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第8章-第81話 ぷれぜんと

お読み頂きましてありがとうございます。

「やはり、そうですか。ええ、プレゼントしようかと。・・・メールですね。わかりました。ありがとうございました。」


 帰って早々ゴン氏に連絡を取ったのには、訳がある。さつきさんにフェンシングのユニフォームをプレゼントしようと思ったのだ。スミス金属の話では、現在オリハルコン鋼を世界一硬い金属として売り出すために技術革新を積み重ねている。


 それとは反対に金属の硬さは、片手の内に入る程度だが糸状にしたオリハルコン鋼を布として売り出す試作品ができたと連絡が入っていたのだ。


 本来、宇宙飛行士が着る宇宙服を想定していたのだが、フェンシングという競技でユニフォームに応用すれば、異世界での軍での制服として採用できないかと考えたからだ。


 異世界のオリハルコン鋼は、ドワーフが作る重装備の鎧中心だと聞く。そこへ日本の技術力で軽量かつ同等以上強さを持った装備を作れたら、異世界一の軍隊を構築できるはずだ。


 その布の試作品でユニフォームを作ってもらうための店をゴン氏に教えてもらっていたのだ。ゴン氏も彼女のことを思い、既に数々の繊維でユニフォームを作っており、その店に頼み込めば2日で作り上げ、1日でフェンシング協会の承認が取り付けれるらしい。


 翌日朝に、スミス金属とその店に連絡を取り、彼女のサイズでユニフォームを作ってもらえることになった。昼には、スミス金属からその店にオリハルコン鋼の担当者が直接持っていってくれるという話になった。


・・・・・・・


 月曜日の昼に開かれた牛丼のスキスキの就任の記者会見は、紀子の独壇場だった。本当はどうだか知らないが、父のやり残した従業員を幸せにすることに全力を投入したい。


 という言葉通り、COOから元従業員との訴訟の全面的和解から未払い残業代の即時支払い、一部店舗の深夜営業の一時停止、ワンオペの即時停止など槍玉に上がっていた全ての事案において改善策を聞いたマスコミはどよめいた。


 それでも、意地の悪い週刊誌の記者からは、紀子を名指しでこんな質問が飛んでくる。


「どうして、深夜営業の店舗を残すのですか?」


「それは、必要とされているお客様が居るからです。世の中には、昼夜逆転の職業の方がたくさんいらっしゃる、そういった方の食を守るのも、私たちの務めと思っております。」


「深夜営業を止める店舗には、そういった人々が居ないということですか?」


「そうでは、ありません。一時的に止め、強盗などの事件がわが社で発生しなくなれば、営業を再開するつもりです。それまでは、ご迷惑をお掛けすることをお詫び申し上げます。」


「本当に強盗が発生しなくなると本気で考えているんですか?」


「ええ、少なくとも未検挙件数を減らしていくことで事件自体が減っていくはずです。」


「なにか秘策があるのですか?」


「内容は企業秘密なので言えませんが、巡回パトロールなど自衛していくつもりです。」


 記者達の質問は意地が悪かったがほとんどがチームが作成した想定問答集で済み、1つ2つ俺が横で助言するだけで済んだ。


・・・・・・・


 新聞紙面は、新経営陣からの挑戦状というタイトルだった。まるで強盗を奨励しているかのような、とんでもないタイトルを付けられたものだ。もちろん、即座に記者会見を開き抗議を申し入れ、撤回しないという回答をもらうと、地方裁判所に記事の撤回と謝罪記事の掲載を求める民事訴訟を起こした。


 しかし、この新聞紙面のタイトルが逆に問題の早期解決が図られる事態となった。深夜営業をしている店舗に次々と強盗がやって来ては捕まり、やって来ては捕まった。1日の発生件数は30件、それが全て検挙された。


