第9章-第84話 かめお
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「本当は、私も付いていきたいのだけど・・・、さつきさん、この人時折、無茶をするから護ってあげてね。」
「もとより、そのつもりです。」
「マイヤー、そのお腹の子は最後の最後の切り札だ。絶対に無理をしては、いけない。」
最悪、俺もセイヤも殺された場合、エトランジュ様も生きていないだろう。そうすると、軍事政権を樹立するしか手がなくなる。その数年後、正当な後継者として、エルフの後ろ盾付きで、マイヤーと俺の子供が現れた場合、すべてをひっくり返すことができるかもしれないのだ。
「わかっているわ。」
マイヤーは、悲しそうな顔で言う。
「わかりたくもないけどね。」
「すまんな。では行ってくる。」
マイヤーとは、抱き合ってキスをして分かれた。そして、お土産として、エルフの里特産のハイレアMPポーションとハイレアHPポーションを3本ずつ持たされた。
・・・・・・・
エルフの里から、直接、塔のベランダに飛んだ。帰りは、さつきと2人だけだったが、またもや酷い倦怠感に襲われたので早速もらったハイレアMPポーションを飲む。これ1本で100万Gだという。1億円のドリンク剤か・・・。
7割回復すると聞いているから、おそらく残り8割くらいだろう。最後の1本は、日本に戻るときに使うと考えて、実質残りあと1本か。
「なにをしている!なんだ、貴様か。」
ベランダの窓のドアに立っていたのは、ヤン団長だった。
「とにかく、中に入れ。姿を見られたら困る。」
さつきと中に入った。
「エトランジュ様は?」
「奥で臥せって居られる。」
「そうか。会わせてくれ。」
「ならん。ことの元凶が、いまごろのこのこと現れてなにを言っている。」
やはり、そう言われるよな。しかもヤン団長には、セイヤ側の味方だと思えないのだろう。
「なにをしているの。トム殿が来たら、直ぐに通せと言っていたはずよ。」
俺が来たことが侍女からエトランジュ様に伝わったのだろう。奥からエトランジュ様がやって来た。
「しかし!」
「セイヤの味方だとは、思えないのかもしれないが。」
「陛下と敬え。」
ヤン団長は、吼えついてきたが、無視して続けていう。
「この手が最善ならばこの首を、差し出そう。どうだ。」
俺は、ヤン団長に近づき、持った剣に首を当てる。
「うっ。」
「その必要はありません。ヤン、セイヤも別れ際に言ったでしょう。どんなことがあってもトム殿は味方なのだと・・・。」
「はっ、申し訳ございません。」
とりあえずは、信用してもらえたようだ。
・・・・・・・
俺は、腐らない袋1つ分の食料を侍女達に手渡す。ヤン団長達にオリハルコン鋼製の武器を必要なだけ渡し、エトランジュ様にトランシーバーを渡し、使い方を教えた。外から合図して、打って出てもらうためだ。
「では、行って来ます。」
「気をつけてくださいね。」
それから、さつきを連れ、宝物庫に飛んだ。日本から持ち込んだ機関銃と弾丸を魔法の袋に入れる。さすがに街中でロケットランチャーを撃つわけにはいかない。
「そんなものまで・・・。」
「どこからとは、聴かないでくれ。」
「はい。後で教えてくださいね。」
「ああ、約束するよ。」
ここまで、巻き込んでいるんだ。全てを教えないと不公平だよな。
・・・・・・・
ヤン団長に教えてもらった公爵邸へ飛んだ。場所は、100Gショップの近くだった。周囲は一般兵が固めており、蟻の子一匹這い出る隙もない。100Gショップの2階から中の様子を伺うが、これといった情報は得られなかった。
ここにセイヤが囚われているのならば、無線LANは届くかもしれない。さっそく、セイヤの執務室の無線LANを親機にした子機の無線LANを100Gショップに設置する。よし、スマホからネットにアクセスできたぞ。
さっそく、セイヤにメールを打つ。セイヤはインターネットサーフィンとメールとスカイペはできる。すぐさま、返信が帰ってきた。どうやら、中で軟禁されているだけだということだった。人員が変わっていなければ門に1名、玄関に1名、そして軟禁場所近くに3名の将校が張り付いているらしい。一般兵は数名だけで、殆どは外に居るらしい。
俺は、メールで作戦を伝える。右軍で王都を包囲してもらい。俺が先頭を切って、一般兵を機関銃で撃ち、右軍の精鋭部隊に公爵邸を包囲してもらう。そして、隙をみて公爵邸に突入してセイヤを奪還すると同時に、王宮奪還作戦に突入する。同時に塔に居るヤン団長達に動いてもらう作戦だ。突入の合図は、セイヤが公爵邸内部で、スカイペですることになった。
・・・・・・・
俺は、以前行った右軍のフォリー大尉の陣に向かった。降り立ったところをすぐさま、複数の兵士に確保された。
「フォリー大尉に会わせてくれ!エトランジュ様の使いだと言えばわかる。早く!」
・・・・・・・
「これは、これは、新公爵殿。どうしてここへ。」
「フォリー大尉は、少なくともエトランジュ様の味方だよな。エトランジュ様は、これを見せれば、全てわかってくれるはずだとおっしゃっていたが・・・。」
俺は、エトランジュ様から渡されたカメオのペンダントを彼女に渡した。
彼女はしばらく、それを見つめたあと、語りだした。
「これはね。私達姉妹の命の次に大事なものなの。私達は、双子で生まれてね。大層な難産だったらしく。私達のお母様は、私達を産んだあとすぐ死んでしまったらしいの。この国では、双子は禁忌と言われているけど、お父様は2人を分け隔てなく育ててくれたの。」
そうか昔は日本でも、双子は不吉だと言われたらしいから、そういうものかもしれないな。
「そして、エトランジュが嫁ぐ時、このカメオを渡してくれたの。カメオ部分が半分に割れているでしょ。お父様が昔お母様に送ったカメオを半分づつに割って仕立ててくれたものなのよ。そのカメオを持っていらした貴方を信用しないわけには、いかないわ。」
そうか、そんな大切なものを貸してくれたのか。
・・・・・・・
「わかりましたわ。これがトランシーバーですか。ボタンを押して、話して、交代するときは、どうぞと言って、ボタンを離すと相手の声が聞こえるのね。」
「ああ、そうだ。では、よろしく頼む。」
もう、夜に差し掛かっていたので、作戦決行は明日だ。一度、100Gショップまで戻り、メールでセイヤに、トランシーバーでエトランジュ様に、およその時間を伝えた。
「今日は、お疲れ様、交代で寝ようか。」
なにか事態が急変しても、すぐわかるように100Gショップの2階で寝ることにした。ベッドは殆ど使われた形跡はない。ツトムやモモエさんは、どこにいるのだろう。無事だといいが。
「一緒に寝ましょう。こういう時は少し運動してからのほうが、眠りやすいですよ。」
さつきは、そう言って赤くなって下を向いた。そういう意味か・・・確かに、神経が張り詰めている気がする。
ここまで続けてこれたのも皆様のおかげでございます。
謹んでお礼申し上げます。本当にありがとうございました。