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第6章-第53話 ふうふ

お読み頂きましてありがとうございます。

「お孫さんですね。」


 こういう時は、孫を褒めるにかぎる。


 案の定、好々爺と化した槌屋さんが上機嫌になった。


・・・・・・・


「ああ、いいところに・・・。」


 エルフの里にうなぎの仕入れに行ったところ、マイヤーの兄にいきなり引っ張って行かれたのだ。


「ここの崖なんだ。先日の雨で崩れそうでね。まるっと、切り取って別の場所に移動してくれないか?もちろん、お礼はするよ!」


 いきなり、一仕事だ。まあ、うなぎが貰えるのなら頑張るか。


「じゃあ、お礼はうなぎ500KGを1年分でいいか、7日に1回だから60回くらいか。」


「いいえ、1000KGよ。もちろんチバラギ国に届けてね。まあ、どうせ、弟が運んでくるんでしょうけど・・・。」


「ああ7日に1回ならちょうど、あいつがチバラギへ物資を運んでいるからな。まあいいか。1000KGでも2000KGでも、元々肥料にしようと思っていたものだ。必要な量を行ってくれれば用意するよ。」


「ありがとうございます。」


「いやいや、君が今してくれた仕事に比べれば、安いものだ。これでも、つりあわないから何かあったら言ってくれ。」


 俺はみりんやしょうゆ、砂糖など、槌屋さんに頼まれたうなぎのタレの材料となるものや炭、そして一番大事なお米を追加でお願いした。


 日本では最高級伊賀産のコシヒカリを使用する予定だ。商社時代に培ったコネのうち一つだ。最近は魚沼産コシヒカリを業者に納入させたら、どんな米を掴まされるか、わかったものではない。


 魚沼産の生産量は全国の1%すぎないのだ。ほとんどが個人契約され、本物など市場には回ってこない。その点、伊賀産なら本物でかつ新米が手に入る。実は流通されている新米にも古米がまぜてあったりするのだ。


 日本で店舗を増やすまでの間は、この世界でうな丼を消費するつもりだ。そのためには、美味しいご飯が必要だ。最悪、日本の精米したコシヒカリを持ち込むつもりだが、こちらのお米が使えるに越したことはない。


 本当は、日本からコシヒカリの種籾を持ち込みたいところなのだが、生態系への影響を考えると・・・。


・・・・・・・


 チバラギに戻り、午後から農業用水路の工事を夕方まで掛けて、上流の川から溜め池までと溜め池を迂回して、農地、そして、排水路と一気に掘り進めた。細かいところは、現場の担当者にお任せしてきた。


「半年の工期が細かい作業を入れても約1ヶ月だ。全く7日に1日分しか使えないとは惜しいな。」


 ヤバイ。セイヤにとって作業ロボットのように見えているのかもしれない。


・・・・・・・


 エルフの里から持ち帰ったお米でご飯を炊いて貰い、うな丼を作ってもらったところ、なかなか旨いようだ。


「これは、なんていうお米だ。お米としての自己主張がまったく無い。ただひたすら、うなぎを引き立たせる。こんな、お米は初めてみたぜ。」


「これは、いいお米なんですか?」


「おうよ。うなぎを載せるにはベストだ。但し、単独でたべると自己主張が無い分、不味く感じられるかもな・・・。うな丼ならいいが。うなぎ定食となると使えねぇな。もしかすると、うな丼でも好き嫌いがあるかもしれねぇ。」


「使い辛いですね。槌屋さんなら、どっちを選びますか。」


「そりゃ、こっちだな。なんと言っても喰いたいのは、うなぎだからな。」


 1日限定10食で出してみるとかがいいかもしれないな。


・・・・・・・


 翌日、午後にうなぎ工場の現場に顔をだした。


「おう社長、この女の下で、働きたくねえ。俺をこの女の上司にしてくれ、で無いともう一切、手を貸さないぞ!」


「私も嫌だよ。この男の下で働くなら、近衛師団の食堂のほうがマシだよ。」


 元夫婦ということで、仲良くできているのかと思っていたら、これだ。何があったかは知らないが、嫌になって別れたんだろうから、もう元の鞘には戻らんわな。後ろでウロウロするツトムには悪いが・・・。


「ではもう、このうなぎは焼きたくないということでしょうか?」


「そ、それは・・・。」


「もともと、どちらが上でもないんですが、槌屋さんは、社外アドバイザーですし、モモエさんは工場長兼総料理長なんです。いったい、なにが問題だったんですか?」


「この女、こっちの言うことを聞きやがらねえんだ。」


「槌屋さん?」


「なんだよ。」


「彼女は、もう貴方の奥さんでも一家の主婦でも家政婦でもないのですよ。貴方も認めたでしょう。一人前の料理人だと・・・。モモエさんをまず、一料理人として、相手してください。お願いします。」


 モモエさんを背後に、俺は最敬礼で頭を下げた。


「社長、やめてくだせえ。わかった、判りましたって・・・。すんません。このとおりだ。もう俺から、うなぎを取り上げないでくだせえ。そうだな、モモエ、いや、ヤマイさんのことを一人前の料理人として、扱って無かった。自分で認めたって言うのによ・・・。社長の言うとおりだ。ヤマイさん、申し訳なかった。」


 槌屋さんはそれでも、それが精一杯なのだろう。頭を軽く下げただけだった。


 俺は、モモエさんに向き直り、改めて頭を下げる。


「モモエさん、槌屋さんもこういっている。もう一度、やり直してもらえないか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 いつまでたっても、期待する回答どころか、なにも返事がない。上目使いにモモエさんのほうを向いてみると・・・・呆然として、槌屋さんのほうを指さしている。


「モモエさん、モモエさん?どうされたんですか?」


「・・・・・・っ・・・て、驚いたのなんのって、初めて見たよ。この男、いや、槌屋さんの頭を下げたところ、・・・浮気をしようが、店の金を使い込もうが、博打にハマろうが、一切、謝られたことがなかったってのに、・・・・そんなに、うなぎが焼けないってのが堪えるんだね。はいはい解かりましたよ。但し、今回だけだからね。」


 ふー、なんとか、落ち着いたようだ。しかし、釘だけは刺す。


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