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02 有名な夢

サブタイトルをダジャレにしてみました。

 夢。夢なのかな……?


 ここはピンク一色の大きな部屋。どこかで見た事があるんだけど何の部屋なのかが思い出せない。テーブルやソファなんてものがあるし、後ろを見れば棚やら調度品があるから誰かの部屋が夢で再現されているんだろうけど……。


 何度も頭を捻ってみたけどやっぱり肝心なところは思い出せない。

 って言うかさー、普通、夢に出てきたりする空間や部屋は黒一色か白一色だろ!?

 何でよりにもよってピンクなんだよ! 


 一頻りピンク色について悪態をつくとようやくこの部屋の色への苛立ちが収まってきた。

 冷静になってなんでピンク色の夢を見てるのかを考えてみたんだけど、多分TSしたからじゃないかな。そうだそれに違いない。根拠なんて何もないけどそれでいいさ。もうオレの脳みそはお花畑のピンク脳になってしまったんだろう。

 じゃなかったらこんなピンク一色になるわけがない……。


 ああ、こんな脳みそお花畑になってしまったからには、趣味にすっげー情熱をかけたり、アニメの女の子キャラに多額のお金を費やす事が出来なくなるんじゃないだろうか。そして逆に色恋の道に突っ走ったりしちゃうんじゃなかろうか……。 


 うーむ、困ったぞ。


「お兄ちゃん」


 ピンク脳をなんとかしなくてはと苦悩するオレの耳に変な声が聞こえてきた。何の声だと思いその声の方向を振り向いてみる。


 なぜかそこには今現在のオレの姿をした女の子が立っていた。なぜか服装はオレの生まれた頃の昭和のファッションなんだけどね。

 あれー? またオレが増えたのか!? なんて驚くとその子は、片手を背中から通してもう片方の手を掴む。そしてとても澄んだ声色で話しかけてきた。


「お兄ちゃん。私の事は判る?」


 その声は意味ありげな内容が含んでいる様に聞こえる。しかし夢にしては言葉が鮮明だなー。


 この子の質問の意味をちょいと考えてみたけど、オレや俺には妹はいないからなー。うーむ、記憶には無いだけで小さい頃近所にいた子なのかなー。


「ごめんね。ちょっと記憶に無いなー」


「う、うん。そうだよね。私のことなんて判らないよね……」


 オレの声が相変わらず女子なのは夢でも同じだけど、目の前の子も同じ声を出してる。なにか因果関係でもあるんだろうか?

 

「なんでオレ……私がお兄ちゃんなの?」


 誰なのかも知らない人に『オレ』なんて言うのもどうかと思い『私』と言い直す。


「うん。お兄ちゃん。私の事はパパやママから聞いてない?」


 えっ? 何かどこかで……ああああ! そう言えば小学生の頃に聞いたような気がする! 


 それは昔の記憶。物心が付く前の事で、その記憶自体を忘れているくらいの昔の記憶。


 そう言えば親父が言ってたなー。本当は双子で生まれてくるはずの妹がいたらしい。でも、その妹は出産の時に運悪く死んでしまったそうだ。


「思い出してくれたみたいだねお兄ちゃん」


 わずかな表情の変化で、オレが気付いた事を見逃さなかったみたいだ。

 なんて洞察力だよ!

 少しその洞察力に恐怖を感じるけど、表には出さない様にしておく。

 でも、それすらも気が付いたりして?


「じゃあ、お前はオレの妹だって言うのか!?」


「うん。幽霊ってわけじゃないからそんなに怯えなくてもいいよ。あー、でもやっぱりこれは幽霊でいいのかな?」


「幽霊の話は勘弁してくれよ。怖いのはあんまり好きじゃないんだ」


「あははは! 何も恨み言を言いに出てきたわけじゃないよー。それにもう私は力を使い果たしてしまって何にも出来ないんだから、お話しくらいは聞いて欲しいな」


「そ、そうか。何か言いたい事があるなら言ってみな。そうだ、お墓参りの時はお前の事も一緒に手を合わせてやるからな!」


「わー、嬉しいなー。いつもパパだけが私に手を合わせてくれてたんだけど、次からはお兄ちゃんも手を合わせてくれるんだー」


 妹は花が咲いたように晴れ渡った笑顔を作るとそのままオレの周囲を走り回る。よっぽど嬉しいんだな。

 そっかー、お墓参りでその人を思い浮かべて手を合わせると本人はすごく喜ぶんだな。はじめて知ったよ。

 今までは爺ちゃんとお袋にしか手を合わせてなかったけど、今度からは妹の事も思い浮かべよう。







「それで話しってのはなんだい?」


「うん。お兄ちゃんの体の事。その体はね、私が十六歳になった姿を再現したの」


「十六歳にしては小柄だな」


 オレは黒のジャージに包んだ自分の胸を掴むと小声で呟いた。


「もう、ちゃんと聞いてよお兄ちゃん。それでね、私は三十年以上も昔に死んでるのに意識って言うか残存した思念みたいなものがお兄ちゃんのおへその辺りに残ってたの」


 なんだそりゃ。意味判んねー。オレの行動はずーっと監視されてたのかよ!


