第2章-第23話 かすたま
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「あの業界はカスハラが酷いと聞くが?」
問題は顧客もドライバーもサービスセンターへの従業員に対する苦情のハラスメントが酷いらしい。電話注文も受けており、歩合制であるドライバーとしては高級レストランの仕事は嬉しいがファストフードレストランの仕事を嫌だという自分勝手な理由だ。
それでも会社としては電話注文された商品も届ける必要があり、どうしても高級レストランの仕事が少なくファストフードレストランの仕事は多いため、偏りが出てしまいサービスセンターの従業員に対するドライバーの態度が悪くなっていくのが実情なのだ。
「そうね。タクシードライバーに比べれば、宅配ドライバーは可愛いものらしいわよ。それこそ昔はチンピラのような言葉遣いのタクシードライバーが多かったから大変だったらしいわ。本当に対応仕切れないドライバーも居るらしいけど、それはどの業界でも同じく懲罰で対応するのよ。」
タクシードライバーなら会社をクビになっても他の地域に行けばなんとかなるらしいが、寡占化が進んだレストラン宅配業界のドライバーは無理に違いない。
「買収したタクシー会社はどうなったんだ?」
タクシー業界も自動運転の波が来て、タクシードライバーを解雇して無人タクシーが大幅に増加、それに伴い想定外の交通事故が多発したのだ。
例えば地震雷火事、頭のオカシイ親父などイレギュラーな事態に対応できないし、無人タクシーというものに慣れていないお年寄りが平気で車の前を横切ろうとしたり、中央分離帯を超えてきた歩行者をひき殺してしまったりなどの想定外の事態が多発したのだ。
しかもAIという電子制御も熱に弱いため、ハイブリッド車のエンジンからの熱や夏場の暑い時期に誤動作する。もちろんセンサー機器も故障するし、降雪地帯の低温環境下ではそのセンサーに反応しないステルス化する事象まで発生している。
しかも日本独特の法解釈でタクシー事業者が事故原因が車にあることを証明しなければならないため、損害金は保険会社持ちとなり、その保険会社もタクシー事業者が経営していたため、解散寸前の会社が多く非常にヤバい状態だったのだ。
ちなみに俺の会社の従業員には有人タクシーしか使わせなかった。即命に関わる割には車と地図や交通情報だけで制御されており、原子力発電所や航空機のように幾重にもセーフティーが掛かったシステムになって居なかったからだ。
結局、路線バスや運転手席に人を座らせて緊急時に対応できる極一部の富裕層の乗り物になり果てており、国土交通省からヴァーチャルリアリティ時空間の常駐員から運転機器に介入することで、自動運転機能故障やイレギュラー発生時のセーフティーシステムを作り上げられないかと実証実験の依頼が入っている。
俺としては人命が関わるため余り気が進まないのだが、同様の依頼がアメリカやドイツからも入っているので世界共通のセーフティーシステムにしたいところだ。
「ノウハウが欲しかっただけだから介護業界などの不採算部門を切り捨て、本業の有人タクシーだけやらせでいるわ。それでも十分儲かるのよ。事務方に人命が関わる仕事をさせてはダメよ。そもそも考え方が違うもの。」
タクシー需要低迷期には介護業界と連携して、病院などの施設への送迎ばかりか緊急時に駆け付けるサービスまで提供していたらしい。だがタクシーのサービスセンターの担当者に119番を受けた救急隊と同レベルの仕事をさせようというのが間違いなのだ。
しかも普段は法律に縛られたタクシー業務に無理難題をふっかけてくる顧客相手に杓子定規に対応するすべしか無い従業員だ。常に人命に関わる問題に対応している救急隊の仕事とは全く別と言っても過言じゃないのだ。
「なるほど、レストラン宅配サービスのセンター長まで上り詰めれば、大した仕事は無さそうだな。」
しかし、渋沢グループにはサービスセンターの事業ノウハウがたくさん蓄積されていそうだな。ヴァーチャルリアリティ時空間にその事業ノウハウを持ち込めば、数倍の業務効率化は果たせそうだ。センター長に上り詰めれた大葉くんを旗振り役に渋沢グループと合弁会社を設立するか。
「そうそう、ヴァーチャルリアリティ空間からの注文も増えているみたいなんだけど。到着しても受け取らない客が最近多いらしいのよ。どうにかならないかしら。」
それぞれの機器の進化に連携が追いついていないのが現状だ。インターフォンを鳴らせばスマートフォンに表示される。到着したとスマートフォンにSNSで届く。同様にヴァーチャルリアリティ内のヴァーチャルスマートフォンでも同様に受け取れるのだが、ヴァーチャルリアリティの何かに夢中で気付かなければ終わりだ。
もちろん、スマートフォンアプリには通知情報をヴァーチャルリアリティ内のシステムに通知できる機能もあるのだがインストールされていなければ終わりだし、個別に通知が転送するように設定しなければ終わりなのである。
「システム連携のインタフェースをヴァーチャルリアリティ社に用意している。但し、Ziphoneネットワークに繋がっているデータセンターからしか接続できない。」
従ってレストラン宅配ドライバーが到着したという情報をレストラン宅配システムからヴァーチャルリアリティ社のシステム連携インタフェースへ送る必要があるのだ。
簡易的にEメールで通知できるようにしてほしいという要望も上がっているが世の中で一番セキュリティーが低く誰にでも見られる可能性があるため、一切受け付けていない。ヴァーチャルリアリティシステム内で使われているメールもインタフェースこそEメールに偽装しているが銀河連邦の戦艦間通信システムのコアを利用して強固なセキュリティーを構築しているのだ。
「経営者のくせに詳しく知っているのね。」
「まあな。システム連携する際にはトラフィックが重要なんだ。最終的にヴァーチャルリアリティ空間でテストする際には実体験者として立ち会うことにしている。」