第6章-第51話 けいえいしゃ
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雷魔法が得意なエルフに協力してもらい。さらに1週間後にうなぎを買い付けに来る約束をして、エルフの里を出て後宮に直接戻った。倦怠感は覚えなかったから、そんなにMPを消費しないようだ。1度場所を覚えたから、次いくのは簡単である。
そのままマイヤーの案内で行った先の備蓄倉庫に少しずつ、食料を取り出していく。
「おお、マイヤーでかした。本当に1万人分調達してくるとは・・・。せいぜいが5千人分が関の山だと思っていたが・・・。」
結果を報告しに行くと、そう返してきた。セイヤは発破をかけたつもりだったらしい。まったく狐と狸の化かしあいだな。どちらが、タヌキかは知らんが・・・。
俺は、エルフの里で得た構想をセイヤに伝えると賛成してくれた。
「モモエさんを取られるのは痛いが、少しでも彼らに働ける場を与えられるならば、そのほうが良いではないか。さっそく、石材を切り出して、作業場所作りから行え、今日は忙しいぞ。モモエさんにも参加するように伝えておく。それに、この腐敗しない袋が役に立つではないか?」
そうなのだ。大家さんが腐敗しない袋をありったけ、集めて王宮に届けていたそうだ。その数100。とても、使いきれないと思っていたが、活躍の場があるというものだ。
狼王国の住人は、獣人連合でも珍しい完全に人間に擬態できる種族なので、人間と同じ作業をやらせるのは問題ないらしい。これが、犬王国の住人の場合、王族だけがそれも短時間にかぎり擬態可能なのだそうだ。
モモエさんを総料理長として、狼王国の『料理人』持ちを集めて、うなぎの蒲焼工場をつくる。そして、日本でうなぎ料理店を始める。異世界からうなぎの蒲焼の出来立てを持ち込み、ごはんの上に乗せて提供するだけだ。これなら、バイトでも提供できるぞ。
あとは、日本での店舗数にあわせて、エルフの里からの仕入れを調節して、工場の規模を拡大していく。狼王国の『料理人』が熟練してくれば、裁くなどの作業を狼王国の一般人を対象にして雇用を増やしていけばいい。
それにモモエさんから聞いた話しでは、ワイバーンの蒲焼も評判は上々だったそうなので、教会のスキスキで売ってもいいかもしれない。
問題は、日本との物価の違いをどう吸収するかだ。
ミスリルやオリハルコンや教会での食べ物販売などで、こちらの世界のお金は随分稼げるようになった。金やプラチナのネックレスだけでは換金しきれない。たとえ、換金率が悪くても日本で売れそうな商品を製造、直売する必要があるのだ。
当分、うな丼単体では赤字を覚悟しなければならないだろう。1匹でうな丼3杯計算で、うな丼1杯1000円だから、1匹あたり8Gくらいの仕入れにしないと、割りに合わないのだ。
まあ、実際に店舗で販売できるかどうかはモモエさんの指導に掛かっている。
・・・・・・・
早速、モモエさんに作ってもらった。うなぎの蒲焼を後宮の食卓へ提供したのだが、評判はよくなかった。さすがに2日連続の蒲焼はカバヤキが大好きなアキエにも、御気に召さなかったようだ。
まあ、その中、セイヤとマイヤーは、美味い美味いとうな丼を2杯も平らげていた。
・・・・・・・
モモエさんに作ってもらった試食用のうなぎの蒲焼を腐敗しない袋に詰め込み、異世界から戻ってきた。
うな丼を食わせすぎたのか、その日の夜のマイヤーはいつにも増して情熱的だった。
・・・・・・・
翌日、相馬くんを呼び出す。さっそく新規プロジェクトチームを結成させた。相馬くんはもちろん、正社員に昇格させた。店舗は牛丼のスキスキの本部からの居抜き店舗の購入の依頼のなかから、適当な店舗を選び、業態変更をするつもりだ。
今回は特に、当社独自のオリジナルブランド第1号となるのだから、特にスキスキへのこだわりはないが、せっかく優良な物件が人材不足のため、閉店を余儀なくされているのだから、これを使わない手はない。本部としては、どんな形でも開店しなければ不良資産なのだから、牛丼のスキスキのブランドを使用しないと言っても、ぜんぜん問題なかった。
まあ、代わりに他に1店舗牛丼のスキスキブランドのままで、購入させられた。そこは、予算上問題ない。まだ、相馬くんの知り合いの剣道部が入れるアパートも売られていたので、単なる店舗増加と変わりなく、問題なかった。
