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第7章-第70話 すかうと

お読み頂きましてありがとうございます。

「トム、俺は席をはずすから、この宝玉からMPを取り出して使え。既に、俺のMPは投入してあるから、お主のMPとヤンのMPを入れて、3者のMPを混ぜて使えばいい。くれぐれも、他の魔法に使わないように、魔法によっては、3者で一緒に解除しないと解除できなくなるからのう。」


「わかりました。」


 宝玉にヤンがMPを入れ、俺もMPを入れた。後は宝物庫の周囲をイメージして、宝物に宝玉を押し付けながら魔法を唱えるだけだ。


 武器庫にも、これと同様の魔法が掛かっているが、そちらはマイヤーが、広域魔法を使ったため、宝物1個1個に掛けなくてもいいらしい。流石は、俺の師匠だ。そちらは、既にヤンでも解除できるように魔法を掛けてあるので問題ない。


 宝物庫にある武器や防具は、宝飾品が多くついているものは、武器としては役に立たないし、付いていないものは過去の王族や英雄が使った逸品なのだそうである。


「ヤン、これもお飾りの武器?」


 それはひと際、沢山の宝飾品が付いていたが、数々の剣を見たあとで刃が潰されているかいないか区別がつくようになってきた俺が見ても首を傾げるような状態の剣だった。


「おいおい、そっと扱ってくれよ。それは、即位の儀式に使うものだからな。臣下に反逆の意思があるとみなせば、その場で殺せるだけの殺傷能力は持っている。まあ、使った例は無いらしいがな。」


・・・・・・・


 午後は暗くなるまで掛かって宝物庫の武器、防具をすべて、ヤンに解除できるように魔法を掛けなおした。俺達は、そのまま近衛師団の食堂に向かった。


「あ、社長。ヤン団長、ちょうどよかった。この人、なんとかしてください。」


「叔父さん!なにやってんですか、こんなところで。」


 そこに居たのはジロエ前団長だった。モモエさんは迷惑そうにしている。


「いや偶にはこちらで、メシを喰おうかと。」


「モモエさん。いったいどうしたのですか?」


「いや、この人にスカウトされて困っていたんですよ。」


「モモエさんというのか?この人の作る料理に惚れこんでな。子爵家で働いてくれないかと思ってな。」


 ジロエ前団長は子爵位を襲爵しているらしい。


「叔父さん、バカですか。陛下の料理番である、宮中料理人を子爵家に引き抜けると思っているのですか?下手をしたら、反逆罪扱いされますよ。」


「モモエさんには、うなぎ工場の工場長兼総料理長も勤めてもらっています。ジロエさん、貴方には、レベルMAXの料理人を用意することと、モモエさんに今貰っている以上の年収を約束できますか?」


「あの伝説級の料理人なのか。ちなみに今の年収いくらだ?」


 実際の年収は、宮中料理人やここの食堂の職員などを管理していないのでモモエさんしかしらない。


 モモエさんから年収を聞いたジロエ子爵は、驚愕の表情をしている。


「な、子爵家の年収と同じではないか。それに、子爵家以上の重要人物ときては、引き抜くのは絶対無理ではないか。それなのに、この食堂で働いているというのか?」


 ジロエ子爵は、がっくりと肩を落とした。


「叔父さん?叔父さんもこの食堂に来て、夕食を摂ればいいじゃないですか。先日の避暑のように陛下が特に命じないかぎり、毎日作りにきてくれてますから。俺なんて毎日来てますよ。」


「そうか、お前が伯爵家に顔を出さないようになったのは、この料理が原因か。これじゃあ、叱れんな。」


「それにね。常連になれば、全員分の材料費さえ出せば、好きな料理も作ってくれるんですよ。今月はいったい何回、散財しているか。」


「それは、いいな。よし、俺もここに通うことにするぞ。」


「まあ、ほどほどにしておいてください。子爵家の料理人が泣きますよ。」


「大丈夫だ。始めから要らないと言えば、楽できると喜ぶさ。」


 ジロエ子爵は、独身なのだろうか。


「ああ、叔父さんは、独身なんですよ。ね。」


「ああ、当代かぎりの子爵位なんでね。子供が可哀想だろ。貴族の家に生まれてきて、自分は貴族になれないなんてよ。」


「叔父さんの子なら、そのまま襲爵も可能でしょう?近衛師団団長という肩書きで長年貢献してきたことですし。」


「ああ、それは結果論だろ。そうなるか、どうかわからないことに巻き込みたくなかったんだよ。しかも好きな女の子供だろ。絶対、不幸になると解かっているのに・・・。」


 貴族の子弟で貴族になれなかった人間は、身持ちを崩していく人間が多いらしい。本人がよほどの武勲でも立てないかぎり、いくら努力しても貴族になれないためだ。


・・・・・・・


「モモエさん。あの料理人、どうなった?」


「それがですね。あっさりと、今の狼王国トップの料理人の技量を超えていきまして、私達の下焼きを任せられるほどになりました。出荷量は倍近くになりそうです。他の料理人達も、必死に技量を上げていますので、1ヶ月後くらいには、スーパーのうなぎ程度にはなりそうです。」


