第7章-第66話 ずるいおとこ
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翌日は、自社で勤務だ。貴金属買取ショップの鑑定と牛丼のスキスキ、メッツバーガー、ミスドーナツの廃棄物処理という名の回収は人任せにできないのだ。いずれ、なんとかしたいものだ。もちろん彼女たちは、Ziphone本社に出勤している。
「社長、彼女を出せよ!隠し立てするとためにならんぞ。」
例の元若頭だ。俺はマイヤーを手で制する。やはり彼女を異動させたのは正解だったようだ。俺の居る金曜日を狙いやってきたらしい。
「脅すと安田さんを呼ぶぞ。今日は勤務しているらしいから。」
「なぜだ。貴様にとって一従業員だろうが、それとも、あいつと肉体関係があったのか?」
マイヤーを俺のところに引き寄せつつ、紐パンにMPを投入した。
「まさか、俺の嫁さんのほうが綺麗だろ。俺は、今コイツに夢中でね。よそ見する余裕は無いんだ。」
「それほんと?」
「もちろんだよ。」
マイヤーが聞き返してくるとは思わなかったけど、真実だからそう答えた。
「じゃあ、なぜだ。」
「俺をそこらの冷酷な経営者と一緒にするな。俺にとって、従業員は家族同然の存在だ。お前さんに渡すわけがないだろう。」
「へえ、そんな人間がまだ居たんだな。天然記念物並だぜ。まいったな。・・・俺は、いったいどうすれば・・・。」
「もう遅いな。お前さんが前回あんなこと言ったから、離れていったんだ。どうしようもないな。」
「俺も悩んだんだぜ。でも、遅いんだな。社長、あいつに伝言頼めるか?迷惑かけて済まなかった。でも、惚れたのは本当だと。」
「ああ、わかった。」
念のため、弁護士に事の経緯を連絡した。結局、前も言われたが毅然とした態度をしてくださいとアドバイスを受けた。
・・・・・・・
夕方になり、自社に戻ったとたん。玄関前に例の専属の運転手が待っていた。
「すみません。緊急事態です、COOがZiphone本社ビルから出られなくなっているそうで、至急、副社長に対応して頂きたいと連絡が・・・。」
もうあの人は、やらかしてくれたな。
「すまんが、本社ビルへやってくれるか?」
「わかりました。」
俺とマイヤーが車に乗り込むと1時間ほどで到着する。さすがにプロの運転手だ。誰も知らない道を縫って走ったようだ。
俺は本社ビルに入り、マイヤーにCOOの探索を依頼した。
「こちらです。」
大川COOは、なんのことはない。地下駐車場に居た。
「おお、助かった。僕をここから連れ出してくれよ。」
さすがに軽口は飛んでこないようだ。
「先に書類を頂けますか?」
「書類?なんのことだ。」
「惚けるなら、このまま帰りますよ。あと3日ほど迷っていてください。」
「わかった、わかった。なぜ、わかったんだ?」
COOが書類を取り出して渡そうとしたときに、ゴン氏が現れた。
「いったい、何があった。その書類はなんだ。」
俺はCOOの顔を覗くと、COOは頷いた。
「うん、ごめん。トムの状況を確認しようと、潜りこませていたスタッフから書類を入手したんだ。」
「お前、やっていいこととやって悪いことがわからんのか?そういう書類があることは、秘書から聞いているが、出所がトムの会社だと聞いていたから、関心していたところだった。それを盗んだと言うのか?悪ふざけが過ぎるぞ・・・賢次。」
「あの前から不思議に思っていたのですが、COOはCEOの・・・。」
「ああ、息子さ。妾の子供だ。軽蔑するかね。」
「いえ、別に。」
まあ、俺も異世界では複数の嫁を貰うみたいだから、人のことを言える立場ではない。
「そうか、知られたくはなかったんだがな。」
「では、本当の後継者?」
「いやこいつは、人をハメたり冷酷に切って捨てるのには、向いているんだが人情というものが無くてな。できればトムから学び取ってほしいと思ったんだが、すまん。本当にすまない。」
また、最敬礼だ。ズルいな、そうそうジョーカーばかり出さなくてもいいのに・・・。
「おやじぃ、俺のために謝ってくれるのか。これは、夢か幻か。」
「息子さん、大丈夫そうですよ。お父さんに優しくしてほしかっただけみたい。ダメですよ、叱るばっかりではね。和義さん。今は叱るよりも、優しくするべきですよ。わかりましたか?」
