第7章-第71話 わるのり
お読み頂きましてありがとうございます。
「もう、知りません。自分でやってください。」
そんなに飲んだわけでもなかったが、そこそこ酔っ払った俺がエトランジュ様に水魔法の癒しをお願いすると、そう返された。どうやら空間魔法に水魔法を組み合わせて行うようだ。自分でできるということは、もうエトランジュ様からの癒しは受けられないのか。
「お、トムも出来るようになったのか。今度、お願いするとしようかのう。」
セイヤはいつでもエトランジュ様にお願いできる立場だというのに、わざわざ、俺にお願いしなくても・・・。
・・・・・・・
「マイヤーさんはどうしたのじゃ。」
月曜日の朝、Ziphone本社に出社して、ゴンCEOに挨拶に向かうといきなり、そう突っ込まれた。うすうす感じていたが朝は俺よりマイヤーの顔が見たいらしい。
「本国からの要請で郷里に戻っています。」
「・・・・・・・・。そうか、わかった。」
なんだ、この間は?まさかCEOが懸想?違うだろ。
なんか悪い予感しかしないんだが・・・。まあ、いいか。
「ありがとうございます。では、失礼します。」
・・・・・・・
「社長じゃなかった副社長、おはようございます。」
スタッフルームに到着すると信子が大きな声で挨拶をしてくる。こいつはおちゃらけキャラなのか、真面目キャラなのかイマイチわからん。
「おはよう。」
「あれっ、マイヤーさんは?」
「郷里に帰った。もう身辺を護衛してもらう必要が無くなったんでね。」
「解雇ですか?」
「いや元々、彼女の好意で来てもらっていたんだ。彼女は郷里では重要人物でな。それほど拘束しておけんのだ。」
「悪い男ですね。」
なんでそうなる。
「彼女の好意は、知っていたんでしょ。彼女残りたがったでしょ。」
「そうでもないぞ。これからも頻繁に会う予定だしな。」
「ほんとに?おかしいな。」
「それよりもどうだ?Ziphoneの社員とは、うまくやっているか?」
「そうね、あれから皆で飲みに行ってね。例の奴が潤滑剤になったみたい。いっぱい愚痴聞かされたわよ。相当、評判悪いやつだったみたい。まだ、わきあいあいというには、程遠いけどそれなりに仲良くなったわよ。角が取れた状態かな。」
「資料はどうなった?」
「そうね。今70%くらいかな。関心されたわよ、うちの資料。ひどく突っ込んだ内容だって、心苦しかったけど笑って誤魔化しておいたけどね。」
「今の時点でなにか、わかったことはあるか?」
「そうね。スキスキの正社員の比率がおかしいです。取締役や部長職の子弟を縁故させているようなのですが、それが全て正社員なのですが、その他に部長職未満の正社員が居ないのです。ここ20年ほど縁故外の採用はしていないみたいです。」
「それは、やっかいだな。そいつらが店舗業務をしている節はあるか?」
「いいえ。本部業務のみが大多数を占めるようです。それどころか、店舗業務を行う社員を見下している節さえあるようです。」
「そうか、会社整理名目で管理職に退陣してもらっても、中核の地位にある正社員が紐付きなら、世代交代にしかならない。不味いな。店舗業務経験を主軸とした給与体系にする必要があるな。正社員だけボーナス不支給、給与一律9%カットで、どれだけ辞めてくれるかだな。」
「あと、店長クラスもパワハラが酷かったそうですが、バイトが減り始めたころからパワハラが減ってきたそうです。今も人員がうまくいっている地方ほど、パワハラが酷い傾向にあるようです。本社機構にはパワハラ・セクハラ委員会なる組織もあるそうなのですが、報告した取締役に握りつぶされていてデータだけ残っているという状況のようです。」
「やはり、バイトを集められる人脈か。それを引き出す必要があるな。今の取締役の中に指示した人脈を持つものはいたか?」
「はい、ひとりだけ。現在、末席ですが取締役をしている小村という人物が、新日本柔道連盟の理事をしていて、大学柔道の大会にも小村杯というのを主催していて本人の多額の寄付で賄っているようです。」
「株式関係はどうなっている?」
「はい、前経営者がまだ15%、取締役全員を合わせて7%程を所持している模様で、Ziphoneで60%を押さえているものの磐石とは、言えない状態であります。ただ紀子の話では、その15%は、紀子の名義になっているようです。そうよね。紀子。」
「ええ、父が勝手に私の名義にしたみたいです。父が銀行に売り渡すときに同意書にサインさせられそうになったけど、いつか貢献できたらと残しておいたのです。」
「そうか、どこかで情報が漏れる可能性がある。当分、表舞台には出ないほうがいいな。」
「はい。わかりました。」
・・・・・・・
その日の夜には、うまく纏められた報告書をZiphone側から受け取った。内容はチーム内で確認した内容とほぼ同一だった。
