で呆けてるとドアの方からノックの音がして、メイド服を身のおばちゃんが入ってきた。
え、なんだ。どうなってんだ。
恐らく間抜け面でおばちゃんを眺めていると、おばちゃんはニコリとも愛想笑いをせずに、
「坊ちゃま、朝でございます。早う起きませんと学校に遅刻致しますよ」
と言った。
坊ちゃまって、俺のことか?まあこの場では俺とおばちゃんしかいないし、それしかないだろうな。
おばちゃんは部屋のカーテンを全て開けるとさっさと部屋から出ていった。
とりあえず学校に行かなければならないらしい。
あまり変な動きでもして精神科に入院、なんてことになっても不味いのでともかく行く準備をする。
机の上に綺麗に畳まれた服(多分制服)を着ようと広げると、見覚えのある服が。
ギョッとして二三度服の前後を確認するが覚えている限り間違いない。
これ、俺の会社が作ってた乙女ゲームの制服じゃね?
コスプレ服かよ。と服を畳み直して制服を探す。
が、ここで俺は机に並んでいる教科書に書いてある名前を見て更に驚かされた。
桔梗院礼司。いや、誰だよ。
疑問に思ったがどこか聞き覚えがある。というかこのコスプレ服の舞台と同じ乙女ゲームの主要キャラクターの一人と名前が似てる。まあそのキャラ女なんだが。確か桔梗院礼子って言ったはず。
そういえばその隣にある鞄もそのゲームの舞台となる学校の鞄だ。鞄は綺麗だがある程度使い込まれているのが傍目からも分かるし、中には教科書やら筆箱やらが入っていていかにも学校で使ってますと言わんばかりだ。
え、マジでこの服で俺通ってんの?制服自由とかそういう学校なのか?
仕方がないので腹を括ってコスプレ服に着替えて鞄を持って部屋を出るとさっきのおばちゃんが立っていた。
ビビる。普通に怖いし。
おばちゃんはそっと自然な動きで俺の手から鞄を取る。
そのまま俺の後ろにつくので一体どっちに行ったらいいのか分からない。
あ、この家絶対広い家だわ。自分の部屋から出ただけで廊下が左右と前の三本伸びている。
仕方がないので適当に左に行こうとするとおばちゃんに
「寝惚けてらっしゃるのですか?リビングは右の通路ですよ」
と言われた。
知らなくて仕方ないことだとはいえ、恥ずかしい。何でこんなことになってんだ。
右の廊下を真っ直ぐに進むと大きな部屋に突き当たった。多分ここがリビングだ。大きな机に乗った朝食からいい匂いがする。壁際には何人もの執事やメイドが立っている。
なんという金持ち感。
椅子に近付くとメイドの内の一人が椅子を引いてくれた。このメイド、めっちゃ美人だわ。銀縁眼鏡が理知的で似合ってる。
というか何だか似てるの見たことある。
例のゲームの主要キャラクターの一人に結構似てる。まあ、あっちは男キャラだったけど。女にしたらこんな感じだ。
確か名前は瀬能明。常に敬語で話す鬼畜眼鏡だったはずだ。
まあでもあれはゲームだしな。そんなファンタジーなこと現実で起こるわけないし。
……もう十分この時点でファンタジーか。
この人の名前を知りたい所だが、聞くのが良い方向に向かうかどうか。そもそも名前を知っているような間柄だったらそんなこと聞いたら完全に怪しまれる。そう考えるとやはり聞くのは得策ではないのかもしれない。
結局諦めて朝食を食べることにする。
朝食は今まで食べたことがないくらい旨い。でも量も多い。これ、絶対に一人分じゃない。残ることを前提に作られているのだろう。
でも残すの勿体無い。と勿体無い精神が首をもたげてくる。
とりあえず出来るだけ食べようと決めて片っ端から食べていくが、それでも少し残ってしまった。
「ごちそうさまでした」
つい癖で手を合わせ、そう言ってしまうと周りがにわかに驚くのが分かった。
…あ、これ言っちゃ駄目なのかよ。
学校への道のりについては何も心配することがなかった。
車通学なんて有難い限りだ。流石お金持ち。
車内は終始無言だったが、それが逆にリラックスできた。
そしてまた学校に着くと驚かされる。
学校の外観がゲームと同じだ。それに門に書かれている学校名も。清秀学園と書かれている。
これは、どういうことだろう。まさか本当にゲームの中なのか?でも俺(の体)、桔梗院礼子じゃなくて礼司みたいだし。もしかして、親戚のキャラになったとか?いや、そんな馬鹿な。
そもそもこの状況、なに。
頭が混乱してきた。
ともかく学校に行ってみよう。もし本当にこれがゲームの中なら攻略対象やヒロインもいるだろう。それを確認してからまた考えてみよう。
とりあえず生徒手帳を鞄から取り出し、クラスを確認する。二年A組。
そういえば桔梗院礼子も二年生の設定だった。クラスまでは忘れてしまったけれど、確かヒロインと攻略対象の内の一人と同じクラスだったはず。
そんなことを考えながら教室に向かう。ドアを開けて、俺は自分の席がどこなのか分からないことに気付いた。
どうしよう。
そう思って意味もなくキョロキョロと辺りを見回していると、
「桔梗院くーん!」
と声がした。
声のした方を見るととんでも美少女が手を振っている。触るといかにもフワフワしてそうな亜麻色の髪に透き通るような翡翠の瞳は零れ落ちてしまいそうなほど大きい。肌も白くて、まるで異国のお姫様みたいだ。
好みドストライク過ぎる。かわいい。
俺、あの子と知り合いなのか?役得。
胸を若干ときめかせながらその子に近付くと、彼女は俺の耳元に口を寄せた。
俺のトキメキ指数が10上がった。
「ねえねえ君も中身入れ替わり組っしょ?」
は?