「COO、とりあえず書類は返して頂きます。もう、これっきりでお願いしますね。COOもCEOも欲しい書類があれば、遠慮なく申してくださいね。ちゃんと、お渡ししますので、来週には、ある程度報告できるところまで進めるつもりです。そのときに、これのコピーをお渡ししますので・・・。」
「それはいったい・・・。」
「ないしょです。まあ、CEOなら大体想像はつくでしょう?」
「ああ。そうだな。そうだった。」
「今日は2人っきりで語り明かしてください。俺は自社に戻ります。」
「ああ、そうするよ。今日の予定はすべてキャンセルだ。」
「ごめんね。ありがとう。僕どんなことでも手伝うから、なんでも言ってね。」
「始めから、そのつもりですよCOO、人使い荒いですから覚悟しておいてくださいね。」
・・・・・・・
ついでに2階のスタッフルームに行った。いずれCOOから聞かされるだろうが、釘をさしておく必要があるだろ。
「やあ、頑張っているね。すまんが、今、例の極秘資料のNo9を持っているのは誰だ?」
「はい!俺です。」
やっぱりコイツか。厚顔無恥だな。察しろよCOOに目を掛けて貰っているという意味の無い自負が見え隠れする。
「じゃあ、このコピーのコピーは俺が回収するから、こっちのNo9を使ってくれるか?」
となりの女性にCOOから取り戻した書類を渡す。Ziphoneの極秘印は普通のカラーコピーでは出にくい色を使っているらしくて、こいつは、コピーのコピーを使い続けるしかなかったわけだ。コピーのコピーをCOOに渡せばいいのに、バカなやつだ。
「まあ、そういうわけだから、チームから外れてくれるか?大丈夫だ、上と上の上には、話がついているから・・・。」
俺がそう言うとそれまで自信たっぷりだった奴は、顔面蒼白になり何を思ったか隣の女性に渡した書類を取り上げ逃げ出した。それ最悪の手なんですけど・・・。そのまま、スゴスゴと出て行けば、COOが違う部署に異動させて終りだったけど。これだけ沢山の目の前で盗みを働けば、もうCOOにも、どうしようもないだろう。
唖然としていたスタッフは、俺の顔色を伺う。
「ああ、すまんが取り返してきてくれるか?追い詰めたら連絡してくれ。」
「「「「「「はい!」」」」」」
もう面倒になっていた。やつが迷って、どこかに隠れたあとで探索するほうが効率的だ。それにこれを利用すれば、Ziphone社員の俺のスタッフに対する見下した態度が変わるだろうからな。ズルい方法だが、利用できるものは利用するさ。俺は俺のスタッフのほうが大事だから。
・・・・・・・
「すみません。こんなことになって。」
俺はあの場をうまく処置できなかったことを謝る。
「仕方ないさ。まあ、なんとかなるよ。僕の悪名がいまさら1つや2つ増えても。僕がそういう人間だと社内には知れ渡っているからさ。まあ、そのせいであいつを庇えなくなったけど。」
奴はZiphone社員に取り囲まれて、洗いざらいCOOに頼まれたことまで喋ったのだ。俺は咄嗟にCOOから連絡があったことをスタッフに伝え。その後の窃盗行為は知らないけれどと鬼畜なことを言ってしまったが、奴の自業自得だから仕方がない。
結局、まだ社内に居たCEO、COOの耳に届き、全てを収めた2時間後、CEO行き付けのバーに連れ込まれ愚痴の相手をさせられている。これこそ自業自得だから、なにも言えないが・・・。
「お前のは自業自得だ。そうやって、社員を切り捨てるんじゃない。」
ゴン氏がキレかかっている。
「まあまあ、その辺で。今日は2人で語り合うんでしょ。お邪魔でしょうから、そろそろ、失礼します。」
俺はそう言ってマイヤーに帰る用意をさせる。
「まさか、帰れると思っているの?」
「そうだ、トム?今日の役目は緩衝材だ。」
こんなときばかり、結託するなよ。困った親子だ。
「わかりました。じゃあ、3時までね。」
「ダメだ。朝までだ。」
「そうだ、そうだ。」
このままでは、召喚の時刻まで付き合わされるぞ。何とかしなくては・・・。
「ほら、マイヤーがお冠ですよ。CEO。」
「ん、わかった。すまないね、マイヤー。君たちの時間を奪ってしまって、3時までにしておくよ。それまでは、しっかりと飲み明かしてもらうからな。覚悟しておけよ。」
うーん、いつまで持つかな。いくら飲む振りをしてお酒の大半を空間魔法でトイレに移動していると言っても、飲んだ瞬間に身体に吸収される分は確実に酔っている、限界は近そうだ。