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第2章-第15話 かんべん

お読み頂きましてありがとうございます。

「それでメイクアップはがっつり舞台化粧にしますか? それともおとなしめにしておきますか?」


 那須くんと渚佑子の視線を振り切るように化粧台の鏡の前に戻ると隣に来たトモヒロくんが少し悩み出した。


 トランスジェンダーグループのメンバーたちは自然派メイクが主流だ。ベースのファンデーションは首筋との境目が解るくらい塗っているがアイシャドーもチークもほんのり載せるくらいでつけまつげも地毛と殆ど変わらない長さだ。


 だがそれでは俺だとバレてしまう可能性がある。それに最近の映像技術の進歩により軽めのメイクだと素顔に変換するツールも簡単に手に入るのだ。


「ドラッグクィーンのようにか。確かにあそこまで行えば俺だと気付かれないか。・・・ところでドラッグクィーンメイクもトモヒロくんが施してくれるのか?」


 ドラッグクィーンはかなり特殊なメイクだ。スタッフのメイクさんなら出来そうだがこれ以上他人に知られたく無い。トモヒロくんが施せないのなら普通のメイクにしてもらおう。


「ええ。習いに行ったことがあるんです。」


「へえ。あれって習えるものなんだ。」


 女装サロンだろうか。確かドラッグクィーンは純然たるゲイで女装さんとはコミュニティーが違うと聞いたことがある。


 その敷居は曖昧になりつつあるそうだからドラッグクィーンメイクを教える女装サロンがあってもおかしくは無い。無いがトモヒロくんに似合わないなあ。


「女装さんやニューハーフも来ていましたが、普通の奥様が習いに来ていたのは驚きでしたね。」


 ドラッグクィーンが主催するメイク教室らしく。ドラッグクィーン1日体験といった催しだそうだ。ある種の女性なら興味があるのだろう。ウチの会社にも居そうだ。


「えっ。」


 さつきがドラッグクィーンメイクしたところを想像してみる。身体が高いから似合うかもしれない。本人には言えないが。


「基本的にメイクの順序やテクニックは似たようなものです。ただ境目をハッキリクッキリ大袈裟に描いてみせるだけなんです。」


 これはメイクを極めたトモヒロくんだからこそ言えるセリフだ。


「ドラッグクィーンでも声帯をイジって高い声を出したりするのか?」


「地声の方が多いですけど、最近はミックスボイスを練習される方や声帯をイジる方も居ます。その辺りはニューハーフさんと変わりは無いようです。特に海外のドラッグクィーンさんは性転換される方も居て、外見からはどこまでがニューハーフでどこまでがドラッグクィーンか見極められませんね。ですからドラッグクィーンメイクをされている方をドラッグクィーンと呼べば差し支え無いと思います。」


 まさしく多種多様なセクシャリティーが存在するというわけだ。


「あーあっ・・・これくらい高い声ならバレないかな。」


 俺は指輪を『叫』に切り替える。この指輪の機能は文字通り大声を出すと絶叫するもので助けを呼ぶときに使うそうだ。意識して小声で使うとやや高い声になる。


「それって変声機ですか?」


 やや声が割れてしまうのが難点なのだ。


「まあ声を出すことも無いだろう。なんだ那須くん何か言いたいことがあるのか?」


 何か言いたげな表情の彼に話題を振ってみる。先程からジッと見つめられていて困ったのだ。


「本物のドラッグクィーンみたい。普通のメイクもしませんか?」


 ニューハーフなら俺でもいいとか思っているんじゃ・・・。
















「今日は如何でした?」


 撮影が予定時間を超えたので帰宅出来ないスタッフにはもう1泊するように薦め、俺はなんとか帰宅時間は深夜にならず済み自宅に戻ってきた。


「ああ何とかトモヒロくんのスキャンダルにはならなくて済むようだ。」


 那須くんの瞳からトモヒロくんへ恋慕といった感情が抜け落ちたがまだ興味は残っている様子だ。それ以上はトモヒロくんが何とかするだろう。トモヒロくんのことだから、男の娘としてのからかいの対象として残しておくのかもしれないが。


「那須さんのスキャンダルはどうでもいいんですか?」


「あいつも大人なんだから、自分でどうにかするだろう。」


 少なくともトモヒロくんへの暴走は無くなるはずだ。その分、俺へ興味が移っている気がしないでもないが。今後俺が女装する場に彼が居合わせることは無いから大丈夫だろう。


「舞台の上で随分絡まれたらしいじゃないですか。新たなトランスジェンダーと噂になったりして。」


 舞台の上ではセクハラ紛いの絡み合いがあったのは辟易したが決めたことなので我慢するしかない。差別しないのはいいが区別はしてほしかった。


「随分と情報が早いな。」


 解散時には由吏姉も含めて口止めをしたのだが、もうさつきまで情報が上がってきているらしい。


「内部ネットワークは随時情報交換が基本ですから。貴方が舞台に立つと決まってから内部ネットワークのSNSで活発な意見交換が行われていますよ。」


「えっ。もしかして、全員知っているのか?」


 現代世界での協力者の内部ネットワークの規模も実体も俺は知らないことになっている。渚佑子の『知識』スキルで調べられるが知りたくないし調べたくもない。


「大丈夫です安心してください。女性専用のグループチャットでしか発言していませんから男性には知られることは無いと思います。」


 それって安心できるのか?


 俺の女装に興味がある女性が増えるのは歓迎できないぞ全く。要求の1つとして挙がってくるとか勘弁してほしいところだ。

舞台の上での様子は本人の希望により割愛させて頂きます(笑


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