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第9章-第85話 うらぎり

お読み頂きましてありがとうございます。

 さつきのいう通り、あっさりと寝付いた俺が目を覚ますと、もう朝だった。隣には、既に目を覚ましたさつきが居た。


「なにを見ていたんだ。」


「貴方の顔を・・・。可愛いなって。」


 たしかに175センチのさつきからすると、165センチの俺は可愛いのかもしれないがオジサンを捕まえて可愛いは無いだろう。


 むっとして、突き出していた唇に軽く合せてくるもう一つの唇。俺は、おもわずにやついてしまった。我ながら単純だな。


 午前10時から始った作戦は、順調に公爵邸を包囲するところまでいった。右軍の精鋭部隊の一部は既に王宮前に移動を完了しており、俺とさつきとフォリー大尉は、100Gショップの2階でスマホに入るはずのセイヤの合図を待っていた。セイヤが拘束されているかもしれないからセイヤの合図がなくても12時には、作戦を再開する予定だ。


「よくこんなところが借りれましたね。公爵邸を窺うのにこれ以上最適な場所は、ありませんよ。」


「ああ、偶然だったがな。隣の魔道具屋と懇意になってな。」


 となりの大家さんは、無事だろうか。どこかに避難してくれているとうれしいな。


「セイヤから連絡があるはずだ。そのときは、連絡手段を置いていくから、ここから指揮を執ってくれ。あまり離れると連絡がとれなくなる可能性もあるから、注意してくれ。」


 始めは機関銃に倒れていく兵士達を見る度に、胸の奥がズキズキとしたがその数が200、300と増えていくに従って、その痛みが無くなっていった。これが感覚が麻痺するという奴なのだろうか。


 さつきは、もっと酷いだろう。レイピアという武器を与えられ、得意の一撃必殺で鎧の上から致命傷になりそうなところを突き刺しては、血を浴びている。しかし外国で警察組織に属していたせいなのか。一切、動揺を見せず、つぎつぎと敵を葬り去っていった。


 右軍の精鋭部隊にも、オリハルコン鋼製のレイピアや、ロングソードなどを渡していたため、思いのほか善戦している。やはり、重装備のオリハルコンの鎧を貫けるというのは、凄いことらしい。


・・・・・・・


 激戦が予想される公爵邸からは、使用人達が一時的避難するという、母が代表して面会を求めてきた。恨みつらみをぶつけられるのは、解かっていたがこれが最後の機会だと思い会うことにした。


「なぜです!貴方の祖父である公爵と私は、貴方によかれと思ってしたことなのになぜ貴方は敵としてここに居るのです?母を嫌いになったのですか?」


「・・・・・・。」


「黙っていては、解かりませんよ。全てを奪ったあの男の子供を憎いとは、思わないのですか?」


 セイヤを俺が?感謝しこそすれ。恨みに思うはずが無い。


「・・・無い。」


「なんですって!母をそして父を裏切るというのですか?」


 このひとは、ずっと日本で生活しているときも日本から帰ってきて、憎しみを抱えて生きてきたんだ。日本で父が死んだことも関係しているのかもしれない。


 あんなに笑顔溢れる家庭だったのに、ずっとこのひとは、心の奥底では、異世界を追われたことを恨みに思い続けてきたのか。


 俺は、頭の中で思い続けてきた幸せだったと思っていたあのころの記憶が脆く崩れ去ったのを感じた。


「帰ってくれないか!もう面会は、終わりだ。」


 母は、使用人を伴って別邸に向かったという。


・・・・・・・


 腐らない袋からハンバーガーを取り出し右軍の兵士達に配り、早い昼食を軽めに摂っているとセイヤから合図があった。ちょうど、セイヤも食事時間らしい。フォリーに繋がったままのスマホを渡し、『移動』で王宮前に飛び、トランシーバーで作戦開始を宣言した。


 公爵邸のセイヤは気になるが、目の前の敵を葬り去るのが先だ。それがたとえ、俺の祖父だとしても・・・。


 まず、俺は例の紐パンにMPを投入して、機関銃を持って先陣を切って突入していく。俺の狙いは、一般兵だ。すべて頭を狙っているから、即死だ。ライフルでワイバーンを狙い打ちしたときに比べるとものすごく簡単だ。一般兵の半分を殺したところで、とうとう機関銃の弾丸が切れた。


 しかし、その頃には、すでに一般兵は総崩れで、われ先にと王宮から逃げ出している。残りは重装備の将校達だ。一部、近衛兵が混じっているのが面倒だ。まずは、ライフルで左軍の重騎士の目を狙う。さすがに混戦になってくると、敵の向こうにヤン団長率いる近衛師団がおり、下手にライフルを使うと向こう側に当たる可能性もある。


