第3章-第25話 まきこまれたのはどちら
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「あれっ。結局、救出してきたのか。」
社長室に戻るとすぐに渚佑子が首相を連れて現れた。しかも、そ~っとトモヒロくんまで入ってくる。
「良い機会だから引退しようと思って、とりあえず宮内庁病院へは影武者を配置してきた。匿ってくれないか。」
渚佑子が非常に困った顔をしていた。脅しても連れて帰ってきたくなかったのだろうが、脅しが効かなかったということだろう。渚佑子をアゴで使うとはいい度胸だ。トモヒロくん利用されたな。
「引退ってお前。俺と同い年のくせに政治家を引退してどうする。」
父親が領袖だった派閥を引き継いで40代で首相になり3期目のはずだ。政治家としては若すぎるくらいである。
「いいじゃないか。トムも引退したんだし。」
だしって、何か拗ねてらっしゃるのか?
殺されかけて政治家業が嫌になったのは解らないでもない。この平和な日本で政治家だけが暗殺の可能性がある。割りに合わないことこの上ない職業だ。
「俺は初めから1期のつもりだ。政治家を志したお前とは違いすぎる。」
初めからそれは告げてあったし有言実行しただけのことだ。
「レールの上をひたすら走ってきただけさ。そのレールも途切れたんだ。もう好きに生きても良いころだろう。なあ父親のコネは使えるんだろう。アルバイトでも良いから雇ってくれないか。トムの下で働きたいんだ。」
どの従業員のコネは使える。出来る限り採用しているのが実情だ。
「安田警備部長のコネは有効だが、お前。まさか・・・まだ諦めていないのか?」
首班指名された際に、どうしても俺の下で働きたいと懇願されたのだ。もちろん俺は拒絶したが、どんな形でも良いらしい。
「へへっ。」
いや真っ赤な顔をして横を向かれても困るんだが。
「トモヒロくんと合弁で設立した会社の社長はどうだ?」
俺がそう言うと脇で聞いていたトモヒロくんが真っ青になる。想定していなかったらしい。
「な・・・なんで巻き込まれるの・・・アタシ。」
何故か男の娘モードのようだ。俺の前ではトランスジェンダーアイドルとして活躍しているとき以外は滅多に見せないのだが、余程ショックだったらしい。こっちが地になっているのだろう。
流石にアルバイトで採用するわけにいかないし、山田ホールディングスの幹部にすることも出来ない。51%の株式をトモヒロくんが持っているが山田ホールディングスの子会社でもあるから要望に応えたと言えるだろう。
「何を言われたのか知らないが、トモヒロくんが渚佑子を説得したのだろう?」
散々首相を利用していたことは知っている。いつかは逆襲されるだろうと思っていたが俺も巻き込まれるとは思っていなかった。責はトモヒロくんにある。男の娘として男性の好意に付け込むやりかたが捨て身の攻撃には無効だったという男女間に良くある形に現れたのだろう。
「なんでバレているの?」
このメンツでバレないと思っているほうがどうかしている。俺も大概甘いことは自覚しているが渚佑子はトモヒロくんに甘いのだ。
「責任を取れとは言わないが、今まで通り遣い走りとして使えば良いだろう?」
「えっ・えっ・どこまでっ。」
今度はトモヒロくんが真っ赤になる。恋愛関係があったとは思わないが恋心を弄んだ自覚はあったらしい。それとも他に後ろ暗いことがあったのかもしれない。
「いや何も知らないし知りたくもないな。およそは想像つくが。勉強代の一種だろう。しかし、渚佑子。今回の1件およそ君の想定通りだな。」
皇居を占拠した一派は天皇を引退させることを承諾させ、幼い皇太子を即位させると通告した。しかも国会には日本国憲法の破棄法案および象徴天皇制から天皇君主制に移行した新日本国憲法が提出されている。国会議員へ銃を突き付けて強制的に法案を通過させるらしい。
「下書きされた『新日本国憲法』を探し出したときには、まさか。と思いましたが、それらの書類が各グループ全体に配られ署名されていたので、このようなストーリーを思い浮かべました。しかし、本当にこのまま通過するでしょうか?」
国会から逃げ出した派閥の議員たちは初めから次の天皇の下では国会議員では無かったとされたので議員定数は減った形になっている。両国会共余裕で3分の2の賛成を得られるだろう見込みだ。
「誰しも命は惜しいから国会は通過するだろうな。そもそも日本国憲法の破棄の方法は何処にも載っていない。最高の立法機関である国会で承認されれば対外的には十分だろうと思っているのだろう。諸外国では前例もあるしな。」
「このまま見過ごすつもりか?」
政治家を辞める辞めると言いながらもいろいろ許せないのか鷹山も頭を捻る。
「そうだな『日本国憲法』が破棄された後のほうが地球連邦加盟に都合が良いから、それまでは放っておく。次の天皇の方針次第で次の行動に移る。」
なにせ日本国憲法下で地球連邦へ加盟し、日本州となるにはハードルが多すぎるのだ。逆に軍事力で発足した政権の憲法など、軍事力から解放してしまえば無効にできるのだ。




