第6章-第57話 たよれるひと?
お読み頂きましてありがとうございます。
まあ確かに高校生の子供がいるようには、見えないくらい若作りはしているが目尻とか手の指とかに年齢を感じれると思うんだがなぁ。まあインテリヤクザみたいだったから、それほど女性に詳しくなかったのかもしれないな。
「なあ貴金属買取ショップは、店舗経営部門の中では、トップの利益率だから、君のボーナスは社でもトップクラスだと思う。だから、そんなに頑張って売り上げ上げなくても構わないんだ。なにをそんなにガツガツしていたんだ?」
「だって相馬さん夫妻は、あんなに社の中心に居るのになにか遅れを取っているみたいで・・・。離婚してしまったし、それに、子供の教育費が・・・。」
「離婚で差別したりしないぞ。」
「聞いてくださいよ。あのバカ亭主、離婚するときなんて言ったと思います?君のほうが高級取りなんだから、1人で生きていけるだろ!って、あのバカは、私が正社員になったことを僻んでいたなんて・・・信じられます?」
「酷いなそれは。旦那さんは慰謝料払ってくれなかったのか?」
「月々の養育費だけで限界みたいで、それにあのバカったら、娘の学費に回す予定だった貯金を女に使いこんだみたいで、夫名義の貯金がスッカラカンで・・・。」
「わかった、泣くな。そこは、給与の前借りでもなんでもさせてやるから・・・。でも、今回だけだぞ。そうだ、来週に弁護士を社に呼ぶから、対策を練ろう。もし、あいつが付きまとうようなら、事前にどう行動すべきか、考えて置かなければ・・・。」
「はい。よろしくお願いします。もう社長しか頼れる人はいないんです。」
彼女は急にその豊満な身体で抱きついてくる。あっ避けそこなった。マイヤーの視線が痛いぞ。俺は、無理矢理その40代とは思えない身体を引き剥がし彼女に囁く。
「わーかったから、縋りつくな。それこそ、マイヤーの視線が酷いことになっているぞ。過激だからなキレると・・・。」
「何か言いました?さっきは、すみませんでした。先程の男性に思わずキレそうになってしまって・・・。」
タイミングいいんだか、悪いんだか。彼女は震えながら、引きつった笑いを浮かべている。
・・・・・・・
俺は襲われた件と共に彼女の件をゴン氏に伝え、企業向けの弁護士を紹介してくれるように頼んだ。何か、お願いしてばかりだ、しかし黙っていて、プロジェクトが取り返しの付かない状況に置かれてしまうほうが問題だろう。
「良く教えてくれた。大変だったな、わかった早速知り合いの弁護士に手配しておくよ。」
よかった。状況判断は間違っていなかったらしい。
「申し訳ありません。よろしくお願いします。」
「身体は大丈夫か?いや、愚問だったな。自力で治せるんだったな。そうすると、警察に被害届も出せないか。よく、判った。とにかく、企業防衛専門の弁護士を手配するから、安心して、待っていたまえ。」
・・・・・・・
「なにをしているんだ?」
その夜、寝る段になって、マイヤーが俺の右手に頬をスリスリしていた。
「だって私のために、こんな跡を残してくれるなんて愛しくて。」
そうか、そんな解釈をしてくれるんだな。俺が自分の都合で、跡をワザと残して、彼女を制御しようとしているだけなのに・・・。
・・・・・・・
「待て、セイヤ待ってと言っているだろ!話を聞けよ!」
「これが待っていられるか!マイヤーお前がすることは、護ることであってキズつけることではなかったはずだ!それを、トムにそんな跡を残すとは、何をやっていたのだ!」
翌日、異世界に召喚されたときに、俺の右手の火傷跡を見たセイヤが、怒り心頭、火がボウボウ状態に成ったのである。セイヤは普段が温厚だから怒らせるとやはり怖いな。
「だから話を聞けって!コレはワザと俺が残したんだ。マイヤーには悪いがコレを見せれば、これから暴走を止めることができるんだ。」