 俺は、戦線を少し引き、トランシーバーでヤン団長にこちらに合流するように指示を出す。


 ヤン団長は、一旦こちらに合流後、各将校を相手にするために散っていった。1時間程の戦闘で後宮を制圧、王宮も建物を残すのみとなった。一般職員は既に避難しており、侍従長など重要な人物が人質になっているようだ。


「これは、使ったことあるよな。」


 さつきに拳銃と弾丸のカートリッジを手渡す。この狭い建物の中では、ライフルや長剣に属するレイピアでは、戦いにくい。


「もちろん。向こうでは常時装備していました。」


 俺もライフルを拳銃に持ち替える。そして、魔法の袋から拡声器をとりだし、《これから王宮の建物を制圧する。殺されたくなければ、両手を挙げて出て来い!》と宣言した。


「本当にいろいろ入っていますね。その袋。」


「ああ、もしかするとこの国が他の国から侵略されるかもしれなくてな。いろいろ用意していたんだ。このほかにも、開発中のものがたくさんある。問題は、この内戦で減った兵士の増員だな。」


 今は、このクーデターを終らせることが先決でそれ以降のことを考えている余裕が本当は無いんだがな。


 俺は、さらに魔法の袋から手錠を取り出して右軍の兵士に使い方を教える。もうすでに何人かの人間が両手を挙げて出てきたからである。いちいち、敵か味方かを判断する時間はない。後ろ手に手錠で拘束しておけば、邪魔には、ならないだろう。


 俺とさつきが拳銃を構えながら、ゆっくりと王宮内を進んでいく。やはり、主犯のジャン公爵は、執務室だろうか。時折、襲ってくる敵の装備の隙間に拳銃を撃ち込んでいく。


 真っ直ぐ、執務室に向かっているがその途中にある各部屋も制圧対象だ。


 そのとき、ヤン団長からエトランジュ様とアキエを後宮に移したと連絡があった。おかしいな、そんな予定はなかったんだが、エトランジュ様の調子が悪いんだろうか。後宮よりも塔のほうが、護るのに適しているはずなのだが。


・・・・・・・


 やはり、ジャン公爵は執務室に居た。それも、侍従長ほか王宮の重要人物達を人質に取っている。


「もう終わりだ。もう十分に夢は見れただろう。俺をこの悪夢から解放してくれ。」


「はは、悪夢だとトムが王位に付けば全てが手に入るんだぞ。というか、もともと、お前のものだったはずのものだ。あの男が簒奪さえしなければ・・・。」


「俺は、そんなものいらない。さあ、生か死かどちらを選べ。ああ、言っておくが侍従長だろうがなんだろうが、関係無く撃ち殺すから人質など無意味だぞ。」


「は、さすがにあの王族の人間だ。わしにとっては、可愛い孫なのに、お前は祖父を殺すというのか。まあいい。味方は、まだ居る。ヤンがそうだ。」


 なに!まさか。俺の表情が出だのか。公爵はさらに続ける。


「ここに、セイヤが署名したおまえへ王権委譲するという書類がある。エトランジュ様がどうなってもいいのか?エトランジュ様とそのお腹の子供というべきか?」


 どうやら、ジャン公爵は、エトランジュ様の懐妊は、俺の種だと思っているらしい。


 そのとき、ヤンからトランシーバーで連絡が入った。エトランジュ様を人質に取っているというのは、本当らしい。だが、なにか言動がおかしい。俺がマイヤーを無理矢理強奪したと思っているようだ。


「これに署名しろ。この書類さえあれば、他の貴族達も賛同する。」


 うーん、どうするべきか。とりあえず、最終手段の自害という手もあるし、署名だけならばいいか。俺は、魔法の袋からペンを取り出して署名した。


「さつき、お前はセイヤ達と合流しろ。わかったな。ほら行け。それにうなぎの輸送も頼む。」


「今、そんなこと・・・・・わかりました。絶対に救出しますから、待っていてくださいね。」


 とりあえず、状況をフォリーに報告し、右軍を王宮の外まで撤退させた。これ以上無用な被害を出すわけには、いかない。セイヤは無事救出されたようだ。これでエトランジュ様とアキエさえ救出されれば、自害すればいい、それで全ての野望が潰える。この悪夢を終らせることができるのだ。

主人公絶体絶命のピンチ、王位を受け取るしか無いのか?

人質となったアキエの運命は?

そして、日本のうなぎ料理店は?(笑)

明日の更新を乞うご期待!

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[一言] 冒頭から2割目くらいの  右軍の精鋭部隊にも、オリハルコン鋼製のレイピアや、ロングソードなどを渡していたため、思いのほか善戦している。やはり、重装備のオリハルコンの鎧を貫けるというのは、凄い…
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