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06 百貨店

第6話




「お義兄ちゃん。私はどれが似合うと思う?」


 色んなスカートが掛かってるスペースの一画までもうひとりの俺を連れて来るとニコニコしながら伺ってみた。

 すっげー恥ずかしそうな表情なもうひとりの俺……って、何度も『もうひとりの俺』なんて小難しく言ってると思考のテンポが悪くていけないなぁ。そうだ、今度からは『元俺』って心の中では呼ぼうっと。


 で、その元俺はとっても恥ずかしそうなんだ。そりゃあロリなオレに手を引っ張られたとは言え、婦人服売り場に男が迷い込んだら平常心で居られるはずもないからね。元男のオレがそう思うんだからこれは必然だったりする。


「そんな事言われてもなぁ。どれも可愛いんじゃないか?」


「またそう言う当たり障りの無い事で誤魔化そうとするー。お義兄ちゃんにはポリシーって言うのは無いの?」


 そんな事を言う元俺に向かってほっぺたを膨らませたオレは上目遣いに見ながら不満をぶちまける。当然胸の辺りで腕を組んで。私面白くないんですよアピールは出来ていたかな?


「いや、そんなに怒るなって。って言うかポリシーってこう言う場合で使う言葉だっけ?」


「お義兄ちゃんは判ってないなぁ。私達は一緒に住んでるんだからこれからは今から買う服で私は過ごす事になるんだよ? ならお義兄ちゃんだって私が可愛い服を着てた方が毎日が楽しくなるでしょ? だから私の似合う服を選んでって言ってるんだよ」


 わざわざ自分からこんな女子っぽい話し方を率先してやっているんだけど、なんだか脳みその血管に甘ったるい汁が回ったみたいでとても気恥ずかしい。まあ、周りにも気を使わないといけないから使い続けるけどね。

 んで、オレの今使ってる言葉遣いは勿論外行き。近くに店員さんがいるのもあるし、部屋に居る時みたいな話し方はちょっと女の子として萌えらんないからね。

 でも……。でもさ、このさ、女の子っぽい話し方はさ、なんかいいんだよなぁ。しっくりくるって言うか、この黒髪ツインテロリ少女の姿形にジャストフィットしているって言うか……。まあ要するに気恥ずかしいんだけど癖になりそうなんですわ。


「そ、そっか。そうだよな。毎日見るんだから納得した服にしないとな。よ、よーし、どうせ俺とお前は服装の嗜好は一緒だからアレを探してみるか?」


「アレって言うとデニムのミニスカの事だよね?」


「おおぉ、流っ石! 判ってるねぇ!」


「判ってますって! アレを履いた女の子の体育座りの隙間から見える白いパンツが最高だから!!」


「しっ! 気持ちは判るが今のお前は女の子なんだから大声でそう言う事を言うのはやめとけ」


 ううぅ、良かれと思って言ったのに怒られた件……。むぅ、まだまだ女子力が足りてないかな。(全然どころか今のところ女子力皆無ですよ神酒さん)







「あのぁ、すみませーん」


 色々と周って可愛い服とかを見て回ったんだけど、とりあえず元男と現男ではどうにもならない事があるのでそれを対処する為に、近くでさっきからオレらの動向を窺っている二十代であろう女性の店員さんに声をかけてみた。


「はい。お客様お決まりですか?」


「ほらほら、神酒(みき)。せっかく店員さんが来てくれたんだから言わなきゃだめだろ?」


 元俺がわざわざ心配そうに(・・・・・・・・)オレに言って聞かせてくれる。これはアレだな『俺は付き添いとしてここに居るんだぞ』アピールですね。判ります。


「えーっと、じつはですね……。私って身体のサイズを測ったことが無いんですよ。ですから胸の……ブラの……サイズとか判らないんです……」


「えーっと、お客様? それならばこちらでお測り致しましょうか?」


「ぜ、是非お願いします!」


 店員さんの言葉にオレは明らかに大きな声で肯定してしまった。無駄に大きな声で元俺も店員さんもちょっと引いている。

 だ、だって、こう言うのは勢いだから! 勢いでなんとかするもんだから!


「で、ではあちらの試着室までよろしいですか?」


「あっ、はい。よろしくお願いします。ほらお義兄ちゃんもこっちこっち」


「あ、ああ。判った」







「えーっと、トップは68cmでアンダーは64cmですね。それじゃあ次は腰回りを測りますね……。えー、ウェストは53cmですね」


 現在試着室の中。

 その中でオレは店員さんと一対一のマンツーマン状態。女の人とふたりきりの個室空間はちょっとクるものがある。でもなぁ、今のオレは女の子だからなぁ。はぁ……。やっぱり突き刺すモノが無くなると思考回路も淡白になってしまうよ。

