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第1章-第9話 ほんのう

お読み頂きましてありがとうございます。

「志保さん! ストップ。ストーップ。」


 那須くんが湯舟の中に沈みこんでいったのだ。しかも乳白色の湯をピンクに染めている。鼻血を出しているらしい。俺は海難事故の救助のように那須くんを後ろから抱きかかえると男湯側へ引き上げる。


「呼吸も正常。水も飲んでないようです。」


 同じく男湯側についてきた志保さんが那須くんの様子を観察する。そういえば医者だったな。


「えっ・・・いや・・・。なんで社長の腕の中?」


 胸の動きや脈の動きなど志保さんが那須くんの身体に触れているうちに目を覚ましたようだ。那須くんの視界は生まれたままの姿の志保さん周辺を彷徨い、隣でケタケタ笑っているトモヒロくんに。そしてすぐ後ろにいた俺に向けられる。いい加減、退いて欲しいんだがな。


「溺れたんだ。そして俺が引き上げた。なんだ志保さんに助けて欲しかったのか?」


 救命救急処置が必要だったら専門家の彼女に任せたと思うがライフセービングは俺しか適任はいなかった。志保さんやトモヒロくんでは那須くんが暴れた場合、湯舟に引きずり込まれる恐れが高いのだ。


「はいはい、退きます。退き・・・。」


 風呂場だということを忘れたのか慌てて那須くんが立ち上がろうとして無様に転ぶ。何も俺の上で転ばなくてもいいだろうに。隣で笑い声が大きくなったトモヒロくんが視界に入る。なるほどな。


「俺にはそのケは無いぞ。さっさと退く! これ以上笑われたくなければ自室に戻り休みなさい。全く子供じゃないんだからな。」


 それでも今度はゆっくり立ち上がった那須くんは笑い続けるトモヒロくんを一瞥すると逃げるように露天風呂から出て行った。


「これで良かったんですよね。」


 冷えた身体を温め直すために湯舟につかるとトモヒロくんが真面目そうな顔になる。


「ああ2人共、嫌われ役ご苦労さん。いったい何処までが演技だったんだい?」


 どうやらトモヒロくんと志保さんが組んでシナリオを描いていたらしい。


「バレました?」


 志保さんがイイ笑顔を向けてくる。本気で楽しそうだ。


「トモヒロくんの笑いがわざとらしかったからね。まああれくらい大袈裟に笑わないと気付かなかったかもしれんが。だがあれではトモヒロくんに嫌われたと落ち込んでいるだけかもしれないぞ。当分、気を付けるんだな。」


 実際に俺が言葉にしてやっとトモヒロくんの方へ顔を向けたくらいだ。気付かなかった可能性のほうが高い。まあ気付きたくなかったのかもしれない。


「山田社長にとって私は高校生のアルバイトのままなんですね。」


 志保さんがポツリと呟いた。


「なんのことだ?」


 先程までの笑顔から一転して不機嫌そうな顔になっている。何か怒らせるようなことをしたらしい。


「あの男の視線を向けさせるためとはいえかなり大胆な姿を見せたのに。山田社長の視線がこちらに向かないどころか冷静に対応されていました。世間では男心を弄ぶのが上手いと言われているんだけど自信無くなっちゃうな。」


 世間ではどんな男の視線も逃さずキャッチするという噂だ。映画の宣伝のためとはいえ共演した俳優との密会写真でも試写会の会場に現れる姿でも肝心なところが見えそうで見えない大胆な服を着ていることが多い。


「うーん困ったな。次回作のスポンサーとしては煽てるべきなんだろうが俺の演技じゃ見破られるな。仕方が無い本当のことを言うか。軽蔑しないでくれよ。」


「軽蔑なんて。ねえトモくん。」


「えっ。まあ・・・。」


 トモヒロくんの視線が泳ぐ。乳白色の湯の中で2人は密着し続けている。男としては不埒なことを考えていても仕方が無いだろう。


「・・・男の娘で、山田社長のミニチュアと呼ばれているトモくんでコレなのに。」


 心底楽しそうな志保さんに言うのは気が引けるな。


「こうやって、目の前に輪っかを作ると眼は望遠機能を持つというのは結構知られた事実だ。」


 俺は両手で筒状の輪を作ってみせる。


「そうですね。」


「反対に考えれば眼は広角機能を持つのだよ。人間は相手の片方の目を見ただけで右目と左目の焦点の合う位置を自動的に計算しているんだ。女性は男性から胸を見られていると本能的に解っているというが実は科学的根拠に基づいた行動なんだ。」


「えっ。そうなんですか?」


 志保さんに向けて言ったつもりだったのだがトモヒロくんから返答があった。心当たりがあるらしい。


「トモヒロくんはどういう風に感じるんだい?」


 知識としてはあるが女性に直接聞いたことは無い。視線を集めるという意味では女性であるトモヒロくんの意見も大変参考になるだろう。


「左胸と右胸の間、豊満な胸を持つ女性だったら谷間がある部分が冷たく感じるんです。」


 トモヒロくんが自分の胸を指で示す。過去に経験したことがあるらしい。身に着けている衣装によってはそこに膨らみがあるかのように見えるのだろう。むしろ視線に対する意識付けは志保さんから教わったことなのかもしれない。


「ほお。尚更、気をつけなくてはいけないな。・・・だから広角・・・つまり右目と左目の焦点をズラした状態を維持することが出来るのだよ。例えば俺は利き目は右目だが志保さんには左目が近い。近い左目の動きや視点から焦点を計算すると右目で見ているところとは別の場所を指し示すことになる。」


「本当にそんなことが出来るんですか?」


「ああ訓練すれば出来る。もちろんポーカーフェイスも必要だがこれも訓練次第だ。」


 俺の子供のころ、全く意味の無いドット絵が焦点をズラしていくに従ってハッキリくっきりした絵になるものが流行っていた。たしか専用の絵本も出回っていたはずだ。


「と・・・いうことは、山田社長にガン見されていたも同然だった・・・んですね。・・・っ。」


 志保さんが真っ赤な顔になる。頭も湯舟に沈み込みブクブクと息を吐いている。


「はは。『西九条れいな』もそんな顔をするんだね。」


 普段からそんな顔を見せれば芸能界での反発も少ないだろうに、まあ大きなお世話かもしれないがな。

ここで出した視線の感じ方は人それぞれかもしれません。

私が感じた視線はこんな感じ・・・というだけです。男性の皆さま。お気を付けあそばせ(笑

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