第7章-第72話 ごえい
お読み頂きましてありがとうございます。
金曜日朝、いつもの通り自社の社長室に出社するとすぐに来客があった。
「白鳥さつきと申します。ゴン氏の紹介で護衛役が必要と御伺いしましたので、こちらに参りました。」
身長175センチはある女性で全身筋肉なら男と見間違われるだろうが、そんなこともなく見えるところは女性らしい身体で、見えないところもその逆三角の体型からすると相当鍛えていることが伺えた。
まずはお試しで1日同行してもらうことにしたが、後でゴン氏に断るつもりだ。逐次観察されてゴン氏に報告されては、困る部分が自社での業務や土日の出勤など沢山あるのだ。
・・・・・・・
「その女が次の相手ってわけですか?社長。紀子はどうするんですか?」
1日の業務を終わって帰ってくると、Ziphoneチームの3人が待ち構えていた。
「ん、なんのことだ。この人は、ゴン氏から派遣されてきた護衛役の白鳥さつきさんだ。」
あれ、なにかひっかかったぞ。なんの記憶だ。これは・・・。
「それに紀子ともなんでもないぞ。俺の相手だなんて、嫁入り前なのに誤解されたらどうする。なあ、紀子。」
「私は、あの・・・その・・・。」
え、山崎さんは、真っ赤になって俯いてしまった。
「彼女が恥ずかしい演技をしたことも話しただろ。幸子。これは、パワハラでセクハラだぞ。これから株式総会という本番も控えているんだから、支障が出たらどうしてくれるんだ。」
「全く鈍感な誑しほどやっかいなものは、ないわね。」
誑しの次は、鈍感かよ。
「私は、社長さえOKなら・・・。」
「えっ。」
思わず彼女と幸子の顔を交互に見てしまった。どうも本当らしい。右の額辺りから汗がたらりと落ちていく。
そして、彼女の胸やお尻の感触がまざまざと蘇った。やばい、どう考えても、顔が赤くなっているに違いない。
「ダメ。あなた、社員でしょ。社長を虐めるなんて、とんでもない。」
突然、この場の護衛役のつもりなのか、さつきさんが割り込んできた。
・・・・・・ああ、なるほど。そうだったのか。
「わかった。ゴン氏に連絡して、証明してもらうよ。」
俺がゴン氏に連絡すると、先週行ったバーで待っているという。
「私、あのその。」
「ああ、わかっている。信子まで引きこむつもりはないさ。紀子と幸子さえ要れば済む問題だ。」
「いえ、私には見届ける義務があります。それに付いて行かなければ、洋一さんに何を言われるか・・・。」
「ま、まさか、俺と紀子の演技まで紀子から聞きだして報告してないだろうな?」
「も、もちろんですよ。胸を12回触ったとか一切報告していません。」
嘘だな。マジかよ。はずかしすぎるぞ。
「それはプライバシー侵害だ。そんなところまで報告するな。わかったか。わかったな。」
・・・・・・・
結局、皆でそのバーに向かい、VIPルームでホステスに席を外してもらった。
「和義さん。どういうことですか?なぜ、この方を、いや、和義さんの娘さんを差し向けたのですか?」
和義さんはニヤニヤ笑うばかりだったが、うちのチームの3人は皆一様に呆けた顔をしていた。
「なんじゃ。わかっておったのか。つまらん。昼報告を受けた時には、気付かれていないと言っておったのにダメじゃないか。さつき、勉強が足らんみたいだぞ。なぜ気付いた?」
これだよ。CEOのおもちゃじゃないんだがな。全くもう。
「以前、経済誌での田畑元会長との紙上会談でおっしゃっていたでしょう?」
「ありゃ、あれかね。さつきの名前を出した最初で最後なのに、よく知っていたな。」
「俺、言いませんでしたか。貴方のファンだと、貴方の出ていた経済誌は大部分は読んでいますよ。」
そうなんだよな。さつきさんは、アメリカのある警察組織に一時在籍していたんだっけ。そして、アメリカで、ゴン氏の人脈で財界要人向けの護衛専門の会社を設立したとか。
「そんなことも、言っていたな。本当のことだったのか。てっきり、お世辞だとばかり思っておったわ。」
「お父様の負けね。ますます、気に入ったわ。これは、是非とも雇って貰わなくては。」
「和義さん!」
「ダメ無理、娘は頑固だから言い出したら聞かん。こうなったらテコでも、聞きゃしないのじゃ。」
そういえば、経済誌の紙面でも、さつきさんと洋一さんの頑固さを喋っていたっけ。そのときは読み物としては、面白かったがその両名が俺の部下?冗談だと、誰かいってくれ・・・。
嘆いてもしかたがないか。
「わかりました。俺、個人のポケットマネーから出しましょう。但し、雇い主は俺ですので、例え身内であろうとも俺の情報を流してはダメですよ。」
「それはもちろん!契約ですから、一切漏らしませんわ。たとえお父様と言えどもね。」
「・・・・。つまらんのじゃ。」
「さつき、よかったじゃないか。決って・・・。」
奥のほうからCOOが現れる。どこから、現れたんだ。あそこはスタッフルームって書いてあったような・・・。
「あら、お兄様いらしたのね。もちろん、お兄様にも漏らしませんわよ。でも、お兄様もお気に入りなのね。それは守りがいがありますね。」
「もちろん、解かっているさ。それでなくても鈍感くんなのに。ますます、ややこしいことになったじゃないか。とにかく、決ったんだし乾杯しようじゃないか。そこの彼女たちも構わないよね。」
どうも、うちのチームのメンバーたちは、この濃い兄妹に口が聞けなくなったようだ。しかし、乾杯が終了し、酔いが回ってきたのか。この兄妹と彼女たちは、いかに俺が鈍感で誑しであるかを語りだした。
ゴン氏の娘登場。さて今後の展開は?