 そんなオレの頭の中なんて知らない店員のお姉さんはテキパキとオレの身体を測りつつメモ用紙に数字を記入する。

 最初の段階で黒ジャージの上着を脱いだんだけどさ、その時オレがブラジャーをしていない事にちょっと眉をひそめたけどそれ以上は何も言わず黙々と測定をこなしていく姿はプロだなーって感心してしまった。


 さっきの店員さんの言葉にあったトップってのは先っちょの事みたいだな。んでアンダーってのはふくらみの下の部分みたいだ。男の時は用事の無かった単語なので判りづらくてしょうがない。

 わけも判らずに自分で測ったりせず女性に測定を頼んで正解だったかも。


 で、トップ68cmのアンダー64cmってどのくらいの貧乳なんだろう? 自分のおっぱいが貧乳なのは見れば判るけど世間でどのくらいの小ささかが比較が出来ないんだ。まぁ小さいって言うても一応は膨らんではいるから真っ平ってわけではないんだよ。

 洗濯板好きのそこの君には悪いんだけどほんの少しはあるからね。でもその辺りはスルーしてもらい、気を落とさずにこれからも読んで頂きたい。







 測り終えたオレと店員さんが試着室から出てくると元俺が泣きそうな顔をしながら待っていた。たぶん女性の視線ビームが何本も体を貫いたんだろう。

 ご愁傷様です……。


 おっと、それじゃあまずは店員さんに聞いてみようか。


「あのぉ……、私はどのくらいのブラをすればいいんでしょうか?」


「お客様なら、えーっと……Aカップ……いえAAカップがよろしいと思いますよ」


「そうですかー」


 よし!! Aカップと言えば貧乳好きにとっては勲章じゃないか!! しかも今回は更に(した)のAAカップと来たもんだ! 

 すっげーなー、この身体のスペックのポテンシャルには驚かされてばかりだ。


「判りました。じゃあスポーツブラとそれに合うパンツを下さい」


「お客様、パンツとはショーツの事でよろしいですか?」


「あっ、はい。そうです。それです」


「畏まりました。それではこちらへどうぞ」


 ……………………

 ………………

 …………


 よしまずは下着一式を三着分買ったぞ。白のスポーツブラと白のパンツだ! エロくないところが逆にエロいのが味噌だ! 

 で、なんで服と一緒に買わずに先に下着だけ買ったのかと言うと、試着室で服を試着する隙にブラとパンツを装着してしまう為なんだよ。

 今迄言ってなかったけどさ、ノーブラと男物のトランクスだとやっぱり痛いんだよ。擦れたりするとさ。先っちょとか剥き出しになってる大事な部分とかがとても。

 だからとりあえずは早く下着を替えたいな。







「じゃあちょっと試着するねお義兄ちゃん」


 元俺にそう言って、普段着の上着とかミニスカ、それにワンピースなんかを三着ほど選んで試着室に掛ける。


「おう。出来るだけ早くしろよ。俺ひとりでここに居るとHPがごっそり減るからさ」


「判ってますって」


  


 試着室でひとりになったオレはとりあえずパッパーって黒ジャージと男物のトランクスを脱いで全裸になった。そして紙袋の中にあるパンツをひとつ手に取ると『よいしょ』なんていいながら足を通して履いてみる。

 うん。ジャストフィット! 良い感じに引き締まった感があるね。

 更に紙袋を開けてスポーツブラを手で掴み取り出すと目の前に広げてみた。これがブラジャーかぁ。肩紐とかあるなぁ。

 うーむ、これをオレが付けるのか……。なんだか背徳感が込み上げて来る。でも女の子だもんな仕方ないよな! うん仕方ない。

 おおぉ、この綿が詰まってるっぽいところはすっげー柔らかいなー。ここに先っちょ部分を当てて擦れないようにするんだろ? そのくらいオレにだって判るさー! 女の子初心者だけど! まだ成り立てほやほやだけど!


 よ、よし、付けようっと。えーっとこれはホックとか無いから、上から被る様にして付ければいいみたいだな。

 うんしょうんしょ。

 これで胸を押さえたら、肩紐を肩に掛けて……っと。

 よし! 装着完了! 


 正面の鏡には嬉しそうにはしゃいでいる白い下着を付けた少女がひとり。まさにその姿は下着が普通すぎてエロくないのにエロい。そんな風な女の子が立っていたんだ。

 うはー、子供っぽい下着最高だなぁ。帰ったらもっとじっくり見よう。


 それじゃあ、試着しますかー。







「いやぁ、買ったなー。普段着から下着に靴下。それに靴まで買ったもんなー」


 百貨店から駐車場への帰路。荷物の紙袋を四つも持った元俺にそんな事を言ってみた。

 男は重い物を持つのが役目ですから!

 オレ? オレは下着の入った紙袋だけを持ってますよ?


