第6章-第52話 りょうりにん
お読み頂きましてありがとうございます。
「まさか、他人の焼いたうなぎを乗せることになるとは・・・。」
結局、うなぎ料理店はゴン氏に何件か紹介してもらい。名前だけを貸してくれることを了承してくれる店だけを集めて試食会を開いた。仮にも今まで自分が築き上げてきた店の名前をつかうのだから、下手なものは使わせないぞ。という、気合と諦めが入り混じった雰囲気になっていた。
「うん、うん、う・・・なに!嘘だろ。」
「どうかされました?」
「こ、このうなぎは何処のだ?いや、これは天然ものだろ。俺が使いたくても使えない。天然ものが、なんだってこんなところに・・・。」
流石にプロだ。一発で見破られた。他の料理人も口々に言っている。
「いいな。このうなぎで焼いてみてえ。岐阜と長野の一部の料理店にしかねえ。と思っていたがよ・・・。なあ、このうなぎがほしいんだが、焼かせてくれよ。焼かせてくれたら、店なんかよ、店ごとくれてやるよ!」
そんなに切実なんだ。思わずゾクゾクしてきた。これは商機だ。うまくすれば、店の命とも言える付けダレさえも手に入るだろう。でも、そんなことをしてもいいのだろうか。
結局、店ごとくれるという店主を説得して、焼きかたの指導を含めて、付けダレごと買収することに成功した。のれん代の見積りは洋一さん達投資部門に任せた。
「俺は一生、このうなぎを焼いてやるから、この国に連れて行け!店の代金も、その国の通貨でくれや!」
これは、一種の賭けだが勝率は高いだろう。日本に帰せと言われる可能性も、異世界の話をバラされる可能性もある。負けたら、こっぴどい、しっぺ返しをくらいそうだ。しかし、この料理人の願いも叶えてあげたい。いや、その気持ちのほうが強い。それほど、料理人の情熱に打たれたのだ。
「槌屋さん、しっかり、掴まっていてくれよ。」
「あいよ!」
・・・・・・・
「ほう、ここがマイヤーさんの故郷か・・・。いまいち、どうやってたどり着いたのか、わからんがまあいい。それよりも、うなぎだ、うなぎ!」
セイヤは目が点になっているようだ。まあ、そうだろうな。
「すみません。陛下、この方がモモエさんのうなぎをさらに美味しくしてくれる料理人です。」
「マイヤー。念のために神からの祝福を受けてもらってくれるかな。たぶん、『料理人』と出ると思うが・・・。」
「はい!わかりました!」
暫く待っているとマイヤーと槌屋さんが戻ってきた。若干、マイヤーが興奮気味だ。なにかあったのだろうか。
「どうだった?」
「信じられないことに『うなぎ料理人』と出ましたわ。ユニーク職業持ちってあったのですね。」
神も認めたうなぎ料理人か・・・アルメリア神も驚いただろうな。マイヤーが興奮気味なのもわかる。
「マイヤー?」
「はい。なんでしょう。すみません、少し興奮してしまって。」
「マイヤーって、アルメリア神と直接交信できるのだよね。」
「はい、そうですね。それがなにか?」
「食べ物もアルメリア神に送れる?」
「はい、教会の祭壇を使えばできますけど。」
「では、槌屋さんが焼いたうなぎを送ってあげれるかな?」
「はい。わかりました。」
「では、すみませんが。槌屋さん、今日焼いたものでベストなものを後で下さい。この世界の神に献上したいので・・・。」
「おうよ。まかしとけ。ぜってー、過去最高のうなぎを焼いてやっからよ。」
・・・・・・・
驚いたことにモモエさんはツトムを手下兼通訳として、扱き使っていた。ツトムは、例の件で自分の戦士としての限界を感じたそうだ。早いな、あきらめるの。それで落ち込んで引きこもりっぽくなっていたのを、無理矢理、モモエさんが手伝わせていたんだということだった。
まあ、たしかに狼王国の料理人がモモエさんとしか言葉が通じないのでは、やり難いわな。
俺は槌屋さんをモモエさんに指導役として付けた。あくまで、総料理長はモモエさんで、槌屋さんはアドバイザー役だ。いきなり、TOPを挿げ替える人事はしない。
「お、おまえ・・・。」
「あなた・・・。」
「親父・・・。」
驚いたことに、槌屋さんはモモエさんの別れた旦那らしい。つまり、ツトムのお父さんらしい。
「この味、よく似てるとは思っていたが、まさかモモエお前が焼いていたとはな。」
「ええ、付けダレの調合まではやらされましたから・・・。」
「あれ、でもカバヤキの作り方は知らなかったんじゃ・・・。」
たしか、ワイバーンのカバヤキを作る際にはそんなことを言っていたような・・・。うなぎを焼くときにも・・・。
「俺が女にうなぎを焼かせるわけが、無いだろ。」
でも、モモエさんは槌屋さんの後姿を見ていたんだな。
まずは、槌屋さんがモモエさんが焼いたものを試食する。
「前のと比べて随分上達してるじゃねえか。どれくらい焼いたのか?」
「1000本くらいです。」
「おいおい、嘘だろ。たった1000本かよ・・・。俺は、これだけの才能を見過ごしていたって訳かよ。」
やばい、チートな料理人なんて説明できないしな。どうしよう・・・。まあ、いいか。
・・・・・・・
「へえ、このコスプレイヤーに教えているのかい?ああ、嫁に行った娘つまりツトムの姉がハマっててよ。孫といっしょになって、お台場に行ってるって、写真を送ってくるんだ。」
見せて貰った写真には、この年齢じゃギリギリじゃない?という、ちょっと露出気味のオ・姉さまが写っていた。
「お綺麗な・・・。」