第7章-第68話 しゅうきょう
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「いずれ発表するが本当はトムは俺の従兄弟で次期公爵だのう。くれぐれも、ケガをさせたりするでは無いぞ。わかったかのう。ヤン団長。」
「はっ、命に替えましても。」
はぁ、のんびりした異世界生活共おさらばか。そもそも7日に2日だけで当主が勤まるのかね。それとなくセイヤに聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「公爵とは名前ばかりの年金生活だぞ、代われるものなら替わってもらいたいぞ。」
とにかく、急いでエルフの里に向かわなければ。
・・・・・・・
「すまんが、武装を解除してもらえないだろうか。」
ヤン団長を連れ、エルフの里に到着し、マイヤーの兄にマイヤーの居所を聞いたところ、こんな答えが返ってきた。そういえば、マイヤーにエルフの里には、他国の軍は入れないと聞いたような覚えがあった。
「ヤン、その剣を渡せ。」
「は、はい。こちらに。」
俺は、ヤンから剣を取り上げ、彼に渡した。
「申し訳なかった。次からは気を付ける。」
「お帰りになる際にお渡ししますので、しばらくのご辛抱を。」
「ヤン、悪かった。後宮で待機してもらうべきだった。許してくれ。」
「もったいなき。お言葉。」
ヤンの態度は、以前とは全く違う。これから、ずっとこれなのだろうか。
・・・・・・・
マイヤーは、エルフの里の更に奥の家3軒分はあろうかと言う大木の前の東屋にそっと寝かされていた。
「ト・トム・・・。」
「ヤン、入り口付近で待機するように。マイヤー大丈夫か。」
俺は、起き上がって身支度を始めようとするマイヤーを押しとどめて近づいた。
「で、懐妊で間違いはないのか?」
「ええ、おばあの見立てでも、そうなりましたので確実かと。」
「そうか、よかった。病気じゃなくて。」
「褒めてくださらないので?」
「まずは、マイヤーの身体が大事だからな。」
「はい、ありがとうございます。」
「でも、残念だな。もうしばらくは、マイヤーを抱けないのか。もっと、いろいろ楽しみたかったのに。」
「そうですね。2ヶ月程経てば、安定期に入るそうなので、そのころなら大丈夫かと。」
「うわー、なまなましい。やめてくれー。」
「なんだ!ヤン団長、聞いていたのか。」
「そうよ!夫婦の会話に割り込まないで。」
「はいはい始めから、負け戦なのは解かっていたのに、なんでここまで入れこんじゃったかな。お前ら、それ以上いちゃいちゃするんじゃねぇ。」
俺は軽くマイヤーを抱き寄せる。なるほど、セイヤがこのタイミングでヤン団長を俺の護衛にあてたのはこの件を知っていたからなんだな。
「それは、すまんな。まあ、さっさと諦めるんだな。」
「くそ、みてられねぇ。俺は家の周囲の見回ってくるから、ゆっくりするがいい。」
そう言い捨てて、ヤン団長は家の外へ出て行ってしまった。俺はマイヤーに微笑みかけた。
「やつに恋愛感情は無かったけど、私にとっては親友に近いわ。ああみえて戦いについては、ひとかどの人物よ。安心していいわ。」
・・・・・・・
「マイヤーは、居るか?」
「あ、パリス姉さま。お久しぶりでございます。トム、こちらがアルメリア国中心に宿屋を営んでいる姉のパリスです。一番上の姉で彼女の子供、孫達がアルメリア国の政財界をにぎる日も近いと思われていたのですが・・・。」
「あ、そちらがトム殿か、噂は聞いておる。チバラギ国には迷惑をかけてすまない。まさか、本当に戦を仕掛けるとは思わなんだのだ。しかも、魔王が降誕したと嘘をついてまで・・・。」
「嘘だと解かっているのですか?」
「ああ、マイヤーの先代の聖女は、およそ500年前に魔王が降誕したとアルメリア様からお告げを受けたのだが、その後、魔王らしき動きは一切ない。魔族も前回の戦いでほとんど殲滅されたと聞いている。アルメリア教の教主が言い出したのが、ほんの10年前なのだ、あきらかに時期があわない。」
「マイヤーもお告げを聞いていないのですよね。」
「ああ、今の人族の聖女も聞いていないと言っている。アルメリア様と直接交信できるのは、聖女と異世界から転生した勇者のみと聞いている。勇者達は、1名はきっぱり否定したが、あとの3名は、言葉を濁しておる。転生直後から勇者達を取り込んでおるからのう。教団は。」
「そんな状態でも、よく戦を仕掛けられるものですね。」
「ああ、アルメリア国の住人の約7割が信者だからな。その最高権力者の教主は、神と同等なのさ。たとえアルメリア様と交信できない、ただの人間であろうともな。」
「マイヤーはいいな。こんな素敵な旦那さまで。幸せそうだ。」
「パリス姉さまも出産のためにエルフの里に戻られたのでしょう?」
「そうだ。だが、今までで1人たりとも、妊娠中にエルフの里まで訪ねてくるような旦那はいなかった。」
「そうですか、ならばパリス姉さまも、大好きな人の子供を産めばいいじゃない。パリス姉さまなら、将来有望かもしれない人物の子供なら、長老も嫌とはいわないはず。」
「そうか。それならば、よほどのダメ男以外は範囲に入るのう。私も恋に生きてみるか。」
こんな美人に誘惑されたら、簡単に落ちそうだ。だが、逆にダメ男になるんじゃないのか。
「それから、トム殿にお願いしたいのだが・・・。」
「はい、なんでしょう?」
「もし、戦線がチバラギ国にまで到達してしまった場合なんだが、勇者たちだけはなんとか殺さないでやってくれないか。」
「はっ、ちなみに今の勇者たちは、どのような経緯で転生してきたか、ご存知ですか?」
「ああなにやら、フクなんとかという場所で死んだとか。」
きっと、あれのことだな。日本の世界の神も粋なことをするものだ。
「わかりました。国王に伝えておきますし。私も最大限努力させて頂きます。」
「もう一つお願いが・・・。」
「なんでしょう?」
「その勇者に、私の娘が付き従っているのです。ですから・・・。」
「エルフは、ハーフエルフも中立と聞いておりましたが?」
「はい。そうなんですが、その娘も恋に生きたようで・・・。すみません、厚かましいお願いだとは、解かっているのですが・・・。」
「はい、解かりました。それは、親として当然の感情、できるだけご期待に沿えるように致しましょう。」
「よろしくお願い致します。」
・・・・・・・
その後、散々マイヤーといちゃついていたら、痺れをきらしたのか、ヤン団長がやってきてむりやり引っ張り出されてしまった。
「ではトム殿、参りましょう。」
マイヤーの兄から剣を受け取り、ヤン団長を連れ、直接うなぎ工場に戻った。