 念のため強盗発生店舗は、その日を含め2日間営業を停止する通達を出しており、俺が異世界に行っている間に再開しないようにしてある。


 一日に発生した強盗の数としては、異常だったが、それ以上にその全てが検挙されたことに世間は驚いたようだ。


 その全ての強盗に対して営業利益の損失という名目で2日間に上がる平均的売り上げ金額の賠償責任を問う民事訴訟を起こしており、刑事、民事の両面で罪を問う姿勢で行くつもりだ。


 さらに無駄だろうと思いつつ、新聞社に起した訴訟にも被害金額による損害賠償も上乗せした。


 翌日も20件、翌々日も2件と強盗は発生したが、その全てが検挙された。そして、事件現場で見た千代子さんの巫女姿を見た週刊誌の記者が、素性を調べたのであろう。


 木曜日に発行された週刊誌には、現代の陰陽師現るといった記事が載せられ、神社を創建した陰陽師や江戸初期まであったと言われる明字家の陰陽家のことまで引っ張り出された。


 さらにどうやって調べたのか。事件を起した強盗の談話まで載っている始末だった。即刻、警察には抗議を申し入れたがたいした問題では無いらしい。


 木曜日はとうとう発生件数が0件となった。合計52件の発生で機会損失は、5億円近くといったところだろう。これで強盗がなくなれば安いものだ。


・・・・・・・


「社長。ユニフォーム、ありがとうございます。」


「どうだい。ユニフォームの着心地は。実験台のようで申し訳ないが、随時、スミス金属の担当者が情報収集やメンテナンスのため、貼りつく。俺にも後で感想を聞かせてくれないか?」


「はい。わかりました。持った感じだと通常のユニフォームの半分以下の重さですね。風通しも良さそうです。では、着替えてきますね。」


 着替えてきた感じだと、他の選手とも色合いが極端に違うわけではなさそうだ。


「なんか不思議な感じです。このまま、空へ飛んでいけそうなくらい軽いです。」


「身体の動きを阻害したりは、していないか?」


「実際に競技に入ってみないとわからないですけど、そんな感じはないです。」


「ぶっつけ本番になって申し訳ないけど、もし何か違和感を感じたらすぐ中止してくれ。君の身体のほうが大事なんだから。」


「はい。・・・幸子が言ったとおりだわ。」


「なにか言ったか?」


「いいえ、では行って来ます。」


「俺は、客席で応援している。ただ、事件が発生すれば席を外させてもらうがね。」


「はい。そのときは、念には念を入れて注意してくださいね。」


「ああ、わかっているとも。」


・・・・・・・


 今日は、ペレという競技だそうだ。フェンシングには3種類の競技があり、このペレという競技は、全身どこを突かれても相手のポイントになってしまうという過酷な競技だそうだ。


 長くて真っ直ぐで比較的重い剣で行うため、上半身を鍛え上げている彼女にとって、一番得意とする競技なのだそうだ。


 競技が始ると立て続けに審判から彼女に「ポアン」と手を上げるジェスチャーがあった。1回だけ、両手があがるシーンもあったがあっという間に5ポイントを取った。


 予選は、6人の総当たり戦らしく次々と相手を変えて競技を行っていく。多少の休憩は取られるものの、5戦連続競技が行われるらしく、1時間ほどで予選は終了した。


「社長、始めて予選を突破しました。」


「そうか、よかったな。シードは取れたか?」


「それが最後の1戦、余りにも身体が軽かったせいか少し突っ込みすぎて負けてしまいました。」


「そうか、惜しかったな。さつきさんは、護衛として我慢する経験を生かして、行くときは行き、引くときは引けるように頑張れ。」


「社長、私も呼び捨てでお願いします。」


「そうか、がんばれ、さつき。」


「はい!」


 その時だった。突然会社から、この真昼間から、近くの牛丼のスキスキに複数犯の強盗が押し入ったという連絡が入った。さつきさんが後で聞いたら怒るかもしれないが、今は競技に集中させたい。


「なんです?」


「また、強盗だって。まったく、事後処理が面倒だよな。近くらしいので千代子とちょいと行ってくるよ。千代子、53回目の出番だ。幸子、さつきの勇姿をしっかりと撮ってくれよな。」


