侍は滅びない。4
夜である。
噂の女子と同じ時間の訓練が夜間訓練だなんていうもんだから、訓練中のコソコソ話は女子の話で持ちきりであった。
「川崎、可愛いと思うけどなぁ。」
「おめぇ、メガネがすきなんか!。」
テントの中で近松由太郎は、同じ教育隊の班員の輪に入りながら、コソコソ話をきいていた。
「あ、でもあいつ胸あるよな・・・。」
「ちょ、おめぇ、そういうとこしかみてねーの?。」
「由太郎はどーなの?。」
「・・・へ?。」
半笑いの由太郎に、友人が不意をつく。
「だれがいいの?。」
「だ、だれって言われても・・・。」
「・・・隠す気か?。ノリが悪いぞ?。」
「・・・。」
少し困ったような顔をする。
「・・・蓮町。」
近松由太郎が照れる。周りがキョトンとして沈黙する。
「え、お前蓮町がいいの?。」
「蓮町の何がいけないの?。」
蓮町は、教育隊女子隊員の落ちこぼれであった。いつも怒鳴られてばかりで、連帯責任の自衛隊では、少し浮いてた。
「変わってんな!。」
少しみんなが笑う。
「笑え笑え。」
由太郎は少しムッとしてぼやいた。
30分後、近松由太郎は見張り役に回っていた。
外の演習場は本当に真っ暗な森の中で、車両が通る道以外、人工的なものはなかった。
無視の声がリンリンと響いている。夜空には星が煌めいていた。
「・・・本当に綺麗だな。」
空を見上げて、近松由太郎が言う。
「今日は珍しく集中できてないな。」
少し笑いながら、隣にいる眼鏡をかけた隊員が言う。
自衛隊では、よく二人組を組む。二人組はお互いをバディと呼ぶ。その時、決まった相手と組んだほうが効率がよいし、信頼関係もでき、必然的に作戦成功率もあがる。
近松由太郎のバディは、この隣にいる眼鏡の男である。
「司馬、真面目すぎてもいいことないよ・・・。」
近松由太郎がそのバディ、司馬に力なく答える。
「・・・もしかして、蓮町のこと笑ったの、怒ってるか?。」
「怒ってはないけど・・・。」
少し、沈黙が訪れる。
風が静かに流れる。森がざわざわと鳴く。
と、その時。
「!?。」
ガサッ!、という音と共に茂みから何かがこちらに接近してくる。
それがすぐ五メートル前で止まる。
「なんだ、鹿か・・・。」
バディがホッとした。
だが、近松由太郎はホッとできなかった。周囲をグルッと見渡す。
「どうした、近松?。」
「司馬、いる!。」
近松由太郎が、ヒソヒソ声で答える。
「・・・近松、その冗談は中学生までだぞ?。」
司馬はあきれたように答える。
近松由太郎は、おもむろに足下の石を手に取ると、茂みに向かって思い切り投げた。
すると、カンッ!という音が返ってきた。
「出てこい!。」
近松由太郎が、険しい表情で思い切り茂みに叫ぶ。
すると黒い人影が、飛び出してきた!。




