第9章-第89話 こくふく?
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「社長お電話です。」
出かけようとしていた矢先、警察から連絡が入った。昨夜襲ってきた男について、背景が解かったというので、お話ししたいと言ってきた。そうだ、さつきに行ってもらおう。警察には代理人を行かせると伝え、あらためて、さつきに連絡をとった。
案の定さつきは、こちらに合流するために出かける用意をしていたところだった。俺は警察の件を伝え、代わりに行ってくれるようにお願いした。それとなく護衛の仕事の一部的な言い方をしたら、了承してくれた。
よしこれで3時間くらいは、時間が稼げたはずだ。
「・・・・なんだ?その格好は?」
「え、デートでしょ。よかったわ、会社にとっておきのお気に入りを置いておいて。」
幸子は、これでもかといわんばかりに、その豊満な胸を強調した服を着ていた。しかも、ミニスカートまで穿いていた。思わず「年を考えろ」という言葉が出掛かったが、なんとかやり過ごした。
まあ、確かにこんな姿を見せられて、啖呵を咬ましたらコロって逝くヤクザが居てもおかしくないか。まあ、あのヤクザは、少し年増好きだったのかもしれんが・・・。
俺でも、視線がどうしても、その胸にいくのが止められない。
「いいのよ。好きなだけみても。ほら、ほら、ほら。」
ヤバイ、その揺れる胸を見ているうちに催眠術にかかったように手を出しそうになった。
「じゃ、じゃあ、いくぞ。」
思わずどもってしまったのは、見逃してほしい。
・・・・・・・
まず、社用車で自宅に向かう。母は物持ちがいいほうで、母が安く住宅を購入したときの書類が自宅に置いてあったのを思い出したからだ。
「もうやめろよ。そうやって、押し付けるなよ。」
「かんじちゃった?」
車内で隣に座った幸子は、デート気分で俺の腕にすがり付いている。まあ、その感触は、気持ちいいんだけどな。
行方不明になった母の足跡を辿るという名目の元、住宅を購入した先に伺うと意外な話を聞かされた。当時、俺は知らなかったが、母はヘルパーの仕事をしていたらしい。そこで出会ったお婆さんに家を売ってもらったらしい。
当時、お婆さんはちょっとこけた拍子に足の骨を折る大怪我をした直後だったそうで、認知症気味だったそうだ。それが、母が担当するようになり、奇跡的にリハビリがうまくいき、認知症は一進一退だったそうだが、毎日ニコニコと過ごして。ある日、「あの人がお迎えに来てくれたの」という言葉を残して逝ったそうだ。
そして残された遺書を見た子供は、遺産相続分けや将来に渡ってのアドバイスなど、とても認知症気味だった人のものではなく、さらに母と出会ってから、いかに幸せだったかが綴られていたそうだ。
しかも、よく死んだ夫の夢を見るんだと綴ってあったと聞かされたとき、母はこの人に明るく生きる希望を持たせるために『幻影』を見せていたことを感じ、思わず涙を流した。
そんな、おばあさんの立っての希望を叶えるため、既にそのとき、母はヘルパーを辞めていたそうだが、遺族が遺産の一部であるこの家を母に贈ってくれたそうだ。
「よかったね。トム。優しいお母さんね。」
「ああ、そうだ。なんで・・・なんで・・・。」
なんで母を疑うなんて・・・。
・・・・・・・
その後、さつきと合流した。警察の話では、昨夜の男は、ある会員制サイトのオーナーで一連の牛丼のスキスキの強盗事件で、いつどの時間からワンオペが始り、次の従業員が来るのが何時だとか詳細にこの天気のこの曜日のこの時間の客の入り情報だとか客の性別だとか、肉体労働者が多い時間帯だとか、強盗に入るのに必要な情報を提供するサイトだったのだ。
さらに、単独犯が多く捕まりだすと今度は複数犯用にグループチャットできる部屋を作り、複数犯を煽ったそうだ。
それも、あの紙飛行機が飛ぶ番組で恐れをなしたせいか、このサイトの利用者が失敗続きだったせいか、とうとう、誰もサイトに訪れなくなり、サイトは閉鎖、そこから収入を得ていたその男が邪魔をした俺に危害を加えようとしたらしい。
この男には、53件だけでなくそれ以前の数十件の教唆犯と俺に対する殺人未遂犯として刑事裁判が行われるらしい。さらに、この男の証言から、過去の強盗事件の犯人に繋がる物証も見つかっており、それぞれの強盗事件の犯人が逮捕されるのも、時間の問題だそうだ。
もちろん、今までどおり、それぞれの強盗犯にも損害賠償請求をするつもりなので、刑事、民事両方から攻め立ててやるつもりだ。
警察も他に同様のサイトが無いか調べる方針だという。
・・・・・・・
母と母の妹との記憶の混濁は無くなり、以前より夜中に起きることは、少なくなったが相変わらず、祖父と母の妹の首をはねたシーンは夢にみている。さすがに全て克服できることはなかった。
そして、幸子との同居生活がどうなったかというと・・・。
一緒に寝ている・・・・が・・・添い寝だけをお願いした。飛び起きた際に優しく頭を撫でてもらうだけだ。よく考えたら・・・これで、十分だったのだ。その線で先に、さつきを納得させて、幸子にお願いした。
「えっええええ、だって・・・そんなぁ・・・。」
泣きそうな彼女に悪いなぁと思ったのも束の間、凄いセリフで切り返されてしまった。
「わかったわ。これだけ近くにいられるんだもの。いつかは、落としてやるから、覚悟してなさいよ。」
これで第1節が完結しました。
第1節を総括して評価、ご感想をお待ち申し上げております。