「任せておいて!」


・・・・・・・


 外に待たせてあった社用車に乗り込む。


「千代子、これから見たことは、事が終るまで絶対にチームの皆に内緒にしてくれ。わかったか?」


「さつきにもですか?」


「ああ、競技に集中させたいんだ。バレたら絶対飛んでくるだろうからな。」


「わかりました。誰にも言いません。」


 現場に着くと事件は最悪の状態になっていた。従業員を人質に取って立て篭もっていたのだ。犯人は3人組で1人は、例のお札入りの現金を所持しているのか。混乱気味だが後2人が、ガラス張りの店内で1人の従業員を人質に取り、カウンターの中で何かを吼えているようだ。


「警察の方ですか?私、専務の山田と申します。今回はご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」


「いえ、あいつらが悪いんですから。しかも見ましたよ酷い新聞記事、早速、マスコミも駆けつけて生放送しています。」


「そう・・・ですか。犯人は、何か要求を言ってきてますか?」


「それが、牛丼のスキスキの役員を出せ。逃走用の車を用意しろと言ってきています。車は近くのレンタカーから、ダミーで用意させていますが、役員までは・・・。」


「わかりました。では、私が従業員と交代します。その趣旨を犯人達に告げて頂けませんか。」


「わかりました。では、お願いします。」


 こんなことをしたと解かったら怒るだろうな。まあ、最低限さつきにさえ伝わらなければいいだろう。そこは、チームの皆を信用するとしよう。


・・・・・・・


 30分後、店の入り口に立ちながら、例の紐パンにMPを投入し、指輪を『雷』にした。


「大丈夫か?」


「はい。なんとか。」


 人質になっていたのは、40代の女性だった。


「本当に専務だぜ。見ろよ記者会見の写真そっくり。」


 スマホで配信されているニュース映像で見比べているらしい。


「ほら、この手錠を足首にハメろ!ハメたら、この従業員を解放してやる。」


 犯人から放り投げられた手錠を受け取り、自分の足首にハメる。


「ほら行けよ。オバサンは用済みだ、さっさと行きな。」


「ゆっくりでいいから、店から離れて!」


 俺の言葉が合い図になったようで、彼女が走り去っていく。よし、これでいい。犯人が両側から腕を拘束しようとした瞬間、指輪の『雷』と魔法の『ファイア』を同時に炸裂させた。


「ぎゃん」「ぎゃあ!」


 1人は、気絶して、もう1人は、腕を押さえて転げ回っている。そこへ、待機していた警察官が雪崩れ込んできた。俺は、あっという間に店外に救出され、手錠を外された。


 外で警察官にガードされてやっと、立ち上がったところで、拍手が巻き起こる。犯人が連行されていくらしい。


「お前は、なんなんだ。俺達に何をしたんだ?」


「ほらこっちは、店に常備してあるスタンガンだ。こっちは、オイルライターさ。ほら。それから、店から取った金を出せ!」


「ほらよ!」


 見よう見まねで練習した九字を切り、大声を出し皆がびっくりしている内に、お札に掛けた魔法を解除した。


「はい、証拠物件ですのでお渡ししておきますね。」


 近くにいる警察官に手渡した。


「さあ、千代子出番だ。」


「はい!」


 マスコミに向かって言う。


「これから穢れた店内を清めますので、しばらく撮らないで貰えますか?」


 例によって、巫女の格好をした千代子さんの両手には、紙飛行機がスタンバっている。マスコミは逆に興味を引かれたようだが、カメラを止めてくれた。


「見ている分には、構わないか?」


 1人の記者に質問された。


「ええかまわない。千代子始めてくれ!」


 紙飛行機は店内をぐるぐると回り続け、中央付近の空中で忽然と消えた。まあ、実際には、『移動』で社用車の中に移動しただけなのだが。よかった今度は成功したようだ。


「これで終りました。ご協力ありがとうございました。」


 記者達は、皆一様にポカンとした顔をしている。


不思議な現象を見た記者は、どう思ったのでしょうね。


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