 うーん、今のうなぎ料理店とは別にモモエさんの弟子達が焼いたカバヤキを消費する店が必要だろうな。しかも、モモエさんたちが出荷する分だけで、腐らない袋はいっぱいになりそうだから、別の手段で、日本に持ち込む必要がありそうだ。


「とりあえず、スーパーのうなぎレベル未満のカバヤキについては、狼王国の商人の職業持ちを使い、市場で売り払え、値段はスキスキで売る金額の半値以下で、売れる値段まで下げて構わない。」


 少しでも、この世界にカバヤキを浸透させる必要がありそうだ。


「モモエさん。俺には白焼きを出してくれないか?それと辛口の白ワイン。」


 食堂の決った定食と別注のリクエストをモモエさんに伝える。


「ああ、ちょうど、下焼き直後のカバヤキがあるわ。避暑地にあったわさびを添えればいいかい?」


「ああ、それでかまわない。」


「おいおい、なんだいそれは。俺達にも、喰わせろよ。」


「じゃあ、モモエさん、2本を3人前に分けて出してくれ。」


・・・・・・・


 子爵は既に食べたのか、目の前の白焼きに興味深々のようだ。


 まずは、ワインだ。地下の保管庫から出されたそれは、そこそこ冷えているが、もっと冷えているほうがうまい。まずは、ワインにタオルを巻きつけ、指輪を『水』、右手で風魔法を唱え、同時に繰り出すとキンキンに冷えたワインの出来上がりだ。


 普通は、勇者でないと魔法の多重起動は難しいらしいが、魔道具を併用することでそれが可能になるらしい。


「そのワインもくれよ。」


「わかった。1杯ずつだぞ。」


 俺は100円ショップからくすねて、この食堂に置いてあるワイングラスを持ち出して、ジロエ子爵とヤンと自分の前に置いた。


「おいおい、なんでこんな高級食器がこんなところに・・・。」


 いろいろ言う子爵は無視して、そのグラスにワインを注ぐ。


 迎え酒だがグラス半分ほどを一気にあおる。やっぱり冷えたワインは美味しいな。いちいち冷やすのは面倒だから、ここにも冷蔵庫を置くか。


「うめー、冷えているとうめーな。ここのワインってこんなに旨かったっけ?」


「ああ、初めて飲むものみたいだ。」


 目の前の二人は、一気にすべてを煽ったようだ。


 俺は、白焼きにわさびを付けて、食べたあと、ワインで流し込む。やっぱり、白焼きはお酒との相性は抜群だ。


 俺がよほどの至福の表情をしていたのか、同じように白焼きを食べて幸せそうにしている二人だったが、温い自分のワインに手をつけると、途端に表情が変わった。まあ、冷たいほうが合うだろうな。


「「もう、1杯くれ!」」


 目があったとたん二人は、揃ってワイングラスを差し出してくる。


「えー、嫌だ。自分のワインを飲めばいいだろ!」


「うそ!」


「幾らでも出す。俺のワインを冷やしてくれ!」


「わかりました子爵。じゃあ、1万Gで手を打ちましょう。」


 たかだか30Gのワインなのに、ぼったくりだなと思いつつそう言う俺。やばいな、酔っ払っているのか俺。思考が変になっている。


「よし、乗った!」


 早速、1万Gを差し出してきた子爵に冗談とは言えずに、そのまま彼のワインを冷やしてやった。さっそく、グラスに入れて、俺と同じように白焼きを食べて、ワインを飲み干している。その幸せそうな表情を見て、まあいいかと思い直した。


「ヤン、お前はどうするんだ。」


「それが、手持ちが無くて、叔父さん貸してください!」


「おいおい、次期伯爵が情けないぞ。」


「トム殿、すみませんがツケでお願いできないでしょうか?」


「嫌だ。」


「えーなんでです。」


「踏み倒されかねない人に貸すことはできない。」


「お前、なにやらかしたんだ?」


 ジロエ子爵に魔獣狩りの顛末を全て話した。


「それは、お前が悪い。というか素直にその好意に甘えて、1割貰っておけば、今払えたんじゃないのか?自業自得だ。」


 そんなやり取りを尻目に白焼きとワインを飲み干した俺は、定食も食べ、さっさと後宮に戻った。


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