第6章-第50話 さと
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「すまないが、マイヤーといっしょにエルフの里まで行ってもらえないか?」
翌朝、セイヤにお使いを頼まれた。
「では、トムを両親に紹介してもいいの?」
セイヤが深刻そうな顔をしていることに気付かず、マイヤーは暢気なことを言い出す。
「なんだそれは!いいわけないだろう!チバラギ国として、まだ正式にトム殿を王族と認めていないんだぞ。それなのに、マイヤーの相手をさせていると伝わったら、エルフの里を侮辱していることにならんか?ちがうか?」
よほど頭にきたのか、セイヤは畳み掛けるように言う。
「そ、そうでした。申し訳ありません。では、今回はどういうご用件で・・・。」
「例の狼王国の住人の件だ。おそらくエルフの里の長老は、国交の親密さからみて、向こう側の国アルメリア国の味方、もしくは静観の構えだろう。本来エルフの里は、こういったことへのブレーキ役を担ってきたはず・・・。ちがうか?」
「そうですね。おそらくアルメリア国に食い込んでいるといっても所詮は少数派ですから、パリス姉さまは押し切られてしまったのでしょうね。」
「おそらく、獣人連合の中でも比較的好戦国の住人は自国での戦いに拘るであろうが狼王国や犬王国の住人などの非好戦国の住人は、どんどん、こちらに流れてくるに違いない。とてもじゃないが、チバラギ国の備蓄だけでは、賄いきれん!」
「おそらく、エルフの里でも、かなりの数の住人が流れてきているでしょう。」
「本来は、エルフの里がなんとかすべき問題だと思うのだが・・・。」
「そうですね。すべての森の民を擁護する立場的にはそうなりますね。」
「だから、エルフの里から物資を調達してこい!今なら、トム殿も居るから、物資の輸送の問題も解決できる。先を見越して調達しろ!わかったな!」
「わかりました!とりあえず、1万人が1年間飢えない程度の物資を目途に調達します。」
「よろしく、頼んだぞ!トム殿もすまんが頼む。」
・・・・・・・
空間魔法の『移動』による冒険者ギルド間の移動の場合でも、入国手続きと出国手続きが必要らしい。別の国に着く度に、その手続きに30分から1時間程度の時間が掛かるのが煩わしい。
もちろん、その間何もしなかったわけではなく。しっかりと、トケイの普及のためにギルドの受付に100Gショップの目覚ましトケイ、転送位置の近くにも置きトケイを設置して、トケイの有用性を説明した。
なにせ転送位置では、同時に『転送』『移動』を利用すると片方がMPだけ失い失敗することもあるため、チバラギ国では10分単位でスケジュールを組み、失敗をほぼゼロにしているのである。ちなみに光魔法に属するのが『転送』、闇魔法に属するのが『移動』である。
帰り道は絶対に1度で帰ってやるという思いを秘めて待つこと3カ国の冒険者ギルドを経由して、午後2時過ぎにやっとエルフの里に到着した。
・・・・・・・
「出せるとしても5千人分が限界だ。それで、なんとか了承してもらえ!」
「そんな私の立場は、どうなるのよ。パリス姉の失敗をどうして私が抗わなくてはいけないのよ!」
「そうだな!パリスに請求書を回すとして、あともう2000人分くらいなら、増やせるかもしれないな!」
「いえ、合計1万人分よ。」
「いや、ぎりぎり7500人分が限界だな。それに、お前はまだ、自分の仕事をしてないではないか。いったい何時になったら王族の子が授かるのだ。いいかげん長老もイライラしておるぞ。」
「そ、それは・・・。」
マイヤーは、ちらりとこっちに視線をくれる。俺も頑張っているけど、こればっかりは・・・。と視線で訴えとく。
「それに、その男はなんだ。」
「えっと、その・・・。この人は、私の秘密の恋人なの。」
おいおい、それでいいのか?
「おいおい、王を騙して大丈夫か?」
「大丈夫よ。今上陛下のお気に入りですもの。この人ったら、今上陛下より、空間魔法の腕は、上なのよ。なにせ、無限の種類、無限の数量、無限の重量を扱えるのですもの・・・。」
「そりゃあ、凄い。」
「私にこの人の子供が出来たらどうなると思う?」
「最強だな。そりゃ是非エルフの里には必要な人材だ。よし、おまえさんのいうとおり1万人分の備蓄を放出しよう。是非とも今上陛下には恩を売っておかなくてはな。3人くらい生めば1人くらいは・・・。」
「そこは、交渉次第だと思うわよ。せいぜい友好国として取り扱ってね。」
「わかった。君、せいぜい頑張ってくれたまえ。はっはっは。」
・・・・・・・
「まあ、いいじゃない?別に嘘をついたわけでもないのだし、これくらい商売人だったら、当たり前でしょう?」
まあ、そうだけど。口八丁、手八丁がいかに使えるか。とても大事なことだが・・・。こんな政治がらみの席では、俺にはできないな。そんな度胸は無いぞ、自慢にならんが・・・。
「あれが次期長老と言われている兄なの。今の長老は父なんだけど本当は父の兄が長老をするはずだったので、父は長老としての教育が中途はんぱなのよね。長老としての仕事はかなりの割合、兄が行っているというわけよ。」
「お父さんの兄ってエルフは、どうしているんだい?」
「うん、ある魔族に闇属性を植え付けられてしまったのよ。エルフなのに、見た目ダークエルフになっていてね。同じく闇属性を植えつけられた妖精族を率いて、森の奥深くで生活しているわ。まあ日本でいう、『ひきこもり』ってやつね。」
・・・・・・・
「本当だ。凄いな。」
俺は改めて亜空間を20回唱え腐敗しない空間にした上で、エルフの里の備蓄倉庫にある食料を倉庫100個分をあっさりと自分の空間に収納した。我ながら、あれだけの物量が入るなんて思わなかった。
「いずれ土木事業なんかも手伝ってほしいな。」
倉庫まで案内してくれた次期長老が言ってくる。優しく言ってくる分、こっちも扱き使う気満々だ。
「それ相応の報酬を頂けるのであれば・・・。」
「お金はないぞ。あるのは周辺で取れる森や川の恵みだ。」
「川の恵みも有りですか?」
「なにか興味あるのか?」
「あゆとか虹鱒とかあります?」
「あるぞ!」
「うなぎなんかも?」
「あんなものが欲しいのか?うなぎは食さないから、増えすぎると間引いたりするくらいだ。おお、そうだ。畑の肥料にするために、今朝取ったのがまだ生きているはずだ。500KGくらいあったと思う。持っていくか?」
「ありがとうございます。でも生き物って、この空間に入らないと聞いたのですが・・・。」
「なんだ、知らんのか?電撃を与えて、一時的に仮死状態にすれば、入れられるぞ。」
「えっ、マイヤーそうなの?」
そんな大事なこと・・・、マイヤーに教えて貰った覚えが無い。
「ええ、腐敗しない状態にして時間の進みを止めないと亜空間で仮死状態から起きた途端、通常空間へ飛ばされますが・・・。でも、こんなものどうするのですか?」
「マイヤーも食べただろ。新幹線で、うな丼を・・・。」
「えっ、これがアノうな丼になるのですか?てっきり・・・。」
「てっきり、なんだ。向こうの世界のワイバーンを食べているのだと思ったのか?」
「ええ。よく、似ていましたから・・・。」
「その通り蒲焼という料理方法は同じだ。日本のうなぎを使っているのだけどな。そうか、こちらでは食べないのだな。これは使えるかも・・・。」
なぜか、カバヤキで繋がっていく・・・。