第7章-第64話 おじょうさま?
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山崎さんだけ質素な服装をしていたため、彼女が自宅に寄りたいと言い出したので運転手さんに言って、そちらに向けてもらった。車はゴン氏が手配してくれており、これから毎日リムジンクラスの豪華な車で送り迎えが付くらしい。
彼女が自宅に入っている間に、チームの皆にざっと彼女の事情を説明した。もちろん、彼女の了解はとってある。
「できれば、チーム内では優しくしてあげて欲しいんだ。牛丼のスキスキでは、どうしても彼女が矢面に立つことになる。」
「そんなこと、言われなくてもそうするわ。それに彼女、心にキズを負っているんじゃないかな。そういったフォローも任せておいて。ね、信子。」
「そうね。でも、トムは優しいわ。優しすぎるわ。トムのほうが参っちゃわない。そっちのほうが心配だわ。彼女なら目的を果たすまでは、どんなことがあっても頑張れるだろうと思うの。」
「うん、すまん。心強いよ。俺が優しい?そんなことは、ないぞ!相手を敵と認識すれば、どこまでも非情になれる。きっと、彼女のお父さんよりも冷酷だと思うぞ。」
「でも私たち従業員には、その目を向けないでしょ。」
「それはそうさ。君たち従業員は家族だもの。そんな目を向けるはずはないさ。」
・・・・・・・
「お待ちどうさま。」
「俺は華美にならないようにと言わなかったっけ?」
彼女の服装は、一時期マイヤーに与え続けたブランドものや高価な宝飾品で彩られており、メイクも派手目に施されていた。
「これは私の戦闘服です。それから、この書類あの会社の管理者以上の人間の調査結果報告書です。父から奪い取ってきました。ご活用下さい。」
「着替えてきなさい。メイクも落としてきなさい。」
「どうしてですか?」
「君の気持ちは嬉しいし、心苦しいがそれを利用させてもらうことになるだろう。しかしだ、これから向かうのはZiphoneだ。牛丼のスキスキではない。牛丼のスキスキに向かうタイミングで十分さ。Ziphone社内では、君の行動がチームの皆にどういった影響を与えるかを良く考えろ。」
「はい、わかりました。着替えてきます。申し訳ありませんでした。」
・・・・・・・
「全くトム、優しすぎるわ。そんな憎まれ役を買って出なくても、私達で十分注意できたのに。」
「ああ、でもZiphone社内で、ずっと戦闘態勢では困るからさ。なんといっても、俺が疲れる。何事にも緩急が必要さ。」
「はいはい。わかりました。でも、この後のフォローは任せてね。」
「ああ任せる。というか任せるつもりだったからこそ、あれだけキツく言ったんだぞ。」
「そうでしょうね。何処までも、トムは人を気分よくさせるのがうまいわね。ぜったい、誑しだわね。でも錯覚しそうになるから、ほどほどにしてね。」
「俺が誑し?違うよな、マイヤー?」
「トムは誑し、それも天然。」
・・・・・・・
Ziphone本社ビルに行く途中、ゴンCEOの主催する昼食会に出席した。
「社長!」
「なんだ相馬。ここでは、副社長と呼べ。」
俺が開催の30分前に到着すると、現地で準備作業に入っていた相馬くんが駆け寄ってきた。
「すみません。カバヤキが足りません。あと、3本ください。」
「どうしたんだ?人数の倍は持って行けと言ったはずだぞ。」
「すみません。たしかにそう指示したのですが、部下が勘違いしたみたいで・・・。」
「なんだ、確認しなかったのか?バカだなぁ。指示して、確認する。鉄則だろ。ほら20本程持っていけ。それから、彼女たちの分を余分に作ってくれ。後でかまわないから。ごはんは足りるか?」
「それは、大丈夫です。へえ、山崎さんって、美人だったんだ。」