「監視じゃないよ! 寝てるみたいな感じだから意識があるようで無いんだよ!」


 って、心の叫びまで聞こえるのか! 恐ろしや我が妹。


「だからね、お兄ちゃんが嬉しい時は心が暖かくなって私も嬉しかったし、悲しい時だって私も心がとても悲しかったの」


「そしてこの前、お兄ちゃんが初めての恋に敗れてヤケ酒を飲んだ時、私は決めたんだよ。私がお嫁さんになるって!」


 そう、オレにも好きな女がいたんだ。だけど告白する勇気もなかったオレはいつも彼女の事を遠目に見ているだけ……。それでもオレ自身は幸せを感じていたんだ。

 でも、今週の頭に街で見知らぬ男と連れ立って歩いている彼女を目撃した瞬間……ああ、やっぱりなーって自分のバカさ加減を嫌というほどに味わってしまった。

 そして居酒屋でヤケ酒を呑みまくって、翌朝オレの恋は終わりを告げた。

 嫌な事を思い出させるなよ……。




 ……って言うかー! お嫁さんになるだってー! 何だそりゃ!!




「待て待て待て! いくら可愛くても妹がお嫁さんになれるわけ無いだろう! その前にお前はもう死んでいるだろうが」


「そうなの。やっぱり死んでるからなんだろうねー。私のお嫁さん計画は失敗しちゃったんだ。でもね、その副作用でお兄ちゃんをもう一人作っちゃった!」


「ぶっ!! 副作用で済むかよ!!」


 テヘペロな顔をしている我が妹に息もつかせない程の突っ込みを入れる。 


「待ってお兄ちゃん。大丈夫だよ。そう言う風に設定しておいたから安心して!わざわざ十六歳にしたのはその年から結婚が出来るからなんだよ」


 そう言う風な設定ってなんだ? 凄く怪しいし、凄く不安なんだけど。


「すっげー不安しかないんだけど言ってみろよ。その安心設定とやらを」


「うん! 私の体になったお兄ちゃんには、なんと無条件で夢の向こう側で寝ているお兄ちゃんを大好きになる安心女体化脳をプレゼント! 更に今なら特別に元私の体の性感帯機能を三倍にブーストする事の出来る快感機能も付けちゃいます。って言うか付けちゃいました!」


「あ、あ、あ、あ……、あほかーー!」


 あまりの事にツッコミが追いつかない。いや、一応は突っ込んではいるけれどさ。

 しかし凄い笑顔だなー。


 そりゃあ、死んだ妹のやっと辿り着いた願いがかなうんだから協力をするのはやぶさかではないんだけど、それが自分自身に恋をしろって言うのはややハードルが高すぎやしないか。

 オレもさ、寝る前に俺を幸せにするとは決めたけど、それすらすでに妹の術中に嵌っていたのかもしれんなー。


「大丈夫だよお兄ちゃん。朝起きたら恋心MAXのお兄ちゃんラブっ子が出来上がるわけじゃなくて、徐々に好きになって行くから恋愛も出来るんだよ! やったねお兄ちゃん!」


「……」


 もう呆れ果てて声も出ない。さじを投げるとはこう言う事を言うのだろうか?


「お兄ちゃんは私の体を沢山使って本物のお兄ちゃんと相思相愛になるんです! それが私のお兄ちゃんを幸せにする方法なんだから。」


「それに私の体になったお兄ちゃんだって幸せになれるんだよ?」


「えー」


「だって、私のお兄ちゃんだもん。それに自分自身なんだからお兄ちゃんの考えてる事が判るでしょ?」


 まあ、そうなんだろう。多分男の俺はオレの嫌がる事はしないだろうなー。

 でもさ、それとこれとは……うわっ!


 なんだ、すっごく眩しいんだけど。

 強烈な光によって、今まさにピンク色の部屋が掻き消えていく。




「お兄ちゃん! 朝みたい……。お別れだね。多分忘れちゃうと思うんだけど、覚えていたら現実の世界のお兄ちゃんにも妹がよろしく言ってたって言っておいてね」


「おい、待てよ! お前の名前は何て言うんだ。それだけでも聞かせろよ」


 光のせいで妹の顔も半分くらい見えなくなっている。

 このぶんじゃ、オレの意識ももう数秒で覚醒するだろう。

 でも兄としては妹の名前くらいは聞いておきたかった。

 

 だけど妹の言った言葉は……。


「あははは……、ごめん名前忘れちゃった……じゃあお幸せにね」


「お、おい、待っ……」 


 最後に妹はにっこりと微笑むと全てが光に消えていった。




 色々とひどい妹よ。兄はこれからどうすればいいと思う?

難産だった……。

次は平家行こうかなー。

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