うなぎ料理店は深夜営業しないタイプなのだが、知り合いの元警察官の安田さんに2階の住居部分に入ってもらった。例の件のお礼のため、酒を奢ったときに、今、官舎を追い出される警察官の話がでたので、次があればと言われていたのだ。
業態変更は同じ丼物店なため、看板の架け替えだけで済ませるつもりだ。店名は簡単に『うな丼のだぁいすき』と、アキエの言葉を参考に決めた。
・・・・・・・
順調いくと思ったら、とんでもないところから、横槍が入った。
「こ、これは、もしかして、天然ものではないか。」
偶々、ゴン氏が俺の会社を見たいと言うので自社ビルを案内した時だった。うなぎ料理店で出すうなぎの大きさについての最終検討ということで3階の一角でうな丼の試食を行っていたところ、ゴン氏がうなぎがお好きとお聞きして、試食会に参加された時のことだった。
隣には、当然、洋一さんが付いて案内役を務めていた。何度か試食をしたが投資部門の洋一さんには食べて貰っていなかった。先のゴン氏の発言を受けて、洋一さんが試食をする。
「なんですと・・・こ・・この噛み応えといい、小ぶりながらも肉厚がある。そして、なんとも奥深い味わいがある。社長、これは・・・・。」
「ああ、あまり大きな声では言えないんだが・・・マイヤーの故郷で取れたものなんだが、日本とは国交がないどころか、世界連盟にも加盟していない国なのだ。それで産地表示はしない方向でいくつもりだったんだが・・・。」
「それは、いかん!」
ゴン氏が大声を張り上げる。
「やっぱり、ダメですか?産地偽装にはならないと踏んでいたのですが・・・。」
「いや、そういうわけではない。こんな良い商品を廉価販売しては、いかんと言ったのだ。」
「どうしてですか?」
「これならば、1人前3000円は取れる。いや、天然ものなら4000円出しても惜しくないぞ。」
「さすがに4000円は出せないでしょう。いくら今うな丼が品薄でも、それはないでしょう。」
「ちがうぞ、対象とする顧客が違うのだ。今のセレブ層は、舌が肥えていないが、その昔のバブル層の人間なら、絶対飛びつくはずだ。」
「バブル層というと、50代以上ですか?」
「そうだな。こんな貴重なものなら、なぜ高値で売ろうとしない。もったいない。これなら、わしなら毎週でも喰いたいぞ。」
「そういいますが、そこまで高値だと、ネームバリューも必要でしょう。そういうところが調理してあるものを丼にのせて出してくれるとは、思えない。」
「ところがだ。これがあるんだ。名前だけ貸してくれる店が、今うなぎ料理業界は、仕入れに金が掛かりすぎて、廃業の憂き目にあっているのだ。わしにも、そんな、うなぎ料理店の再建話がどんどん来ておる。」
「でも、そういうところのものはすべて国産と名を売っていますよね。国産じゃないものを出したら、クレームになりませんか?」
「うーん、そうだな。・・・そうだ、会員制にすれば、いいのだ。初めはわしらのように本当の価値を見出してくれる。ごく一部のグルメファンのみ、一見さんおことわりでいこう。な、それならクレームが付くことはあるまい。初めは、わしが自ら宣伝してやろう。」
「・・・なぜ、そこまで、して頂けるのですか?足の件でしたら、十分に返して頂きましたのに・・・。」
「いや、返してなどいないぞ。あれはあれでこちらにも十分な見返りがあったのだ。それに、まだマイヤーさんに返していないではないか。どうせ、飲食業界の常識から言えば1匹あたり500円くらいなのであろう・・・マイヤーさんの故郷に渡るのは・・・。」
「ええ、800円くらいは、と思っていましたが・・・。」
「それでも、800円だ。せめて倍にはしてやりたいではないか。」
そうか、これはゴン氏なりのマイヤーへのお返しなのだ。
「はい!ありがとうございます!」
「お主も多聞に物事を良く見ておる。わしはな多くの実業家を育てていたが、お主も育てたいのだ。いや、いっしょに事業をやりたいのだ。」
「はい。」
「ノウハウは時代遅れだが、物の見方はいつの時代もいっしょだ。ずっと、それを伝えたい人間を探しておったのじゃ。」
「はい。」
「一度は足の件もあり、諦めておったのじゃが。よい機会じゃ。すべてを叩き込んでやろうぞ!」
「はい。よろしくお願い致します。」
「よい覚悟だ。」