「何を言っているんだお前。頻繁に一緒に勤務してただろ。」
「ええ、100円ショップでは、ほとんど、すっぴんでしたよ。彼女。」
「バカだな。すっぴんでも十分見れた顔だっただろ。それが、メイクすれば美人になるだろ普通。まあいい、とにかくスタンバイだ。」
「アイアイサー。」
少し気が抜けてしまったが、あれが彼の持ち味だ。緊張していたのが少しだけ楽になった。
・・・・・・・
「これが次期副社長のトムだ。これから育てるところだ、仲良くしてやってくれ。うまく育ったら、後継者にするつもりだ。」
これだよ。いきなりの爆弾発言。ええ、ポーカーフェイスに勤めましたとも。さっきの緊張が緩和されていたのがよかったらしい。
「なんだ、驚かんのか。つまらん。」
「驚かないわけないでしょ。もう皆さんは、よくこの人に付き合えますね。それだけで感心しますよ。」
この中でも、驚かせられた人間が居たのか。うんうんと頷いている人間も居るし、声を殺して笑っている人間も居る。よし、掴みはOK。
あとはいつもの手順通り進める。ホテルのスタッフに相馬くんが指示を出すだけで、こっちは何もすることはない。あとは、ゴン氏のアドリブに対応するだけだ。
「トム、アレは無いのか。わし専用のうな丼は。」
今日はこれか。異世界の1日限定10食のほうを所望らしい。
「はいはい、おじいちゃまには、ごはんがやわらかいほうがいいのでしたね。」
そう言ってこっそり、後ろ手に腐らない袋から取り出して、ゴン氏の前に置いた。
「だれが、じいさんやねん。そうそう、これこれ。」
「和義さん。それはなんですか。こっちとは、違うのですか?」
「トム、説明してやれ!」
こんな感じである。とりあえずは説明に専念する。矢継ぎ早に質問攻めでほとんど嘘はつかないが、異世界のことは、とある国と誤魔化している。今回も全員がプレオープンの招待状を送ることに了解してもらった。
・・・・・・・
プレオープンは5日間続き、昼の部と夜の部に分けて合計10回を予定している。招待状には、今回の出席者1人につき、3名まで連れて来ることができ、好きな日にちを第3希望まで書いてもらい、抽選で選ぶ形式だ。あまり、集中するようだったら、夜の部を2回に増やすつもりだ。
結局、俺と彼女達は、客達が帰ったあとで、うな丼をつついた。
「これが噂のプロジェクトですね。相馬くん、大変そう。でも楽しそう。うらやましいわね。」
「紀子どうしたの?驚いた顔して。」
「これ本物だわ。本当の天然物よ。どこで、これを・・・って内緒でしたね。」
「それ、マイヤーの故郷で採れたものなんだよ。今は槌屋さんってうなぎ料理人とうちから行った料理人が主に作っているんだが、そのうち、向こうの料理人も育つから、こんな特殊なプロジェクト以外でも使うつもりさ。」
「でもこのプロジェクト、ゴン氏用の道楽プロジェクトになりそう。黒字化するのが順調にいって4年後って大丈夫なんですか?」
流石に洋一さんところの部下だ。きっちり把握しているな。
「まあ実をいえば、俺と君たちの稼ぎで相殺しているところがあることは、確かだ。俺の分は内緒だが、君たちの派遣単価、幾らだと思う?時間あたり1万円だぞ。」
「げ。」
「マジですか。」
「しかも契約は随意契約だから、請求しただけ貰える。まあ、誤魔化そうなんて思わないが・・・。」
「あるところには、あるもんですね。」
「ああでも、それがZiphone社員の時間単価と同じらしい。」
「はあ、儲かっている企業は違いますね。」
「まあ、あまり毒されないでくれよ。」
「そうですね。気をつけます。それでなくても、随分給料が増えて金遣いがヤバイのに・・・。」
いつも評価して頂きましてありがとうございます。
なんとか、お盆を乗り切ったようです。
いつも温かい心遣いありがとうございます。




