第8章-第80話 ほうせき
お読み頂きましてありがとうございます。
「ありがとうね。」
なんかアキエに貸し出されてしまったようだ。しかも、ちゃっかり釘を刺しているし。
「もっと、遊びたいよう。」
食事が終り、町の方へ行くために馬車に乗り込もうとしていると、アキエがぐずりだした。
「教会のおねえちゃんたち忙しそうだろ。邪魔しちゃダメ。わかった?」
「うん、わかった。」
余裕があれば、帰り道に寄ればいいだろう。
・・・・・・・
そういえば、久しぶりだな。この貴金属店街にくるのも、もしかして、異世界に始めてきたとき以来か。
「これは、これは、トム殿、ようこそお越しくださいました。今日は、そちらのお嬢様方のものでしょうか?」
「そうですね。この子が付ける用のペンダントネックレスを見せてもらえないだろうか?」
「パパ、買ってくれるの?」
「ああ、好きなのを1つ選びなさい。」
「さつきさんは、これなんかどうだい?」
ペンダントトップになにか宝石が付いたネックレスを彼女に当ててみる。俺のセンスにしては、まあまあいいんじゃないかな。値段も手ごろだし。
「こんな高価なもの頂けません。この石、ダイヤじゃないですか。それも3カラット以上あるし、この透明度からするとEカラーですね。」
「宝石には、詳しいのかい?」
「ええ、義母が宝石商を営んでおりますので、自然と・・・。」
「へぇ、でもこの世界のダイヤじゃ、カットも違うだろう?向こうでは、それほど価値は、無いんじゃないかな?」
実は、宝石を日本に持ち込み、売りさばくことも考えたのだが、どうみてもこの世界のカットは日本のものとは違うのだ。
「いえ、カットしなおしたとしても、3000万円は下らないかと・・・。」
異世界では、不恰好で1万Gしかしないものでも、日本では、そんなに高いのか。いまさら、異世界の宝石を日本に持ち込んでも裁く先が無い。その内考えよう。今日は、アキエ優先だ。
「じゃあ、これをプレゼントだ。」
まあ、指輪じゃなくてネックレスだから、ゴン氏にも誤解されないだろう。
「えー本当に?ありがとうございます。大切にしますね。」
アキエも女の子らしく、きらきらしたものに惹きつけられるらしく。あーでもないこーでもないと全然決らない。
「さつきさん、アキエに選んであげてくれないかな。どうも、決らないみたいなんだ。アキエ?どれとどれで悩んでいるんだい?パパの友達のおねえさんが詳しいんだって。」
「アキエちゃん、これとこれですか?」
「うん。」
「そうですね。アキエちゃんは真っ黒い瞳で真っ黒い髪なので、こちらのほうが似合います。どう?アキエちゃん。」
「おねえさん、ありがとう。アキエこっちにするね。」
アキエは、嫁に似たのか真っ黒い瞳で真っ黒い髪だ。俺は、両方とも茶色がかっているから、アキエを連れてお買い物に行くと、よくママ似だねと言われたもんだ。
・・・・・・・
その後は、市場でお茶したりデザートを食べたりと楽しく過ごした。
「ああ、寝ちゃいましたね。」
アキエは、夢の中でも遊んでいるのか。侍女に抱かれながら一生懸命、手足を動かしている。
「ゴメンな。一日付き合わせちゃった。」
「いえいえ、楽しかったですよ。アキエちゃんも可愛いし。」
「どんどん、口が達者になっていくな。一日の大半、喋ってるか歌っているかしているんじゃないか?」
侍女は、うんうんと頷いた。
最後の締めは、近衛師団の食堂で、モモエさんの手料理だ。
「あらあら、もう新しい人ですか?いいわね。アキエちゃん。」
「いえいえ、彼女は俺の護衛でね。アキエにずっと、付いてやれるわけじゃないのですよ。」
「でも、パパがこっちに来るときは、いっしょに来れるのでしょう?」
「私は、どちらでも・・・。」
「大丈夫かい。君のプライベートな時間が無くなってしまうのでは無いのか?」
「いえ、アキエちゃんの大事な時ですし、付いててあげたいな。」
「そうか、ありがとう。それで、モモエさんもできるだけで構わないからアキエのところに寄ってあげてくれないか?」
「そうですね。エトランジュ様もしばらくは付いていて上げられないようですし、引き受けました。まあ、もともと週に2回は、お邪魔していたんだけどね。うなぎ工場のほうも、順調だし、聴いたところしばらくはそれほど出荷しなくてもいいみたいだから、できるだけ御伺いします。」
「すまんな。モモエさんにばっかり面倒を掛けて・・・。」
「いえいえ、充実して良いことばっかり。こんなに充実しているのは、暫くぶりよ。ツトムの子供のころ以来かしら。」
アキエは、寝むた寝むただったが、顔を皿に突っ伏さずに夕飯を食べて後宮へと帰って行った。
「ヤン団長、ご苦労様でした。これは今日の報酬だ。」
そう言って、冷蔵庫から冷えたワインとグラスを取り出して渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「教会にもありましたけど、あの冷蔵庫は・・・。」
「うん、日本から持ち込んだ。太陽光発電といっしょにな。」
・・・・・・・
日本に帰ると、自宅まで彼女が送ってくれることになった。普段の土日はタクシーだ。彼女の車は、スポーツカーで、はっきり言って2度と乗りたくないと思うほど、ハンドルを握ると性格が変わるタイプの人間のようだ。
前任者マイヤーとは違い、大人しそうな護衛ですが・・・。