「ああ、そうだな。ああぁ、こりゃあ銀行の定期をひとつ解約しないと……」


「ごめんなー。三万円じゃ全然足りなかったからな」


「そりゃなぁ、まあ、でも仕方ないさ。気にすんな。それにほら俺もミニスカ少女がそばに居るってだけで目に優しいからな!」


「おう、防御力は弱いからな。いつでも無意識にパンツ見せてると思うから存分に堪能していいぞ!」


 現在のオレはさっきまでの黒のジャージを改め、白い薄手のブラウスに薄青のデニムミニスカートを履いた新生諏訪神酒(すわみき)となったのだ!

 もうオレが可愛い過ぎて辛いわー。







 駐車場までの五分くらいの間ふたり並んで歩く。夕方の繁華街の歩道を歩いていると妙にねっとりとした視線を何度も何度も浴びてるのが認識できてしまう。

 これはアレだな。周りに居る男からの視線だな……。そう思うと一番ねっとりとした視線に女性脳レーダーを合わせる。

 …………。…………。……ん! こいつか! 視線を上げずになんとなくその男を視る。ふむ、小太りの男子高校生みたいだな。まあ、高校生くらいの年頃はヤりたい盛りだからな。可愛い女子を見ると見ずにはいられないんだろうなぁ。オレにも経験あるから判るぞ少年! まあでも、オレを視て脳内で犯すのは勝手だけど手だけは出してくれるなよ。それはもう犯罪だからな!

 だから保険として一応は元俺にも認識してもらおうとその高校生の事について言及だけはしておこうか。


「ほらあいつ見てみろよ。あの太ってる高校生いるだろ? あいつこっちをずーっと見てるみたいだけど絶対オレの事視姦してるぞ」


「バカ。判ってるならあんまりじろじろ見てるなって」


「まぁまぁ、オレもこの可愛らしい格好を男どもに見てほしくてたまらないからさ。ちょっとくらいは我が儘させてくれたっていいだろう?」


 このくらい言っておけば元俺も危機感持ってくれるだろう。


「まったく……。あっ、ほらまた一人称が『オレ』になってるぞ」


「あっ、ごめん。私。私。よし!私だ。うん」


 おーっと、イケナイイケナイ。油断したつもりはなかったんだけど天下の往来で『オレ』なんて言ってしまったよ。反省しなきゃな。


 


「あんまり心配かけさせるなよ……。ふぅ……じゃあ気を取りなおして、今日はTS記念日って事にしてお祝いをする為にどこかへ食べにでも行くか?」


 おー! お祝いかー! それはいいかもしれないぞ。よく言った元俺! 褒めてつかわす。

 可愛い服も手に入ったし、その上お祝いまでしてくれるなんて流石は昨日まではオレだった人間だ。カッコいいぜ!


「おお、それいいな。あー、あとさ、それに合わせるわけじゃないけど私の誕生日は昨日って事でよろしく」


「だな。じゃあこのまま車に荷物置いて駅前まわるか? それとも萬代橋越えて古町の辺りまで行く?」


「そうだなー。ならさ、駅の連絡路を通って駅南のテキサスブロンコにしようぜ」


「おう、そりゃ構わないけどお前そのロリ体型でジャンボハンバーグ入るのか?」


「入る入る。ハンバーグは別腹なんだわ」


「そうかー? ま、いいか。じゃあ行くかー」


「おー!」


 荷物を車の中に置いたオレらふたりは駅の中の連絡通路を通って一路駅南へと歩いてるところ。うーむ、ちょっと遠いなー。車で行った方がよかったかもしれない。


 で、さっきの話だけど、あの大きいハンバーグをこの小さな体で本当に残さずに食べられるかな? ああは言ったけどちょっと不安だったりするんだ。

 不安と言えばこいつは今、不安とか無いのかな? 幸せかなぁ?

 頭に閃く様に急に元俺の事が何故か判らないけど気になりはじめた。むむむ、どうしよう。気になって気になって仕方がない。


「な、なぁ?」


「なんだ」


「お前、今幸せか?」


「?? いきなりどうした?」


「いや、なぁ、お前は今どう考えているかなーって。どうだ? 幸せか?」


「うーん。まぁ、幸せかな。お前もいるしな。少なくとも女っ気がプラスされたからな。前よりはいいんじゃないか」


「そっか」


「しかし、いきなりだな。何かあるのか?」


「いやいや、何でもないよ。なんでも。それより早くテキサスブロンコへ行こうぜ。私ははもう腹ペコだよ」


「お、おう」


 なんでそんな事を聞いたのか自分でもよく判らない。ただ、いきなりオレの心がそれを聞かなくちゃいけないって命令を受けたみたいな……そんな感覚で心全体が覆われてしまったんだ。


「おい、どうした? 歩かないと置いていくぞ」


「……あっ、待ってくれよー!」


 まぁ、今はいいか。とにかくはごはんだ。面倒くさいのは後で考えようっと。





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