ビックリして思わずバッと彼女の顔を見ると、彼女はにんまりと笑っていた。見た目とのギャップすごい。
っていうか中身入れ替わり組って、え?は?
「え、もしかして君も?」
「うん、そうナリ~」
軽い返事が返ってくる。
「でも何で分かったわけ?」
「あんなに辺り見回してたら挙動不審だよ。まっ、だからこそ分かったわけだけど~!」
「……なるほど」
「ヤダ、照れ顔かわいい!あ、ってか君さあ、男だから名前微妙に変わってない?名前なに?」
「あ、うん。桔梗院礼司ってなってた」
「へぇー、そうなんだあ。あ、私は朝比奈桃子」
朝比奈桃子。
あれ、この名前なんか聞き覚えがある。
攻略対象のキャラと名前似てるな。
「朝比奈桃里?」
「うん、それそれ~!」
ニパッと快活な笑みを浮かべる朝比奈。うん、かわいい。性格は想像と違ったけど見た目はやっぱり好みドストライク。
でもなんかこの性格楽なんだよなあ。
知り合いと性格似てるからかな。
「何でこうなったかとかって、分かる?」
「いやー、それがサッパリでさあ。その言い方だと君も?」
「うん、俺も全然かな」
そう言って軽く笑うと彼女はじっとりと俺を見てきた。
え、なに。
「なーんか、私の知り合いと似てるんだよなあ」
「え」
「ん?」
「俺も、実はそう思ってた」
俺達はお互い顔を見合わせる。
「あれ~、もしかしてこれはもしかしちゃう感じ?」
「それならいいな」
「本名お互い公開しあおっか」
「分かった」
「じゃあ私から。飯島紗江。年齢二十三の職業はクリエイターでっす!」
「うわ、やっぱりサエだ!どうりで似てると思った」
「あれ、それってつまり?」
「多分、想像通りだよ。仁川太一。多分、仕事同期の」
「えっ、やっぱター坊だった~!よかった、知り合いがいるってだけで心強い!」
「俺こそ、ホッとした」
急に楽になった感じがした。
やはりこんな状況だし、気を張っていたらしい。
サエは高校からの友人であり、現在は職場の同期だ。仕事は主にゲーム制作。
アクション系のゲームが好きで入社したが、何故か直ぐに乙女ゲームの制作の方に回された。それで作ったのが、ここの世界と似ている例のゲーム。割と売れたし、結構携わったので愛着もそれなりにある。サエも一緒にこっちに回されたし、一緒に制作していた人達も気の良い人達だったので制作中は結構楽しかった。まあ、ゲームがゲームなので女子の比率が圧倒的に多かったけど。
その中でもやはりサエとが一番気の置ける関係だ。付き合い他より長いのでその分色々と知れてるし。
サエとは元々ハマる系統は違うがオタクということで高校の時に仲良くなった。俺はゲーム系で特にやるのはアクション系。サエはイケメンなら何でもござれの面食い(ただし二次元のみ)。乙女ゲームもBLもイケるタイプって感じ。因みに割と毒舌を吐く。
「よし、じゃあ一緒にこの原因探ろう!あ、ター坊席ここね」
「おう。え、なに、席隣じゃん」
「うんー」
「窓際の後ろだし、いいねこの席」
「ねー。てかそういえば今日ね、ゲーム初日の日だよん」
「そう?じゃあヒロイン 転入してくる感じ?」
「ん~、多分ー。私達が本来と性別逆転してるからヒロイン男になっちゃうかな」
「そしたら美少女からイケメンにシフトチェンジか」
「ヤダ、その展開萌える~!ヒロイン力ですぐ攻略されちゃいそ~!」
とサエは悶えている。
この場合は元々ゲームだから2.5次元的な感覚なのか?
というか攻略された場合、俺悪役だからヤバいじゃん。桔梗院礼子って碌な最後遂げて無かったはず。
そう思いつつもサエと話しているとチャイムが鳴った。
なんか懐かしい。
キャバ嬢と見まごう担任が教室に入ってくる。
ここでも性別逆転とか。担任も攻略対象だからかとても美人だ。
「ハイ、今日は転入生を紹介します。さあ、入って」
そう言われて教室のドアが開く。
ストレートの長い黒髪に桃色の瞳。とんでも美少女だった。
あ、これヒロインだわ。しかも女。ヒロインは性別逆転しないのか。
「じゃあ自己紹介して下さい」
「はい。合川結菜と言います。これから宜しくお願いします」
そう言ってペコリと頭を下げる彼女は、まあ可愛いよな。流石ヒロイン。
「では合川さんは朝比奈さんの席の隣に座って下さい。朝比奈さん、手を上げて」
「はーい」
サエが間延びした返事をしながら手を挙げると、ヒロインの目が見張った。
驚いた顔、してる。
あれ、これって?
「ハイ、入れ替わり組三人目追加されました~」
と小声でふざけたようにサエが言った。
からの、
ヒロイン(逆ハー狙い)が攻略対象が皆女だと気付いてガッカリする→あら、悪役令嬢キャラがイケメン→主人公ロックオン
な展開のゆるい話になるはずだったがここで力尽きました