その報告書を持ち、例の資料と共に、CEO、COOと打ち合わせを行った。
「そうすると、僕がその取締役に密かに接触すればいいんだな?見返りはZiphoneの取締役でいいか?それでも、情報は漏れると思うぞ。」
「情報ですか、そういえば例の男はどうなりました?」
「あの男か。あれは、俺の強権で来週中に沖縄の支店長へ栄転だ。まあお飾りだけどな。数年後に沖縄支店の成果が上がらずクビだ。」
「また、お前は・・・。」
「別に沖縄で毎年30%増を達成できれば、本社係長クラスに戻しますって。突然、優秀になるかもしれんし。」
「また無茶な。沖縄はドコデモの電波が強い地域だろ。俺でもドコデモのスマホを密かに持っていくくらいなのに・・・。」
「一応、強化していますよ。LTE/3G基地局の設置で不要になった3G/2G基地局を沖縄に設置を急いでいます。今にドコデモの牙城も崩れるときが来ますよ。」
「あとZiphoneの取締役達の状況は?」
「ああ元副社長一派さえも降格で勘弁してくれと泣きついてきたのじゃ。6割の席が空白になりそうだよ。まあ、多すぎるため、半分にするつもりだったから、空くのは2・3くらいだがな。」
「それなら俺の副社長就任が外に漏れる恐れは少ないですね。できれば発表を遅らせて頂けませんでしょうか。」
「それは構わん。元々、正式発表は次の株式総会の時のつもりだったしな。あまり、早急にやるとフィールド製薬の経営陣に不信に思われるので、なるべく伸ばしておくつもりだったのじゃ。」
「ではCOOすみませんが俺は暫くの間、Ziphoneに出社しませんが指示は、随時部下に出しますので、よろしくお願いします。」
・・・・・・・
翌日からは、自社の社長室で山崎さんといっしょにZiphoneに出社しているチームやCOOに指示を出していった。
まずCOOにお願いしたのは、牛丼のスキスキ以外の会社の合併だ。内容としては、開店・閉店業務、発注業務などの業務を統一して、業務を効率化したり、バイト、社員を融通しあっての業務効率化だ。モデルは自社で既に出来上がっているので、それを踏襲していくだけだ。
山崎さんには既にミスドーナッツ、メッツバーガーの業務が解かるので、あとのファミレスのカカスとかんぴょう寿司に潜りこませた。
COOが取締役に接触した翌日には、山崎さんに牛丼のスキスキから接触があった。やはり現経営陣側に賛成してもらいたいという申し出だった。俺はもちろん、色よい返事をするように指示し、さらに第3者割当増資への参加の意思表示をさせた。
明日、あるホテルの会議室で会うことになった。
・・・・・・・
俺の設定は、彼女のパトロンといったところだ。山崎さんは濃い目のメイクで戦闘服を用意するつもりだったようだが、俺はそれを止めさせ、胸元の開いた服で、いかにも俺に騙されているバカ女という設定にした。メイクが茶系からピンク系に変えただけでも、女性の雰囲気は変わる。
手の繋ぎ方から表情や腰への手の回し方までCOOに指導された。いったい、どういう経歴なんだ。あの人は。しかも当日彼女が悪乗りで胸へのタッチやお尻へのタッチまで強要してきたから、ヒールとスケベなおっさんを使い分けるのが大変だった。
「これでゴンに飲まされた煮え湯のお返しができる。もちろん、そちらの経営に口は出さん約束しよう。但し、会長職と社外取締役と社外監査役は、こちらに渡してもらうぞ。」
「はい、それはもちろん結構です。では、引き受けてくださるんで?」
「ああ、ゴンが直前まで気付かないように、紀子名義半分、俺名義半分とするつもりでいいか?」
「そうですね。そのほうがよろしいかと。」
「これで、フィールド製薬のお返しができる。ありがとよ。」
結局、両方共俺の金で第3者割当増資させることに成功した。合計振込み金額は約100億円で済んだ。まあ、これが今すぐ俺が出せる限界だ。スミス金属を売れば調達できるが、まだオリハルコンの成果が出ていないので売りたくなかったのだ。
・・・・・・・
来週には、臨時株主総会がZiphoneの提案で開かれる。なるほどCOOの言った通り、新聞紙面には経営陣の退陣のニュースが踊っている。
「当日はどうすればいいのじゃ?もちろん、直前になって翻すんだろ。」
ゴン氏は悪乗りする気満々だ。全くもう。
「そうですね。ですが議決が決定後、次期副社長と発表するのは止めてくださいよ。」
「なぜじゃ、どうしてじゃ。これ以上ないチャンスだぞ。」
やっぱり、発表するつもりだったようだ。
「それでなくても相当恨まれそうなのに。それをしたら、その場で刺されるかもしれません。絶対やめてください。」
念のため、例の紐パンにMPを投入するつもりだけど。できれば、恨まれる役はCOOに譲りたいものだ。