まあ、実際に止められたようだから。これ以上、マイヤーに人殺しをさせずに済む。少しの自己嫌悪さえ我慢して、乗り越えれさえすればいいんだから。
「・・・・・・、余計わるいわ。マイヤー、お前がその暴走癖を自力でなんとかできれば、トムが・・・、トムのその・・・肌に跡なんか残さなくて済むのに!」
「セイヤさんって、怒っていると、急に敬称がなくなるよな。」
「な・なんだ突然に・・・。・・・ん、そうだな、失礼。」
「もう、そのままでいいよ。俺の大切な肉親なんだからさ、できれば、俺も呼び捨てでいいかな?もちろん、人前では陛下って呼ぶけどね。セイヤ。」
「ああ、うん。もちろん、いいさ。トム、・・・・・わかった、もう何も言わない。マイヤーも、なんとか自力で頑張るんだぞ。これ以上トムの身体にキズが残るようにエスカレートしていったら、絶対許さないからのう。」
うーん何故か、急に機嫌が持ち直したようだ。不思議だ。ま、いいか。
・・・・・・・
「あ、パパ、お帰りなさい。」
「ああ、ただいま。」
「マイヤーも、お帰りなさい。」
「うん。アキエちゃん、ただいま。」
「今回は、誰もつれて来なかったんだな。」
「うん、そのことなんだけど、次は連れてこようと思うんだ。日本では、結構、偉い人なんだけど商人なんだよね。この感覚って判らないよね。」
ゴン氏にマイヤーの故郷に連れて行けと催促されているんだけど、流石に・・・。どうしたものだろうか・・・。見聞きしたものを言いふらしたりするような人では無いと思うんだけど、全て晒しても大丈夫だろうか。でも、これ以上、あの人に嘘や隠し事はできないしな。
「ああ、わからないでもないのう。その商人の機嫌により、餓死者が出るくらいの権力者はいるからの。多くの人々を雇っていたり、流通を握っていたり、けっこう、この国でも居るぞ。あんまり酷いと、俺が国家権力を振り翳すからできないだけで・・・。」
「ん、そんな感じかな。日本では、問題が起こってもそれを罰する法律が無いとどうしようもないからさ。連れてきても、大丈夫かな。それなりの地位の人の扱いでいいんだけど・・・。」
まあ最悪、あの人との繋がりが無くなったからと言っても、力が借りれなくなるだけで、今まで通りやっていけば、いいだけなんだけど・・・。
「わかった。国賓扱いで歓待をしよう。視察箇所は、うなぎ工場とトムの店くらいでいいかな?」
「あとは、どういう国かわかるように国土を少し見てもらうくらいだと思う。もちろん、この世界を見せて、直ぐに帰りたいと言い出すかもしれない。その場合はすぐに送還してやってくれるとありがたいんだが・・・。面倒ばかりですまない。」
「トム、そんなに悲観的になるな。その人は、トムのことを気に入ってくれたんだろう。」
「切っ掛けは、マイヤーがケガを治したことだが、本人はそう言ってくれている。」
「なら、悪いことにはならないさ。きっとな。」
「本決まりになったら、スカイぺで連絡するよ!」
・・・・・・・
少し前までの俺は、信じられる人は居なかった。しかし、人を信じたいとは思っていた。それが信じては裏切られることを続けていると、いつのまにか臆病になり、今回の貴金属買取ショップの彼女でも裏切られたと思っただろう。
それが、いつの間にか自分の周りに信じられる人々が居るようになったことで心が強くなり、今回のことでも、うまく事が運べたように思う。だから、余計に自分の周りの人々に嘘や誤魔化しを続けることが重荷になっている。
今回は失敗するかもしれない。ゴン氏という大切な人を失うかもしれない。でも何事も失敗しないと経験にもならない。自分では100%信じていいと思っているのだから。これ以上悲観的になっても仕方がないのだ。
なんとか自分を奮い立たせた俺は、うなぎ工場へ向かった。