第1章-第6話 たま
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ヤンに懐中電灯を灯けて見せる。
「おおっこれは明るいですね。これがあれば、見回りが安全にできそう・・・。陛下、これも買ってもよろしいですか?」
「ああ、かまわんよ。まだ予算は残っているでのう。」
「では見回りは、2人一組で行いますので200本頂けますか。」
私は、ヤンに袋から200本の懐中電灯とさらに別の袋から単三電池を6000本渡し、電池の入れ替え方法を実演してみせる。実は、親父の部屋に魔法の袋があったので、こちらの袋には単三電池を入るだけ入れて持ってきたのだ。
「これで。おそらく30日分くらいです。その頃には、王都に店を開いている予定ですので、交換用電池はそちらでお買い求めください。なるべく、頻繁に消して頂ければ長く使えるので必要な時だけ灯けることをお勧めします。」
「じゃあ、うちの中隊の斥候部隊に持たせたいな。でも、予備のデンチは4回分くらいでいいよ。50本あればいいな。」
キャリーに懐中電灯50本と単三電池200本を渡し、代金を受け取った。
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再び秘密の抜け穴を通り後宮に入る。少々面倒だが仕方が無い。しかし、今日の売り上げだけでも、約25万Gになった。店舗を持ったあとも、これくらい売り上げがあれば良いのだが・・・まあ、そうはいくまいが・・・。
「さて、これは約束の10万Gだ。受け取ってくれるかのう。」
「えっ、今日はエトランジュ様は、お休みだとお聞きしましたがまさか・・・。」
まさか、こんな日に子作りだなんてことは・・・・女性は、すべからく安静に過ごして頂きたいのだが・・・。
「いやいや、誤解してくれるな。約束は7日に1度こちらに参られることが条件で、子作りをするしないは関係ないのだ。もちろん、今日はこのまま、休んでくれて構わない。」
「ああ、そうですよね。変な誤解をして申し訳ありません。そうだ、お金の話ばかりで申し訳ないのですが、この玉をご覧頂けないでしょうか?」
そう言って1つの宝玉らしきものをセイヤにみせた。これは親父の魔法の袋に入っていたものだ。丁度、掌で握れるサイズの玉とアルミの硬貨が1千枚ほど出て来たのだ。
親父がきっと逃げる際に持ち出したのだろう。だが日本ではタダ同然のアルミだ。しかも日本ではたとえ1円硬貨に似ていても使えない。困っただろうことは、容易に想像が付いた。まあ100G硬貨も数枚見つかっているから、これを売って当座の生活費にしたのかもしれない。
「こ、これは、幻の10万G玉ではないか。どうしたのだ。これは?」
突然、セイヤが驚きの表情を表に出す。10万Gでは驚くほどのことは無いと思うのだが・・・。
「はい、親父の遺品を整理した際に見つかったものなんですが、日本では取引されていない宝石だったので、こちらに持ってきたのですが・・・。」
「ほうミロクー叔父上がのう。そういえば、親父がクーデターのドサクサで宝玉がなくなっていると言っておったわ。」
「そうすると、これはお返ししたほうがよろしいので・・・?」
親父のモノだから、俺のモノだなんて言うつもりは無い。例えこの場は損をしても長期的に見て、最大限得になるように動くつもりだ。
「いや、持ち出した時点では、所有権は叔父上であったのだから。それはトム殿のもので間違いはない。ただ、今は流通しておらんので、こちらで両替させていただこう。いくつあるのかな?」
「はい、121個御座いました。」
「おお、そんなにも・・・。うーん、実はな。その玉の有用性が発見された所為で、流通を停止しておっての。正直どのくらいの値段がつくか、わからんのだ。」
「10万Gではないと・・・?」
「うむ、最近のオークションの例だと、100万Gの値段がついておる。」
「そんなにもですか、そうするとこの宝玉だけで1億2000万Gもするということですか?」
「いや、それだけ纏めてだと、もっとするだろうな。」
「いったい、どういった有用性なんでしょうか。」
「これは、各国の王族しか知らない情報だから、漏らしてくれるなよ。」
「はい。」
「これはな、持っている人間のMPを1つあたり7日分溜めて置ける物質なのだ。わしも、常に1つ持って居るのだが、例えば、召喚魔法はおよそ、わしの6日分の魔力が必要なんじゃよ。本当は・・・。」
「そうすると、この宝玉の有用性が発見される前は・・・。」
召喚魔法は、本来魔力量の問題で使えない魔法ということか。
「そうだ。代々伝えられておる召喚魔法なんだが、実は最近の例だと精々が隣の国の人間を召喚するのが精一杯で、異世界から召喚した例は初代国王まで遡らなくてはならないくらいだ。それほど、そなたの父は優れておったのだ。」
あの親父が。信じられん。
「それが50個もあれば、各国の失われて久しい魔法を行使できるのだよ。実際にどんな魔法があるのかは解らんのだが、中には一国の王宮を消滅させた魔法なんてのもあると聞いておる。」
とんでもないな。これを持ち込んだら、あらゆるバランスが狂ってしまうことになりかねないようだ。
「そうすると、この宝玉は、こちらの世界に持ち込まないほうがいいのでしょうか?」
「うむ。あと120個もここにもってきておるのか?」
「いいえ。念のため、自宅の金庫に入れてあります。」
それでも、安心できないかもしれない。銀行の貸金庫でも借りたいところだ。
「ふぅーーー、なら大丈夫そうだな。では悪いが他の120個は、封印してもらえるか。その代わり、その宝玉は、相場の5倍の500万Gで、買い取りさせて頂こう。」
うーん、相場の5倍といっても、1億G以上の価値を眠らすのは惜しいな。商人としての欲望が湧いてくる。
「できましたら、特級の商人資格も用意していただけませんでしょうか?」
前回この国に来たときに貴金属店で聞いた話では、商人には4種類の資格があるそうだ。3級の資格だと市場で仕入2級だと商人同士の取引1級だと生産者と直接取引、特級だとオークションでの出品と入札など、ありとあらゆる商取引に制限なくできるものだそうである。
前回頂いたのは2級で、貴金属の生産者から直接取引できないのである。
ちなみに販売に関しては、国内にかぎり、資格は必要ないが特級ならば国外への持ち出しも可能だ。
「うむ、よかろう。さらに王族なら当然の権利なんだが、税金も免除しよう。」
「早速なんですが、明日、貴金属の生産者にご紹介頂けないでしょうか。」
「わかった。じいに伝えておく。」
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もうすぐ夕食ということで、一端、自分の部屋に戻ることにした。扉をあけると、そこには・・・。
そこにはいったい何が・・・。