第1章-第2話 つうこうりょう
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その問題とは例の通行料の問題だ。この1週間ほどで各地で通行料の値上げが発生しているらしい。それも普通の農民に対する通行料ばかりで、その土地を懇意にしている商人の通行料は、値上げされていないらしい。
租税として接収された農産物の輸送には、王室の旗が掲げられ通行料が取られないが、各村々の個々の収入を得るために王都の市場に売りに来る場合にのみ影響が出ているそうだ。このままだと通行する商人に買い上げてもらうしかないらしい。
まるで俺がここの領主になったことの嫌がらせのようだ。そういえば、通行料を値上げした土地では、通ってくるときに、領主達に結構辛らつな言葉を浴びせかけられたな。そうアヤに伝えた。
「そうですね。陛下は、内戦終結直後にトム殿がこの土地の領主を就任されることを発表なさいましたので、それもありえるかもしれません。ここは王室として抗議をするべきかもしれません。お帰りになられたら、陛下に採決を仰いでいただけませんか?」
懲罰の対象になるかもしれない危険性を犯してまで、そんなことをするのか?内戦の終わらせかたが甘かったせいで舐められているのだろうか。
懲罰の対象にならないというか自信があるのかもしれないな。
「ああ、わかった。しかし、他に通行する道は無いのか?」
多少整備すればいいくらいの道があればいいのだが・・・。
「はい。王都との間には大きな山が遮っておりますし、その東部も湖ですので道はありません。湖の東部の海岸線には一応道はあるのですが大幅に遠回りですし、盗賊が出ると言われていますので、誰も通りたがりませんね。」
・・・・・・・
宴席が終ったのが夜遅かったこともあり、後宮には戻らずここで一泊する。領主の屋敷はけっこう広い、警備のためか敷地の周囲が3メートル以上もある壁で遮られており、ときおり松明をもった兵士が巡回している。
屋敷は5棟で構成されており、中央にある執務室の1棟と左辺にある宿舎2棟を使用する。アヤは既に後方にある宿舎に引越しを済ましているが、俺が使う宿舎にやってきている。
早速、子作りに励まなければいけないのか?
「ほら、さつきも居ることだし、今度にしよう。な。」
今日初めて会った相手に、いきなりできるはずもない。ここは穏便に引き取ってもらおう。
「私は、控えの間に居ますので、ごゆっくり。」
さつきが異世界では、主導権を持たないんだとばかりに下がっていく。それとも、連日の警備と昨日の夜のお勤めがきつかったのだろうか。
・・・・・・・
「本当に、覚えていらっしゃらないみたいですね。」
「何をだ?」
「私達、初対面じゃないのよ。あんなに情熱的なキスをしてくれたのに、忘れてしまったというの?」
「へっ。」
俺は、思わずおもいっきりアホ面をカマしてしまった。アヤが言うには、俺達は幼馴染なのだそうだ。代々侍従長を務める彼女の家は、どの国王とも親密で彼女も俺の遊び相手として、後宮に通ってきたのだそうだ。
そして、キスの件も本当らしい。セイヤにキスをされた件が原因で、どんなキスだったという話になり、彼女に実演してみせたのだそうだ。
俺の子供の頃の俺って凄いマセガキだったようだ。・・・確か、セイヤには頬にキスされただけだったはず、それとも俺が忘れているだけなのか?
それを理由に女性にキスを迫るだなんて、なんという、うらやましい性格をしていたんだ!
「よっぽど、陛下は情熱的なキスをされたのでしょうね。確かにあのころの貴方は、こっちが嫉妬するほど可愛らしいお人形さんのようでしたから、無防備でしたし襲われても仕方がないのですわ。」
これは・・・まさか・・・。
「君は、陛下・・・セイヤが好きなのか?」
「確かに好きだった時代もありましたけど、あんな種無が好きだったというのは、過去の笑い話ですわ。・・・いえ、あの人にも種があったというのが驚きです。どんな妄想で王妃様を孕ましたのでしょうね。」
幼い頃の俺の写真を片手にエトランジュ様としているセイヤの姿が浮かび上がってきた。ないない・・・それは、無い・・・はずだ。
写真なんてこの世界に無いではないか。そんなはずは無い。
はは、そうだよな。
指輪に確かそんな機能があったような。まさか・・・。
「何をしてらっしゃるのですか?」
俺が懸命に指輪の過去のデータを呼び出そうといじくっているとアヤに声をかけられる。
「いや、何でも無い・・・。」
無かった!・・・というかそんな想像をさせないで欲しいな。
「何をブツブツと言っているんですか!」
うん忘れよう。
「えーと、何だったっけ?」
もし有ったとしても過去の淡い思い出を大切に残していたんだな。うん、きっとそうだ。
「きっと、今頃私と貴方がしていることを想像して、怒り狂っているのが易々と想像できて胸がスッとしますわ。さあ、いっぱいしましょう。私の祖先の魔族が持っていたという、『魅了』が使えればよかったんでしょうけど。がんばりますから、いっぱい子供を作りましょうね。」
この国の人間が闇魔法に精通しているのは、何十代も前の祖先に魔族が居たかららしい。その血が濃く出ている彼女は、20代に見えるが俺と同い年で子作りは現役なのだそうだ。
そうだよな。幼馴染なのに20代とは、おかしいと思ったんだ。マイヤーほどでないにしろ、アヤも長寿なのかもしれないな。
・・・・・・・
翌朝、後宮に『移動』で戻るとセイヤに経過を報告して判断を仰いだのだが、通行料は各貴族がある一定の範囲ならば、自由に決定する権限があるということで、村民に対して一定の条件下で補助金を出すことに決定した。
結局、俺が居るだけで王室にとってお荷物なのかもしれない。
今日の昼は、アキエのお誕生会をする予定だ。あまり暗い顔をしても仕方が無いので、気持ちを切り替えることにした。
俺がアキエの部屋へ、向かおうとするとさつきは、セイヤに報告することがあるということで残った。
・・・・・・・
「アキエちゃん、5歳の誕生日おめでとう。はい、プレゼント。」
「さつきママありがとう。」
「ほら、パパからもプレゼントだ。」
俺は毎年、アキエが1歳の誕生日のときから、同じ作者が描いた絵本をプレゼントしている。アキエが嫌がろうが、これを16歳まで続けていくつもりだ。
「パパ、ありがとう。」
アキエにも反抗期が来て、こんなことを嫌がる日がくるのだろうか?後宮での生活をみているかぎり、あまり想像できない。すごく、良い子に育ててもらっているようだ。
アキエの前には、俺が買って来たアキエの好きなイチゴがいっぱい乗ったケーキやモモエさんお手製の料理が所狭しと並んでいる。その多くが日本の料理だが、ところどころに此方の料理も置いてある。きっと、こちらの料理でアキエが好きなものなのだろう。
さらに、アキエには内緒のプレゼントがある。もうすぐ、来るはずなのだが・・・。
「こんにちわ。」
よし来た。教会の子供達が後宮に来てくれたのだ。
「わー、みんなありがとう!」
会場となった広々した後宮裏の塔が一気に狭く見えるほどの子供達だ。
この日ばかりは、身重で普段、部屋で過ごされることが多い、エトランジュ様も椅子に座っているが、にこやかな顔でアキエを見てくれている。
ようやくアキエが5歳の誕生日を迎えました。
毎年ある作家さんの絵本を贈っているエピソードは本当です。16歳になっても贈ったらどんな顔をするか、今から楽しみです。